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ゴールデンサークル理論とは?「なぜ」を語ることの重要性とブランディングへの活用

最終更新日:2024.08.19編集部
ゴールデンサークル理論とは?「なぜ」を語ることの重要性とブランディングへの活用

ゴールデンサークル理論とは?「なぜ」を語ることが人の行動を促す

ゴールデンサークル理論

ゴールデンサークル理論とは、物事を「Why(なぜ)」→「How(どうやって)」→「What(何が)」の順で語り、「何をするのか」よりも「なぜするのか」を優先して伝えることが聞き手の共感を生み、行動変容を促すという理論です。感情と行動を司る脳の部位が同じであることに基づいており、提唱者のSimon Sinek氏による2009年のTEDトークでは、Appleをはじめとしたイノベーションを起こす企業が共通して持つ特徴として紹介されました。

このSimon Sinek氏のTEDトークは、2024年現在6,500万回も再生されており、数あるTEDトークの中でも5番目の再生回数を誇ります。

ゴールデンサークル理論の概要

ゴールデンサークル理論は、人の行動を促すための「ものごとの語り方」に関する理論です。一般的に、人間が物事を説明する時には「何を(What)」「どのように(How)」「なぜ(Why)」の順番で語られますよね。日常会話でも、「何をしているか」の説明をすることは多くあっても「なぜそれをしているか」について話すことは少ないと思います。このような一般的な人間の話し方に対して、企業や政治家など、人の共感を集め、人の行動を促す必要のある組織は、逆の順序である「なぜ(Why)」「どのように(How)」「何を(What)」でメッセージを伝えると良いというのが、ゴールデンサークル理論の主張です。

実際のところ、企業活動において「何をしているか」を先に語る企業は多いですが、「なぜそれをしているか」を先に語る企業は少ないです。ゴールデンサークル理論において、Simon Sinek氏はこの「なぜそれをしているか」を先に語る企業こそが消費者や従業員の共感を呼び、成果を上げると説いています。例として、デザイナーの雇用を考えている企業がゴールデンサークル理論に沿って企業説明をするとこうなります。

  1. Why: デジタルイノベーションを通して、エコフレンドリーな社会を実現したいです。

  2. How: そのために、まずは紙の消費量を削減するための試みを行なっています。

  3. What: その一環として、電子契約のプラットフォームを構築しています。UIデザイナーとして働いてみませんか?

どうですか?いきなり「電子契約のプラットフォームを構築している会社で働きませんか?」と言われるよりも共感しやすいですね。この「なぜ」を伝えることの重要性がゴールデンサークル理論の主張です。

ゴールデンサークル理論の生物学的根拠

人間の脳の構造

TEDトークの中で、Simon Sinek氏はこのゴールデンサークル理論は生物学的にも理にかなっていると述べています。人間の脳は大きく2層構造になっていて、外側に論理的・分析的思考を担当する「大脳新皮質」が、内側に感情と行動を担当する「大脳辺縁系」が存在します。ここで重要なポイントは、人間の「行動」を決定するのが後者の「大脳辺縁系」であるという点です。

電話にて「インターネットの料金が安くなるお得なプランがありますよ」なんてセールスを受けたことがあるでしょうか?いかに新しいプランがお得かをたくさん説明された後に、「メリットが沢山あることはわかったけど、なんとなく買いたいとは思わない」と思ったことはありませんか?これは、メリットの説明を処理する「大脳新皮質」に行動の決定権がないことが原因です。ゴールデンサークル理論では、「なぜ」を全面的に説明することで、感情と行動を担当する「大脳辺縁系」に直接訴えかけることができ、人の行動を動かすのです。

ゴールデンサークル理論の事例

Simon Sinek氏はこの「なぜ」を押し出すことが、企業活動にとって重要な影響を及ぼすとして、Appleの事例を紹介しています。ここでは、TEDトーク内で紹介されたAppleの事例と、日本にて「なぜ」に基づいた求人を広めることで成功したWantedlyの事例を紹介します。

TEDトークで紹介されたAppleの事例

Think Different

https://medium.com/ad-discovery-and-creativity-lab/think-different-b566c2e6117f

TEDトークでは、ゴールデンサークル理論と同じように「なぜ」を語ることで成功した企業の例としてAppleの事例が紹介されています。Appleは同時期に同じようなコンピューターを作る会社が沢山あったにも関わらず、なぜ突出した成功を収めているのでしょうか?Appleが語る「なぜ」はこの2つです。

  1. 世界を変える(Challenge the status quo

  2. 固定概念をなくす(Think Different

「この理念を追求した結果、iPhoneやMacbookといった商品を作ることになりました。欲しいですか?」というのがブランディング、そしてマーケティングにおけるAppleの語り方です。iPhoneを売っているというのは、「何を」に該当しますが、Appleにとっては何をするかではなく、なぜそれをしているのかの方が重要なのです。このような姿勢が消費者や求職者の「共感」を呼び、Appleの企業としての成長につながったのです。

