カスタマージャーニーとは?

カスタマージャーニーとは、直訳すると「顧客の旅」という意味で、「顧客のサービス体験」を旅に模して表現したものです。カスタマージャーニーは、時系列にサービスとの出会いから利用時の体験、利用後の感情の変化などを理解するために役立ち、主に「カスタマージャーニーマップ」という形で視覚化されます。カスタマージャーニーマップとして顧客の体験を視覚化する際には、顧客の「行動」と共にその「心理」が表現されていることが重要で、これによりプロダクトチーム内でのユーザー理解や施策を考える際の指標として役立ちます。
カスタマージャーニーを把握する方法

サービスやプロダクトにおける、現状のカスタマージャーニを把握するためには、定性分析であるユーザーインタビューが主に用いられます。ここでは、さらに踏み込んで定性分析を組み合わせてカスタマージャーニーをより正確なものにしていく手法も紹介します。
1. ユーザーインタビューにてユーザーの「なぜ」に迫る
ユーザーインタビューにおける最も大きなメリットは、ユーザーの「 なぜ?」を深掘りできることです。カスタマージャーニーにおいては、ユーザーの行動と共にその心理状態が重要となるため、ユーザーインタビューにて、定量分析ではわからないような、ユーザーの行動と心理の因果関係を分析することがカスタマージャーニーを把握するために役立ちます。具体的には、
どのような期待を持ってサービスに流入したか?
サービスを使っている間、どのような感情を抱いているか?
サービスを使った後、どのように感じたか?
サービスを通して感じた最も大きな価値は何か?
といった点に着目し、実際にサービスを使ってもらいながらその行動を観察します。ユーザーインタビューの効果的な実施方法については、別の記事で詳しく紹介していますので、ぜひそちらも参考にしてみて下さい。
2. 行動データ分析で統計的な重要性を検証
ユーザーの行動データ分析は、ユーザーインタビューを通して把握したカスタマージャーニーに定量的な裏付けをするために役立ちます。例えばインタビューを通して、ECサイトにおける「商品購入」までのカスタマージャーニーの中で、多くのユーザーが「商品購入」の前に「お気に入り機能」を利用していることがわかったとします。しかし、数名のインタビューの結果だけでは「お気に入り機能」と「商品購入」の因果関係を証明することはできません。そこで、ユーザーの行動データ分析を用いて、サービス全体としても「お気に入り機能を利用したユーザーは、同機能を利用していないユーザーよりも購入率が高いのか?」といった定量的な分析を行うことが求められます。定量的な分析においても、ユーザーインタビューにて得たインサイトの因果関係を裏付けることができれば、そのユーザー行動はカスタマージャーニーにおいて重要なステップであるということができます。
他にも、行動データの分析はユーザーインタビューを通して把握したユーザーセグメントの評価にも役立ちます。例えば、ユーザーインタビューを通して大きく3つのユーザーセグメントが存在しそうということがわかったとします。行動データ分析を用いることで、この3種類のユーザーセグメントがそれぞれサービス内にどのような割合で存在し、それぞれの売上への貢献度はどの程度なのかということを把握することができます。このようにサービス内の重要な ユーザーセグメントを定量的に把握することで、何種類のペルソナとカスタマージャーニーマップを作る必要があるのかといったことが明確になります。
カスタマージャーニーマップとは?リサーチにて把握したユーザー行動を「可視化」するためのツール

カスタマージャーニーマップとは、顧客のサービス体験を時系列に表現したもので、サービス体験の重要なポイントやボトルネック、あるべき未来像を視覚化するために役立つ手法です。カスタマージャーニーマップの大きなメリットは、ユーザー体験を一枚の資料にまとめることで、チーム内外での共有や振り返りが行いやすくなるという点にあります。しかしながら、カスタマージャーニーマップはその作り方や内容によってサービス改善の強力なツールにも、役に立たない成果物にもなり得ます。ここでは、カスタマージャーニーマップの基本的な作り方から、効果的なカスタマージャーニーマップを作るためのポイントまで紹介していきます。
カスタマージャーニーマップの種類。As-IsとTo-Beとは?

