育児支援

「育児と仕事の両立」を支える「ヘルプチーム」を結成 有名マンガアプリを手がけるand factoryの育児支援

最終更新日:2025.06.06
「育児と仕事の両立」を支える「ヘルプチーム」を結成 有名マンガアプリを手がけるand factoryの育児支援

集英社のマンガアプリ「ヤンジャン!」や「マンガMee」、Pontaポイントを使ってマンガが読める「Pontaマンガ」などのマンガ事業を中心に、占いアプリの開発・運営や宿泊施設「&AND HOSTEL(アンドホステル)」の企画・運営も展開するand factory(アンドファクトリー、東京都目黒区)。

13名のデザイナーが所属しており、そのうち4名の女性、1名の男性が育児中だ。同社では、プロダクトを横断してクリエイティブ業務を遂行する「ヘルプチーム」やスキル習得等を目的とした「部活動」を通じて、育児と仕事を両立しやすい環境を築いているという。

どのような取り組みによって、働きやすい環境を作っているのか。デザインセクションに所属する4名(ヤン・スンヒさん、南光太朗さん、石田幸穂さん、佐藤稔理さん)に取材した。

育児休暇から復帰した社員が感じた「課題」

2014年に創業し、「マンガ事業部」「エンタテインメント事業部」「RET(不動産)事業部」の3つの事業部を持つand factory。メインとなるのはマンガ事業部で、集英社、スクウェア・エニックス、小学館など大手企業のマンガアプリの開発・運営を多く手がけている。

「当社は2017年からマンガアプリの開発に携わり、高精度のグラフィック制作やUI・UXの分析などを強みとしています。1つのプロダクトを最大2名のデザイナーが担当する少数体制で、迅速な改善も武器の一つです。マンガ以外に占いアプリやホステル事業があり、業種を超えてコラボを行うこともあります」(セクションマネージャー・ヤンさん)

3つの事業部があり、13名のデザイナーが所属している(アンドファクトリー提供)

マンガアプリの開発・運営は、コンサルを担えるほどノウハウを溜めている(アンドファクトリー提供)

2025年5月時点で13名のデザイナーが所属しており、そのうち育児と仕事を両立する社員が5名いる。今では育児中の社員をフォローしやすい体制があるが、社員が初めて産休・育休を取得した2019年当時は体制が十分に整っておらず、課題を痛感したという。

「1年間の育休の間に、ツールのアップデートやトレンドの移り変わり、彼女が在籍していたチームのメンバー変更などがありました。さらに、後任として採用されたデザイナーがいるため以前の担当業務を継続するのは難しい状態。そうした環境のなか、彼女は『復帰してうまくやれるだろうか』と不安を感じたそうです」(セクションマネージャー・ヤンさん)

実際、復帰後は仕事になじむまで苦労があったそうだ。そうした課題を受け止め、アンドファクトリーでは、育児と仕事を両立する社員のサポート体制を強化しようと動き始めた。

プロダクトを横断して働く「ヘルプチーム」が誕生

そんな矢先、2022年に2名の女性デザイナーが同時期に産休・育休に入ることになった。そして、2名が休暇を取得していた2023年12月に創設されたのが、デザイナーの発案で生まれた「ヘルプチーム」だ。

プロダクトを横断して柔軟にクリエイティブ業務を遂行するヘルプチームには、育休から復帰して9時-17時で時短勤務をする石田さんと、フルタイムで働くもう1名が配属された。復帰にあたり、石田さんが安心して業務を担えるよう、ヤンさんは事前の面談を通じて育児との両立における不安要素や理想の働き方を本人にヒアリング。その結果、石田さんのヘルプチーム配属を決定したという。

現状、ヘルプチームはバナーやLPなどの「ビジュアルデザイン」をメインとしており、クライアントとのやり取りやUI・UXデザインは担っていない。

育休から復帰して「ヘルプチーム」で働く石田幸穂さん(筆者撮影)

「プロダクトの進行管理やクリエイティブ関連は、メインデザイナーが担当しています。ヘルプチームは、各プロダクトのメインデザイナーから依頼された業務を2人で割り振って遂行します」(ヘルプチーム・石田さん)

1週間に1度、メインデザイナーとヘルプチームでミーティングを行い、必要なタスクを洗い出し、業務量やスケジュールを調整している。ヘルプチームが担当する業務は、急きょ発生したキャンペーンやマンガの新連載などに付随する「差し込み案件」、あるいは差し込み案件によって遅れが発生しそうな通常業務が多いという。

ヘルプチームが担当したビジュアルデザイン(アンドファクトリー提供)

ヘルプチームのタスクは、このように管理している(アンドファクトリー提供)

ヘルプチームの誕生によって、メインデザイナーの働き方はどう変わったのか。

「私は『ヤンジャン!』をサブの社員と2名で担当していて、これまで差し込み案件はサブの方にお願いするしかありませんでした。ですが、ヘルプチームができてからは依頼がしやすくなり、精神的な負担が軽くなりました。スケジュールに余裕ができたことで品質も向上しています」(メインデザイナー・佐藤さん)

メインデザイナーの佐藤さんは2児の父であり、第二子の誕生後、2025年3月に1ヵ月の育休を取得した。その際、安心して休むことができたのも、以前から『ヤンジャン!』の業務に関わっていたヘルプチームの存在があったからだという。

2児の父でメインデザイナーとして働く佐藤稔理さん(筆者撮影)

ヘルプチームとして働く石田さん自身も、「育児と仕事を両立しやすく、ありがたい」と話す。

「複数のプロダクトに携わるので慣れるまでは数をこなす必要がありますが、スケジュールに余裕のあるタスクが多いので、落ち着いて業務できています。子どもの発熱等で急な休みが発生することもありますが、それでも締め切りに追われることが少なく、非常に助かっています」(ヘルプチーム・石田さん)