他の企業にも「なぜ」を語らせたWantedlyの事例

Wantedly

https://en-jp.wantedly.com/

Wantedlyはゴールデンサークル理論をそのビジネスモデルに反映して成功した企業です。企業と求職者のマッチングサービスであるWantedlyは、「求人情報に給与・待遇を記載できない」という一風変わった制限を求人募集企業に設けています。Wantedlyの企業紹介では、企業は給与・待遇の代わりに企業のビジョンやミッションを語ります。これは、企業に「なぜ」を語らせることが結果的に企業と求職者の良いマッチングを生み出すという考えに基づいたものであることがわかります。これによって、給与面などで優秀な人材を集めることが難しいスタートアップ企業などでも、企業理念に共感した求職者を採用することができるなど多くのメリットをもたらしました。Simon Sinek氏もTEDトークの中で、

Quote

仕事が欲しい人を雇うのではなく、ビジョンを共有する人を雇うことが重要だ

https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_action

と述べているように、採用活動においてもゴールデンサークル理論は重要な意味を持ちます。

「なぜ(Why)」は共感を呼ぶ: ゴールデンサークル理論のブランディングへの活用

ゴールデンサークル理論は、マーケティング、営業、採用活動など多くの分野で役に立つ理論です。ここでは、これら全ての基礎となる「ブランディング」という側面からゴールデンサークルの活用法を解説します。前述した「なぜ(Why)」「どのように(How)」「何を(What)」を企業活動に当てはめると、

  • なぜ = ビジョン・ミッション

  • どのように = ビジネスモデル

  • 何を = 商品・サービス

となります。つまり、マーケティングや営業、採用活動において始めに語られるべきなのが、ブランドやコーポレートアイデンティティの根幹となる「ビジョン・ミッション」です。「企業のビジョン・ミッションを多方向に語ることが企業の成功につながる」というゴールデンサークル理論は、ぜひ組織内で共有しておきたい考え方です。また、ビジョンとミッションが語られることで、人の行動を促すという側面を見ると、ビジョン・ミッションは「わかりやすい」に越したことはありませんね。コーポレートアイデンティティを考える際には、つい難しい言葉を使いたくなってしまいますが、「伝わる」ことが何より重要となるビジョン・ミッションはできるだけわかりやすいものにすると良いでしょう。

ゴールデンサークル理論のワークショップやプレゼンテーションへの応用

ゴールデンサークル理論は、主に企業活動や政治活動などを例として解説されますが、この理論の重要なポイントは、「行動の背景にある動機に共感させると人を動かせる」という点です。これを応用すると、普段の業務でも多いに役立つシーンがありそうです。

ワークショップを開催したことはありますか?開催したことはなくても参加したことがある人も多いと思います。このワークショップの運営でよくある課題に「参加者の注意を引きつけられない」というものがあります。ワークショップの参加者として、何をするワークショップなのかは理解しているけど「面白くない」という感想を持ったことがある人もいると思います。これは、ファシリテーターが「何をするか」ばかり説明してしまい、「なぜ」の説明が足りない場合に起こります。参加者が「なぜ」を理解しないと、共感や主体性が生まれず、全員がなんとなく作業をしているだけというようなワークショップとなってしまいます。ワークショップなど、多人数に何か行動をさせる必要がある場合には、参加者全員が「なぜ」を正しく理解していることを確かめた上で実施すると、成功しやすくなるでしょう。ワークショップのみならず、プレゼンテーションを行う際にも、大前提としてなぜそのプレゼンテーションを行なっているのか(プレゼンテーションの目的・ゴール)について、聞き手にしっかり共有しておくと、聞き手の注意を引きつけやすくなります。

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まとめ

今回は、企業活動の重要なヒントとなるゴールデンサークル理論について解説しました。ゴールデンサークル理論を提唱したSimon Sinek氏のTEDトークには日本語字幕版もありますので、ぜひ一度視聴してみてください。その理論の面白さのみならず、彼のプレゼンテーションスキルも素晴らしく、約18分の動画ですが、引き込まれるように見てしまう独特のリズムが魅力的です。

ゴールデンサークル理論に関するよくある質問

Qゴールデンサークル理論とは?

Aゴールデンサークル理論とは、「何をするのか」ではなく「なぜするのか」を語ることが共感を生み、人の行動を促すという理論です。Simon Sinek氏による2009年のTEDトークにて提唱された理論で、Appleをはじめとしたイノベーションを起こす企業が共通して持つ特徴として紹介されました。

Qゴールデンサークル理論の生物学的根拠は?

A人間の脳は大きく2層構造になっていて、外側に論理的・分析的思考を担当する「大脳新皮質」が、内側に感情と行動を担当する「大脳辺縁系」が存在します。ゴールデンサークル理論では、「なぜ」を全面的に説明することで、行動決定権を持たない「大脳新皮質」ではなく、感情と行動を担当する「大脳辺縁系」に直接訴えかけることができ、人の行動を動かすのです。

Qゴールデンサークル理論の具体例は?

AWantedlyはゴールデンサークル理論をそのビジネスモデルに反映して成功した企業です。企業と求職者のマッチングサービスであるWantedlyは、「求人情報に給与・待遇を記載できない」という一風変わった制限を求人募集企業に設けています。Wantedlyの企業紹介では、企業は給与・待遇の代わりに企業のビジョンやミッションを語ります。これは、企業に「なぜ」を語らせることが結果的に企業と求職者の良いマッチングを生み出すという考えに基づいたものであることがわかります。

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