エッセイ

AIが「それっぽいデザイン」を出せる時代に、私が向き合ったふたつのこと

最終更新日:2026.03.31
AIが「それっぽいデザイン」を出せる時代に、私が向き合ったふたつのこと

デザイナーと調べると「仕事がなくなる」と出てくることに、焦りを感じていませんか?

インハウスデザイナーをしている佐々木と申します。 私は新卒でWebデザイナーとしてキャリアをスタートしました。客先常駐でページ制作やバナーデザインなど、Web業務を一貫して担当し、目の前の制作にひたすら向き合う日々。その中で、同じサイトを長く見続け、改善を積み重ねていくことに魅力を感じるようになり、「もっと主体的にプロダクトに関わりたい」と思うようになりました。

その気持ちのまま、私はインハウスデザイナーへ転職。現在は事業会社のIT部門で、複数事業部を横断したWebデザインやUX改善に取り組んでいます。20代の頃より視座が上がり、業務領域も広がりました。任されることが増えるのはありがたいことです。 ただ、30代になった今、胸のどこかに生まれた”静かな焦り”がなかなか消えてくれません。

この記事を書いたデザイナー
佐々木 知里

株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 UXデザイン部 課長。新卒からWebデザイナーとしてキャリアをスタートし、2021年にマイナビ入社。現在は複数サービスを横断したUI/UX改善やUXリサーチと部内でのリサーチ牽引に取り組む。

AIが進化するほど「自分の介在価値」が分からなくなる

ここ数年のAIの進化は、正直こわさを感じるほどです。デザイン案も文章も、改善アイデアすら、数秒で"それっぽい形"になる。誰でも気軽に生成できてしまう。そうなると、「デザイナーじゃなくてもいいのでは?」と考える人が現れるのも無理はありません。

実際、"デザイナーの介在価値"を本質的に理解してくれている人は、どれほどいるのだろう?そんな疑問が浮かんだとき、「自分が置いていかれる未来」が以前よりリアルに感じられました。

人にしかできないことって、なんだろう?

焦りを抱えたままでは何も変わらないと思い、私はAIと向き合ってみることにしました。 ちょうどその時、プロンプトを入力するだけでUI案やプロトタイプを生成できるAIデザイン生成ツールを所属プロジェクト内で試験的に導入することになり、じっくりと向き合うチャンスが訪れたのです。

実際に使ってみると、本当に数分でたたき台ができてしまうスピード感には驚きましたし、同時にデザイナーの介在価値が揺らいで見える瞬間があることも、改めて実感しました。

しかし、向き合っていくうちにだんだんと「今のAIの限界」も、再認識できたのです。 抽象的な指示だと想定と違うレイアウトが出てきたり、UIの整合性が取れていなかったり、なによりユーザーの背景を考えるとデザインとして違和感があったり。

結局、ユーザーに提示するプロトタイプとして使えるレベルに仕上げるには 補足指示を何度も出したり、レイアウトの意図を丁寧に説明したり、 それでも伝わらない場合は生成されたものを自分が手を動かして直す…といった作業が必要でした。 この体験を通して、AIは「形にする速さ」は持っていても、「背景を理解して最適なデザインを提供する力」はまだ弱い。そう思い直すことができました。

では改めて「人にしかできないこと」とは何でしょうか? その答えとして私が辿り着いたのは、ユーザーの背景や文脈を読み取り、対話を通して本質的な課題を見つけることでした。 以前から大切にしてきた姿勢でしたが、AIが作業の多くを担えるようになったことで、より“デザイナーの介在価値”として際立ってきたと感じたのです。 そこから私は、ユーザーとの対話を行うリサーチに、より力を入れようと決めました。

観察力を鍛える・小さな反応を見逃さない

具体的に意識したのは、これまでも大切にしてきた“観察”という姿勢を、より深めるようになったことです。ユーザーの回答をそのまま受け取らず、「この言葉の裏に何があるんだろう?」と自分の中で噛み砕き、すぐに次の問いを返す。インタビューガイドに沿って進めるのではなく、ユーザー自身に興味を向け、会話の流れを大事にする。

意識を強めたことで、ユーザーの一瞬の沈黙や迷い、表情の揺れなど非言語の情報にも敏感になりました。インタビューの質が明らかに変わり、現場の担当者からも「新しい視点に気付けた」と、ポジティブなフィードバックをもらえることが増えました。 AIにはまだ、こうした"揺らぎ"の読み取りは難しい。だからこそ、人が向き合う価値はここにあるのだと確信しました。

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改めて気付く、デザインへの向き合い方

この取り組みを続けるうちに、私の中で“デザインとの向き合い方”の整理ができてきました。UIの正しさや見た目の美しさに考えが向いてしまう時にも、「ユーザーはどんな文脈でそれを使い、なぜそう感じるのか」という背景の理解へ立ち返ることをより意識できるようになったのです。

デザインは"作る作業"ではなく、"ユーザーと一緒に解像度を高めていくプロセス"だと改めて感じ、AIへの焦りは薄れ、「自分にしかできない価値がある」と思えるようになりました。

AI時代でも手放したくないふたつのもの

AIがどれだけ進化しても、私が今後も手放したくないと感じている価値観があります。それは、ユーザーへの興味と表面的な改善に飛びつかない慎重さのふたつです。

まず、ユーザーへの興味。これはスキルというより姿勢に近いのですが、私にとってはデザインの出発点そのものです。 ユーザーインタビューをしていると、答えそのものよりも「なぜそう感じたのか?」という背景が見えてくる瞬間があります。 その背景にこそデザインのヒントが詰まっていて、興味を持って向き合わなければ見逃してしまう小さなサインがあります。 ユーザーの声は、その人の生活や価値観、これまでの経験が積み重なって生まれたものです。そこに好奇心を持ち続けられるかどうかで、デザインの質は大きく変わります。 そして、この興味はAIではまだ再現できない、人間ならではの直感や感性に基づくものだと感じています。

次に、表面的な改善に飛びつかない慎重さ。 デザインの現場では、目の前の課題にすぐ手を入れたくなる場面が多くあります。 「ボタンを大きくすればいい」「配置を変えればよさそう」…そんな判断は、AIも簡単に導き出すことができます。 しかし、本当に必要なのは「その違和感はどこから来ているのか」を丁寧に見極めることだと思っています。 ユーザーが迷う理由は見た目の問題ではなく、

  • そもそも目的が満たされていない

  • 文言の意図が伝わっていない

  • プロセスそのものがズレている

など、もっと根っこの部分にあることが少なくありません。

この慎重さを持てることが、私がAI時代でもデザイナーが価値を出していける理由のひとつだと思っています。

おわりに

AI時代の変化は速く、デザイナーの役割もこれからどんどん変わっていくでしょう。 それでも私は、"観察する力"だけは手放さずに、“デザイナーの介在価値”を伝えられる人でいたいと思っています。 焦りながらでも、上手く出来ない時があっても、時代の変化にあわせて“デザイナーの介在価値”を発揮していきたい。そして、同じように不安を抱える誰かへ「大丈夫、まだできることはある」と伝わる文章になっていたら嬉しいです。

エッセイ
AIキャリア
執筆佐々木 知里

株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 UXデザイン部 課長。新卒からWebデザイナーとしてキャリアをスタートし、2021年にマイナビ入社。現在は複数サービスを横断したUI/UX改善やUXリサーチと部内でのリサーチ牽引に取り組む。

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