前提として、カスタマージャーニーマップには大きく2種類存在し、サービスの現状のユーザー体験を反映した「As-Is カスタマージャーニーマップ」と、サービスの理想像を表現した「To-Be カスタマージャーニーマップ」があります。基本的には、まずサービスの現状把握や競合サービスを理解するために、As-Is カスタマージャーニーマップを作ることが多いです。To-Beカスタマージャーニーマップに関しては、現状の課題やユーザーの悩みに対して、どのような体験を提供することで解決するこ とができるかという「あるべき姿」を表現する目的で利用されます。2種類あるというとややこしく感じますが、UXデザインの実務上ではほとんどの場合As-Is カスタマージャーニーマップを効果的に作ることが重要なポイントとなります。To-Be カスタマージャーニーマップを作るとしても、その前提となるAs-Is カスタマージャーニーマップで重要なインサイトが得られていれば、自然と論理的な未来像を導き出すことができるようになります。
カスタマージャーニーマップの構成
カスタマージャーニーマップには、決まった一つのフォーマットがあるわけではありません。簡易化したものや詳細なものまで、目的に合わせてフォーマットを変えて作ることができます。そんな中でも、一般的に押さえておきたい項目を網羅したフォーマットを以下に紹介しますので、まずはこのフォーマットで初めてみてはいかがでしょうか?

このフォーマットで重要となるのは、カスタマージャーニーマップの中心である
タッチポイント
ユーザー行動
ユーザー心理
の3つです。この3項目はどのようなフォーマットでも見かける項目かと思います。場合によっては、「ユーザー心理」を細かく「思考、感情、疑問」といったように分けているような場合も見受けられます。ここでは、「動機」「期待」「反応」「疑問」をまとめてユーザーの心理としてこちらの項目に記載します。ステージの項目は、カスタマージャーニーマップの粒度や目的に合わせて埋めていくと良いでしょう。具体的には、モバイルアプリの全体フロー改善を目的としている場合は、AARRRファネルをステップとして利用したり、ECサイトであれば購買行動プロセスのAIDMAをステップ内容として取り入れる場合が多いです。カスタマージャーニーの特定の部分に特化してマップを作る場合は、具体的なサービスの内容に合わせてカスタマイズしても良いでしょう。そして、「課題」の項目にはリサーチを通して浮かび上がったサービスの課題を、「その他」は備考としてメモ内容を書き込みます。
カスタマージャーニーマップの作り方

