
韓国ドラマを観ていると、オープニングのアニメーションやグラフィックに目が止まります。洗練されていて、毎話スキップしてしまうのがもったいなくなるほど。お隣の国で同じアジアとはいっても、日本のドラマに比べ韓国ドラマのグラフィックはかなり欧米に近く、さらに独自の表現を磨いていっているようです。背景を考察してみると、装丁や美術へのこだわり、「世界観」の徹底した抽象化の技術が見えてきました。
秀逸な韓国ドラマのオープニングアニメーション
韓国ドラマの中で、いくつか秀逸なグラフィックデザインだと感じたオープニング映像を引用して解説してみます。(以降の動画は、デザインしたUndesigned Museum公式から引用しています)
ヴィンチェンツォ
イタリア系韓国人でマフィアの弁護士・ヴィンチェンツォが、雑居ビルの地下にある金塊をめぐり、悪徳企業「バベル」と争いを繰り広げる『ヴィンチェンツォ』。オープニングアニメーションではダークヒーローものらしく、シルエット中心でノワール(犯罪)作品であることを例示しているかのようです。ビルを暗示する階段、イタリアっぽさが伝わるワイングラス、ホッケーマスクで黒幕の仄めかし……とストーリーの内容がうまく表されています。
スタートアップ:夢の扉
『スタートアップ:夢の扉』は少年・少女の頃に出会ったダルミ・インジェ・ジピョンの三人が、起業家の集まるイベントで再会、かつての文通相手だった(らしき)青年・ドサンとアプリ開発をしていくラブコメディ・人間ドラマです。
オープニング映像では、入り組む人間模様やパソコンやスマートフォン、半導体・集積回路でアプリ開発を示唆しつつ、物語の鍵を握る手紙や、インキュベーション団体「サンドボックス」の由来となったブランコなど象徴的なモチーフが詰まっています。
気象庁の人々: 社内恋愛は予測不能?!
『気象庁の人々: 社内恋愛は予測不能?!』は職場恋愛はしないと決めたチン・ハギョンが、勤務先の気象庁でまたイ・シウという年下の男性と恋に落ちていくラブコメディ。
オープニングは仕事場の卓上のサボテンやプリンター、キーボードの上を小さな男女のキャラクターが動いていく可愛らしい映像。
どことなくミニチュア写真家・見立て家の田中達也さんの作品を思わせます。
ススキが出てきたり、雪が降ったりと天気や季節を連想させるモチーフもうまく取り入れられています。
本の装丁にも通ずる、抽象化の技術
個人的には、韓国ドラマのオープニングアニメーションをはじめとした韓国のグラフィックデザインには本の装丁にも通ずる要素があるなと思いました。
『ヴィンチェンツォ』をはじめ、秀逸だと感じたデザインはどれも戯画的というか、ドラマの内容を抽象化したアニメーションになっています。
また韓国語の本はハングルがそもそも横書きなのもありますが、基本的に左開き。タイトルや内容をインフォグラフィック的に示すことが多い点と合わせ、どこか欧米のデザインっぽさも感じます。一方で大胆な配色や細かいモチーフづくりは、韓国独特な印象もあります。
欧米の影響を受けた韓国のグラフィックデザイン
後藤哲也さん編著による『K-GRAPHIC INDEX:韓国グラフィックカルチャーの現在』(グラフィック社)によれば、2000年代にオランダに留学していたデザイナーがコンセプチュアルなデザイン思考を持ち帰ったとのこと。ここ30年ぐらいで、アメリカに留学して学んだ技術を、デザイナー人材の多いソウルを中心に広めた人たちも多かったそうです。

Undesigned Museum (https://undznd.com/)
上に挙げた「Undesigned Museum」や、映像スタジオでもありさまざまな制作を行う「SM Entertainment」、映像作品のポスターなどを手掛ける「Propaganda」「Ordinary People」などのほか、「PLUS X」「Design Fever」などグラフィックデザイン、WebデザインからUI/UXにシフトした会社も多いようです。

PLUS X (https://www.plus-ex.com/)
「世界観」を端的にモチーフで表す
『Koreana』(韓国国際交流財団)の2022年冬号(Vol.29)『Kドラマ 世界を魅了』特集では、「韓国では、ドラマで中心となるのは脚本家だと考えられている。一般的に『このドラマは誰の作品か』という質問に、演出家でなく脚本家の名前で答える。視聴者は新しく放送されたドラマがおもしろければ、誰の脚本か検索する」(p23)とあります。
韓国ドラマのオープニングアニメーションがグラフィカルに、物語を抽象化して展開するのは脚本の重要性を踏まえているのかもしれません。
同時に、韓国ドラマのみならず、韓国映画は『オールド・ボーイ』や『パラサイト 半地下の家族』をはじめ、昔から背景のセット・美術が細かくつくられていますし、テーマに応じて象徴的なモチーフにフォーカスすることがよくあります。
例えば『パラサイト』のポン・ジュノ監督は、社会でごまかされている階級差を象徴するために、入口や隠し部屋の階段を意図的に多く撮っています。
上に挙げた3作品も、物語の象徴となるモチーフがはっきり示され、物語展開も暗示されていました。グラフィックの色味やアニメーションの展開もさることながら、この「世界観の抽象化」が、恐らく洗練されたイメージを感じるポイントなのだと思います。
UIデザインにおいてもイラストは重要性が高いと思われますが、世界観やストーリーボードに応じたイラストのモチーフの選び方に韓国ドラマのオープニングアニメーションが参考になるかもしれません。
Web編集者・ライター、マーケター。株式会社TOGL代表取締役。オンラインもオフラインも編集しており、兵庫県尼崎市武庫之荘でつくれる本屋「DIY BOOKS」を運営しています。