加えて、フレックスタイム制とリモートワークも育児と仕事の両立に大いに役立っているという。

「現在、出社は週1回で、それ以外はリモートワークです。往復の通勤時間がかからないため、子どもを保育園に送った後、すぐに業務を開始できるのがいいですね。出社日は出勤を1時間遅らせて、不足した分を別の日に補えるフレックスタイム制にも助けられています」(ヘルプチーム・石田さん)

スキルアップや業務効率化に貢献する「部活動」も

ヘルプチームと同時期に開始した「部活動」もまた、育児と仕事の両立に役立っている。

「コロナ禍をきっかけに出社からリモートワークに切り替えたのですが、全体的にコミュニケーションが減っているのが課題でした。そこで、デザイナーだけが所属する『部活動』を通じて、コミュニケーションの促進、スキルアップ、業務効率化を図りたいと考えました」(テックリードデザイナー・南さん)

現在、「素材部」「印刷部」「お絵かき部」「図書部」「ロゴ部」「アイコン部」「動画部」「Notion部」があり、多くのメンバーが複数に入部している。週1回〜月1回の頻度で、基本的に業務時間内の活動となる。活動内容は各部に委ねられているが、勉強するだけではモチベーションが上がりづらいため、なるべく実務に活かせる活動を意識しているという。

「素材部」では、配色やレイヤースタイルをクラウドにまとめて共有(アンドファクトリー提供)

例えば、素材部ではこれまでに制作した配色やレイヤースタイルをクラウドに保存して、会社の資産として使えるようにした。多くのメンバーが利用して、業務効率化につながっているそうだ。

「ロゴ部」は10周年記念のロゴを、「動画部」は関連動画を作成した(アンドファクトリー提供)

また、アンドファクトリーの10周年イベントを実施するにあたっては、イベントのロゴを「ロゴ部」が、関連動画を「動画部」が作成した。

「素材などがまとまって使いやすくなったほか、困ったときに誰に相談すればいいかが明確になったのもメリットです。例えば、印刷部は印刷業界から転職してきたメンバーが中心で、印刷関係の知識を共有してくれます」(ヘルプチーム・石田さん)

「新たな部活動の創設も可能なので、私は3D部を作りたいなと考えています。こうした自己研鑽が業務内の時間でできる体制は理想的ですね」(メインデザイナー・佐藤さん)

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デザイナーの「理想的な働き方」を今後も追求

数年の歳月を経て、育児と仕事を両立しやすい体制づくりを進めてきたアンドファクトリー。フォロー体制が手薄だった6年前と比較して、事業成長を維持しながら社員が働きやすい環境が整いつつある。さらに改善するには、どんな取り組みが求められるのか。

「差し込み案件にも対応しながら、メンバーが働き方を柔軟に選びやすい体制は整ってきていると思います。ただ、ヘルプチームの業務が『ビジュアルデザイン』に集中していて、『UIデザイン』に携われていないことは課題です。スキルのかたよりが出てしまいますし、UIデザインに携わりたいデザイナーにとっては、やりがいに欠ける可能性もあります。

ただ、UIデザインを担当するとなると、クライアントと密に連携して進行管理を行いながら、アプリ全体の仕様やデザインも把握しなければなりません。そうした業務特性を踏まえると、UIデザインの一部分だけをヘルプチームが担当するのが難しいんです。ただ、今後は改善していけたらと考えています」(セクションマネージャー・ヤンさん)

「ヘルプチームとして今取り組んでいるのは、『工数の可視化』です。ヘルプチームに業務を依頼できるとはいえ、複雑な案件だと振りたいけれど振りづらい側面があり、結果的にメインデザイナーが抱えてしまうことがあります。そこで、ヘルプチームが各アプリのマニュアルを十分に把握し、かつ工数を可視化することで、複雑な案件も対応できるように改善していきたいですね」(ヘルプチーム・石田さん)

フォロー体制が整いつつある今、さらなる効率化や多様なキャリアパスを目指す(筆者撮影)

最後に、デザイナーとしての「理想的な働き方」を聞いた。

「育児と両立しているため残業ができず、あふれた業務をメンバーにお願いすることがあります。みなさん快くサポートしてくれますが、やっぱり申し訳ない気持ちがあります。効率化やスケジュール管理をより工夫して、プライベートも大事にしながら各自が望むキャリアを築いていけたらと思います」(ヘルプチーム・石田さん)

「私はアンドファクトリーが3社目なのですが、今までは業務外の時間を使って自己研鑽していたので、現在の環境はかなり理想的だなと感じます。この環境を活かして各々がよりスキルアップしていけたら、組織のパワーアップにつながると思います」(メインデザイナー・佐藤さん)

「自身の成長に加えて、チーム全体を良くしていく視点も大事だろうと考えます。実際、『ヘルプチーム』や『部活動』が現場デザイナーの発案で生まれていて、こうしたボトムアップの状態はとても良いなと。こうした視点を持ちながら、より強いチームを作っていきたいですね」(テックリードデザイナー・南さん)

「各々のデザイナーの強みを活かした『新たなキャリアパスの仕組み』があれば、理想に近づくと思います。これまで当社では、デザイナーとして実績を積んだ後はアートディレクターに昇進する道しかありませんでした。今後は、多様なキャリアパスを構築できる環境を提供したいと考えています」(セクションマネージャー・ヤンさん)

アンドファクトリーでは、仕組みづくりに加えて、生成AIの導入や関連ワークショップの開催などテクノロジーによる効率化も図っているという。デザインにおける単純作業の自動化などが進めば、今よりも理想的な環境に近づくはずだ。

育児支援
チームワーク
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。

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