
タイポグラフィとは?「読ませる文字」と「伝える文字」
タイポグラフィとは、文字の種類や太さ、文章のレイアウトなどを整えることで文字を読みやすくしたりメッセージを伝えやすくするデザインの技術・分野です。デザイン業務において、タイポグラフィには大きく2つの種類があり、一つは「読ませる文字」もう一つが「伝える文字」です。Webサイトの本文など、読みやすくするための技術によって調整された文字が「読ませる文字」です。一方、広告デザインなどのメッセージを伝えるためにデザイン性を重視して使われる文字が「伝える文字」です。伝える文字の例としては、Nikeのスローガンである「Just Do It.」などをイメージするとわかりやすいかと思います。

Nikeの「Just Do It.」が細いフォントで表現されていたら?

タイポグラフィは、グラフィックデザインの4大要素「レイアウト・色・文字・形」の一つである「文字」の表現に関する技術です。色にそれぞれ特徴があるのと同様、タイプフェイスにもそれぞれ独自の個性があり、使うタイプフェイスの種類や大きさによってデザインが受け手に与えるメッセージは大きく変化します。Nikeの「Just Do It.」が細いセリフ体のフォントで表現されていたら、今のよ うな力強いメッセージ性を持つことはなかったでしょう。このように、受け手に正しいメッセージを伝えることは、デザインの最も重要な役割です。タイポグラフィは、そんなデザインの良し悪しに影響する重要な技術なのです。
「タイポグラフィ」「タイプフェイス」「フォント」それぞれの定義と違い

タイポグラフィ、タイプフェイス(書体)、フォントは違いが分かりにくい言葉ですね。なんとなく同じような意味合いで使われている場合も多いと思います。ここでは、タイポグラフィについて解説するにあたって、一度それぞれの言葉の意味を整理したいと思います。
まず、「タイポグラフィ」は前述の通り「文字のデザイン」という技術や分野のことを表します。フォトグラフィ(Photography)が「写真術」であることを考えると、タイポグラフィが文字デザインの技術であることがわかりやすいと思います。
一方、「タイプフェイス」はHelveticaやFuturaなどの特定の文字デザインのことを指します。一般的には、「フォント」も同じ意味で使われることが多いですね。
しかし、「フォント」とは、正確にはタイプフェイスのバリエーションのことを指します。例えば、Helvetica LightとHelvetica Boldは同じタイプフェイスを使った別のフォントです。コンピューターを使ったデザイン制作が主流となった今では、タイプフェイスの「スタイ ル変更」といった形で文字の太さを変更することがほとんどであるため、LightとBoldが別のフォントであることを意識する必要はなく、なんとなく文字の種類を指して「フォント」と呼ぶことが多くなっています。
タイプ = 文字
タイポグラフィ = 文字のデザイン、文字を使ったデザイン
タイプフェイス = 特定種類の文字デザイン
フォント = タイプフェイスのスタイルごとのセットやファイル。
デジタルデザインの分野でタイプフェイスのスタイルによるフォントの違いを意識するのは、プロダクトで使うフォントの容量を気にするときくらいでしょうか。例えば、iOSアプリやWebサイトで使う文字のスタイルが一つ増えると、1フォント分丸ごとユーザーに配信する必要が出てくるため、アプリのサイズやWebサイトの通信量が一気に増えてしまいます。そのため、デジタルデザインにおいては使用するスタイ ルの数には注意が必要な場合があります。ちなみに、フォントの「サブセット化」といって、フォントの中から実際に使う文字のみを抽出して、新しいフォントファイルを作ることでファイルの容量を下げるという手法もあります。しかし、これも使う文字が日々変化するデジタルデザインの世界ではなかなか運用が難しい選択肢です。
タイプフェイスの構成要素をわかりやすく図解

タイプの各部位の名前とセリフ(ひげ飾り)の種類
タイプフェイス自体をデザインしているわけでなければ、それぞれの文字の部位の名前を意識することはあまりなさそうです。ここで覚えておくと良さそうなのはセリフくらいかもしれません。セリフとは、文字の書き始めや書き終わりに付けるひげ飾りのことです。古代ローマ時代の碑文に記されているアルファベットから存在しているもので、文字の視認性や可読性を高めることから、紙媒体では現代のタイプフェイスにも使用されています。このセリフには大きく3種類あることを覚えておくと、タイプフェイスを見分ける際に役立ちます。

ブラケットセリフ(bracketed serif)
三角形の形をしたセリフ。Garamondなど。
ヘアラインセリフ(hairline serif)
極端に細い線を使ったセリフ。Didotなど。
スラブセフリフ(slab serif)
太く角ばっ たブロック状のセリフ。Rockwellなど。
タイプの基準となる3つの横線
タイプファイスの構成を統一するために、タイプには基準となる横線があります。まず、全アルファベットの高さの基準となる文字が「x」です。このxの高さを「エックスハイト(x-height)」と呼びます。「a」や「c」なども同じ高さですね。
ミーンライン(Mean line)

この「x」の上端の線を「ミーンライン(mean line)」といいます。
ベースライン(Baseline)

同じく「x」の下端の線を「ベースライン(baseline)」といいます。
アセンダライン(Ascender line)

アルファベットには、「x」よりも上に突き抜けるサイズのものがありますね。「b・d・h」などです。この突き抜けた部分のことを、「アセンダ(ascender)」といいます。そして、このアセンダの上端がアルファベットの中でも一番高い位置となる「アセンダライン(ascender line)」です。
ディセンダライン(Descender line)

同様に、アルファベットには下方向に伸びるものもあります。「g・j・y」などですね。この下に伸びる部分を「ディセンダ(descender)」といい、ディセンダの下端がアルファベットの一番低い位置を示す「ディセンダライン(descender line)」となります。タイプフェイスにおいて、アセンダラインが最上部、ディセンダラインが最下部です。そして、フォントサイズとは、このアセンダラインからディセンダラインの距離のことを指すのです。
欧文タイプフェイス5分類の用途や歴史的背景を解説
欧文タイプフェイスには主に5種類あります。それぞれ意図された用途や歴史的背景があるため、タイプフェイスの種類を学ぶと、目的に合わせてフォントを選ぶ際に大いに役立ちます。
『セリフ体』伝統的な印象を与えるセリフ体とその4つのバリエーション
セリフ体(serif)は、文字の書き始めや書き終わりに付けるひげ飾りである「セリフ」が付いたタイプフェイスの総称です。最も古くから存在するタイプフェイスであり、主に紙媒体での本文や見出しに使われることが多いです。小さいサイズにするとすると視認性が悪くなることから、デジタル媒体での本文に使われることは少ないですが、格式の高ささ伝統を表現するようなケースではデジタル媒体での使用も散見されます。New York Timesのオンライン版は現在でも本文にセリフ体を使っていますね。
1. オールドスタイルセリフ(old style serif)