では、実際にカスタマージャーニーマップを作る際の手順をリサーチから最終的なマッピングまで通して見ていきましょう。
ステップ1:インタビューの設計・実施

まずは、定量データを集めるためのインタビューの設計を行います。この段階で、サービス内のユーザーのセグメントが明確になっている場合は、どのセグメントをターゲットとしてインタビューを行うかを決めて取り組むと良いでしょう。一般的には、サービスに強い興味を持っており、頻繁に利用しているユーザーを分析するとサービスの改善点が見つかりやすくなります。
インタビューの設計では、今回の調査の目的をもとに「仮説思考」で設問を考えていきます。仮説思考とは、コンサルティングの分野では広く知られた思考法で、まず仮説を打ち立て、それを検証していくという手法です。具体的には、
ユーザーはオンボーディング時にこう感じているのではないか?
ユーザーのサービス利用動機としてはこの3パターンがありそう
ユーザーが課金する理由は〜ではないか?
ユーザーは〜のステップで使い方を理解できていないのではないか?
といった仮説をリストアップしていきます。気になることを何となく質問するのではなく、調査の目的に関する仮説を先に考えることで、次のアクションにつながるようなインサイトを得やすくなります 。
ユーザーインタビューでは、インタビューの前半を「なぜサービスを利用しているのか?」「どのような点を魅力と感じているのか?」などといったサービス全体に関する質問に充て、後半では実際にサービス利用時の行動を観察することで、ユーザーの心理とサービス利用時の行動の繋がりを理解しやすくなります。
ステップ2:インタビューで得たデータの検証
次に、インタビューを通して得た情報の統計的な重要性や、全ユーザーに占める割合を定量データ分析を通して把握しましょう。例えば、インタビューにて「オンボーディング時にサービスの内容が理解できずに利用をやめる」というユーザーがいたとします。このユーザー体験が一般的に起こっているかどうかは、オンボーディングの通過率をデータで見ればすぐにわかります。ここでもし、オンボーディングからメイン画面に到達するまでに10%のユーザーが離脱しているなどといったデータが取れれば、「オンボーディングでのサービス内容説明不足」がユーザージャーニーにおける課題の一つとして検証されます。
このような情報は、一見定量データ分析だけでも導き出せそうですが、「なぜ離脱したか?」という理由を把握できるのはインタビューを通してのみです。そのため、インタビューを通してユーザー体験の概要を把握することが重要となるのです。
ステップ3:ユーザーセグメンテーション
10人 ~ 15人ほどインタビューを行っていくと、大体のユーザーのセグメントが見えてきます。ここでいうセグメントとは、ユーザージャーニーが似たユーザーのグループです。例えば、フードデリバリーのアプリであれば利用目的として、
時間がないから利用する
自炊が苦手だから利用する
レストランの食事が好きだから利用する
という3種類のユーザーがいることに気づくかもしれません。そして、それぞれサービスに期待することが異なるため、サービス利用時の行動や心理が大きく異なるかもしれません。ユーザージャーニーをまとめる際にはこれらのユーザーを全て一緒にしてしまうのではなく、別のペルソナとしてカスタマージャーニーマップを作成すると良いでしょう。
ステップ4:タッチポイントを時系列に並べる
次に、それまでのリサーチで分かったサービス内の主要なタッチポイント(ユーザーとサービスが触れ合う機会)をカスタマージャーニーマップ上に記載していきます。カスタマージャーニーマップでは、タッチポイントごとにユーザーの行動や心理を記載するため、この段階で重要なタッチポイントが漏れないように注意しましょう。また、モバイルアプリなどの場合アプリ内のタッチポイントにばかり注目してしまいがちですが、初めてアプリを知った時や、アプリストアでアプリをダウンロードする際などのサービス外でのタッチポイントも含めたUX全体を含めて考えると良いでしょう。
ステップ5:それぞれのタッチポイントにおける情報をマッピング
最後に、それぞれのタッチポイントに関連してリサーチで分かった、「ユーザー行動」「ユーザー心理」「課題」を書き込んでいきましょう。ここでは、カスタマージャーニーを作る「目的」を意識しながら、サービス改善に役立つような情報を 優先的に書き込むようにすると良いでしょう。
カスタマージャーニーが陥るアンチパターン

カスタマージャーニーマップを作るプロセスはとてもシンプルで、特に難しさは感じないかもしれません。しかし、効果的なカスタマージャーニーマップを作ることは意外と難しいものです。カスタマージャーニーマップは、シンプルに誰でも作れることがメリットである一方、目的を明確にして取り組まないと、マップ自体は完成するものの、何の役に立つのかいまいちわからないというような状況に陥ってしまいます。以下にカスタマージャーニーマップを作る際によく陥る間違いとしてアンチパターンを提示します。効果的ではないカスタマージャーニーマップは概ねこの4つのどれかになってしまっている場合が多いです。
カスタマーライフサイクルマップ
タッチポイントマップ
プロセスマップ
仮説マップ
アンチパターンその1:サービスの構造を視覚化しただけとなっている
「カスタマーライフサイクルマップ」、「タッチポイントマップ」、「プロセスマップ」はどれもサービスの流れを視覚化するために使われる手法です。サービスの構造を洗い出すためには有効な手段ですが、サービスの改善というUXデザインの目的を達成するためには限定的な役割しか持ちません。これらの手法に対して、カスタマージャーニーマップは、ユーザーの「行動心理」や「感情の変化」に着目してサービスの良い点・悪い点を視覚化します。これによって、ユーザーの抱える課題に対するより良い解決策や、より効果的なサービスフロー設計への道標という役割を果たします。
アンチパターンその2:想像に基づいて作ってしまっている
もう一つのよくある失敗が、ユーザーの行動やその心理についてサービス提供者側の「想像」に基づいて書き込まれているパターンです。このような方法でカスタマージャーニーマップを作ると、サービス提供者の仮説を表現した、「仮説マップ」のようなものとなります。もちろん、カスタマージャーニーを分析する上でもまず仮説を立てることは重要です。しかし、効果的なカスタマージャーニーマップを作るためには、最終的な内容が事実に基づいている必要があります。もし、作成したカスタマージャーニーマップに検証されていない仮説が残っている場合は、それぞれの仮説をインタビューやデータ分析を通して検証するようにしましょう。
効果的なカスタマージャーニーを作る際の重要なポイント

