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流行の小文字ブランド名は英語翻訳者をちょっと悩ませるらしい?

最終更新日:2024.06.24編集部
流行の小文字ブランド名は英語翻訳者をちょっと悩ませるらしい?

私たちの身の回りには、AmazonやSlackなどロゴの表現上アルファベット小文字表記のブランド名がたくさん存在しますよね。特に、アプリやWebサービスを提供するテック系のスタートアップ企業では、数年前から一種のトレンドのような形で、小文字表示のブランド名が多く見受けられるようになりました。

このような企業やサービスが小文字表記を取り入れる際のデザイン意図としては「小文字表記は親しみやすさを感じさせる」というのが最もよく聞く理由ではないでしょうか?そのほか使用するタイプフェイスによっては、小文字の方がバランスが良いといった場合もあるでしょう。または、テック企業に小文字ロゴがあまりにも増えたため、「テック企業っぽい印象を与える」という効果さえあるように思います。「テック企業」の皮をかぶって多くのスタートアップ投資を集めたWeWorkが小文字ロゴを使用していたのをみると、この効果を狙った戦略的な選択であったようにも感じさせます。

これらの企業では、ロゴの資格表現上小文字表記を使うものの、英語の文章中では「固有名詞は大文字から始める」という英文法に則って大文字始めの表記となることが一般的であるようです。しかし英語圏以外のブランドに関しては、英文法の制約に縛られる必要はないので文章中で小文字表記を使用することもあるようで、それらが英語翻訳者を悩ませているというのです。

小文字のブランド名表記のルーツはモダニズム運動

Bauhaus

Claudio Divizia - stock.adobe.com

実はデザインという文脈において、小文字を使うという選択は近年のスタートアップ企業が始まりという訳ではありません。19世紀のモダニズム運動の中にも、「大文字の廃止」を提唱するような動きがありました。当時のグラフィックデザインでは、シンプルなデザイン(書体)を追求することの一環として小文字のみでの表記を「未来・新鮮さ」の表現記号として使われるようになりました。この当時から、グラフィックデザインにおける小文字表記の優位性が意識されていたようです。

そして、ここで興味深いのがモダニズム運動の中心であったドイツの言語、つまりドイツ語の文法では英語とは異なり、固有名詞のみならず一般名詞も大文字から始めるというルールがあるということです。確かに、すべての名詞をわざわざ大文字にすることを考えると、当時のドイツのモダニズム運動の中にあったデザイナーたちにとって、文章中に頻繁に登場する大文字がモダニズムの目指す「簡潔さ」と対極にあると感じさせていたことが想像できますね。

ロゴは小文字でも文章中表記は大文字始まりが英文法上のルール

Slack

PixieMe - stock.adobe.com

グラフィックデザインの世界では小文字を使うことにさまざまなメリットがあるとはいえ、英文法上ではやはり固有名詞は大文字はじまりにするのがルール。Appleのような一般名詞を使用したブランド名は大文字はじまりにしないとテック企業のことなのか、果物のことなのか見分けがつきません。

そのため、前述したアメリカ発のスタートアップ企業の例では、ロゴは小文字で表現していても文章中では必ず大文字始まりとなります。ブランドアイデンティティを表現するためのブランド名の表記法が文章内で徹底されていないという点で違和感を感じるかもしれませんが、これは固有名詞は「大文字始まりとする」という英語の文法上どうしても仕方がないことのようです。例として、Slackの英語版Webサイトを見てもやはりブランド名はすべて大文字始まりで記載されています。

つまり、英語圏の企業・ブランドではブランドアイデンティティを表現するロゴで小文字表記を使ったとしても、文章中では英語文法に従って大文字始まりの表記を使うというのが一般的となっています。アルファベットのブランド名を採用する日本の企業でも、文章内での表記時(日本語の文章であっても)には大文字始まりとすることが多いようです。これは、おそらく日本語文中に登場するのアルファベットはそのほとんどが固有名詞であるため、英語の文法に習って大文字始まりにしているのが理由かと思います。

その他のアルファベット使用言語のブランドは?

adidas

S_E - stock.adobe.com

ここまで見てきたように、基本的にはロゴを小文字表記にしているブランド名も文章内では大文字始まりとなることが一般的であるようです。しかし、広くリサーチをしてみると文章中でも小文字を使用するブランドがいくつか見つかりました。その一つがadidasです。

adidasの公式サイトなどを確認すると、英語のサイトでもブランド名の「adidas」は小文字表記となっているようです。「adidas」は造語であるため、一般名詞と混同することもなく実用上は問題なさそうですが、多くのブランドが文章中で大文字始まりを受け入れる中、頑なに(?)小文字表記を貫くadidasが前述したモダニズム運動発祥の地ドイツのブランドであることが気になり、「ドイツのブランドには小文字表記のものが多いのだろうか?」と調べてみると、Translation Postに「DEALING WITH LOWER-CASE GERMAN BRAND NAMES(小文字表記のドイツブランドへの対処)」という興味深い記事を見つけました。

ドイツの小文字表記ブランドは英語への翻訳者を悩ませるらしい

Audi quattro

bizoo_n - stock.adobe.com

この記事によると、ドイツでも小文字表記のブランド名は少なくなく、小文字のロゴ自体は珍しいことではないと述べられております。そして、興味深いことにドイツ語では英語とは違い文章中でこのような小文字表記のブランド名を小文字のまま表記することも一般的であるというのです。

この理由としては、前述したように一般名詞も含めたすべての名詞を大文字始まりで表記するというドイツ語のルール上、固有名詞を小文字にすると逆に固有名詞であることが認識しやすくなるという側面があるようです。そのため、英語とは異なり小文字表記のブランド名は文章中でも小文字で表記することができるようになります。このような事情からブランド名に小文字表記を採用するブランドの中にはブランドガイドラインで「文章中でも小文字表記を徹底すること」をルール化している場合もあるというのです。

このようなブランドの例として挙げられているのが、Audiの全輪駆動技術「quattro」です。quattroはロゴの表現上のみならず、文章中でも小文字表記を徹底しているブランドの例となり、英語での紹介サイトでさえこのブランド名を小文字表記にしています。しかし、やはりこのような表記は英語文章上では大変違和感のあるもののようで、このquattroの表記に関する論争は絶えないようです。このAudiの例のように絶対に小文字にすることをブランドガイドラインで徹底している場合もあれば、この辺りが曖昧なブランドもあるようで、小文字表記のブランド名を英語文章内でどのように表記すると良いかという問題は、英語翻訳者を悩ませるようです。

小文字表記を徹底したいブランドが取れる手段は?

英語の紹介文で小文字のまま表記され、英語話者に違和感を残しているquattroですが、日本語サイトを見てみると、「quattro®︎」と登録商標マークが付与された形で表記されていました。「®︎」や「™」といった登録商標マークを使うことで、小文字でありながらもそれが固有名詞であることを上手く伝えることができているようです。日本語の文章内でもブランド名の大文字始まりが一般的となっていることから、場合によっては日本語文中でも小文字表記で違和感が残るように感じる場合もあるかもしれません。その場合は、このような登録商標マークの使用を検討してみるのも良いかもしれません。

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