上記のアンチパターンを踏まえて、効果的なカスタマージャーニーマップを作る際のポイントは以下の2つです。つまり、効果的なカスタマージャーニーマップを作るためには、カスタマージャーニーのリサーチが最も重要であり、マップ自体は単なる成果物のフォーマットであるということがわかります。
カスタマージャーニーマップを作る目的を明確にする
データに基づいたカスタマージャーニーマップを作る
ユーザーの心理や感情の変化を記載する
カスタマージャーニーマップを作る目的を明確にする
目的を明確にするとはいえ、目的自体を間違って捉えてしまっては意味がありません。では、カスタマージャーニーマップを作る目的とは何でしょうか?一見、「 ユーザー体験を可視化すること」を目的として捉えてしまいそうですが、これはあくまでも「手段」です。この、可視化という手段を通して達成しようとしている本質的な「目的」は何でしょうか?カスタマージャーニーマップに取り組む際の目的としては、
サービス内のペインポイント改善
ユーザーの求めるサービスと現状のギャップの把握
ユーザーが課金する理由(心理)の分析
ターゲットユーザーが求めるサービスバリューの分析
など、より具体的なものを掲げて取り組むと良いでしょう。そして、カスタマージャーニーの分析から、マップの作成まで一貫してこの目的に沿っているかを意識しながら取り組むことで、目 的とするゴールに対してより多くの情報を提供してくれるマップが完成するでしょう。この大きな目的を忘れてしまうと、サービスの改善とはあまり関係のない情報ばかりを書き込んだマップとなり、前項で紹介したような「サービスの構造を視覚化」しただけのマップとなってしまいます。
データに基づいたカスタマージャーニーマップを作る
データに基づくとは、簡単に言い換えると「事実のみ書き込む」ということです。「カスタマージャーニーを把握する方法」で紹介したユーザーインタビューと行動データの分析に基づいて、仮説ではなく検証された事実としてユーザー体験の流れを書き込みましょう。
ユーザーの心理や感情の変化を記載する
ユーザーの行動パターンのみを可視化するのであれば、定量的なデータのみ利用してユーザーフローマップを作ることで事足ります。しかし、カスタマージャーニーマップではインタビューを通して得たユーザーの「なぜ」が記載されていることで、それに対するアクションプランの策定に大きなインサイトを与えてくれます。
それぞれのサービスとのタッチポイントでユーザーがどのように感じているか?
ユーザーは期待した価値を得られているのか?
ユーザーはなぜお金を払おうと思ったのか?
といった行動心理を記載することで、改善アクションとしてもユーザーの心理を捉えた施策を考案することができるようになります。このユーザー心理を的確に捉えられていることが、効果的なカスタマージャーニーマップにとって重要なポイントとなります。
カスタマージャーニーのテンプレート集
Miroのカスタマージャーニマップテンプレート
オンラインホワイトボードツールのMiroでは、すぐに使えるカスタマージャーニーマップのテンプレートを提供しています。それぞれの情報を付箋を貼っていく形で作れるため、紙の上で作業しているような感覚でカスタマージャーニーマップを作ることができます。

https://miro.com/templates/customer-journey-map/
FigJamのカスタマージャーニーマップテンプレート
FigJamのカスタマージャーニーマップテンプレートで、ステップに沿って作業を進める形でカスタマージャーニーマップを作ることができ ます。Miroと同じく、オンラインで複数人の共同作業ができるため、リモートワーク環境でもチームメンバーと共にカスタマージャーニーマップに取り組むことができます。

https://www.figma.com/templates/customer-journey-map/
まとめ
今回は、UXリサーチの中でも特に利用頻度の多いカスタマージャーニーの分析と効果的なカスタマージャーニーマップの作り方について紹介しました。一見すると簡単に作れてしまうカスタマージャーニーマップですが、しっかりとリサーチに基づいて作成することで何十倍もの効果を発揮するツールとなります。ぜひ、今回紹介したようなポイントを参考にデータに基づいたカスタマージャーニーマップを作成し、サービスの改善に役立ててみてください。