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一流デザイナー、ポーラ・シェアに学ぶ。相手の期待値を予想しながら進める会議術

最終更新日:2024.08.07
一流デザイナー、ポーラ・シェアに学ぶ。相手の期待値を予想しながら進める会議術

ナイキエアジョーダン、『The New Yorker』の表紙イラスト、Instagramのアイコン……誰もが見たことのあるデザインを手がけた名デザイナーの仕事術が見られる番組、Netflix「アート・オブ・デザイン」。

シーズン1に登場するのが、グラフィック・デザイナーでアーティストのポーラ・シェア。そのポーラ・シェアの会議術が多くのデザイナーの参考になりそうだったので紹介します。クライアント向けだけではなく、社内会議にも役立ちそうな考え方です。

ポーラ・シェアとは

ポーラシェア

Netflixシリーズ「アート・オブ・デザイン」シーズン1~2独占配信中

ポーラ・シェアはアメリカのグラフィック・デザイナーでアーティスト。ペンシルベニア州フィラデルフィアのタイラー美術学校で学んでいたころ、タイポグラフィに魅了されます。

1970年代にレコードのアートワークを多く手がけるようになり、ヤードバーズ、ボストン、チープ・トリック、ブルース・スプリングスティーンといった有名ミュージシャン、バンドのアルバムをデザイン。

シェアはMicrosoft、Adobe、コカ・コーラ、シティ・バンク、ティファニーなど名だたるクライアントのブランディングやCI(コーポレート・アイデンティティ)の設計に関わってきました。20年以上スクール・オブ・ビジュアル・アーツで教鞭をとっています。

デザイン・スタジオ「ペンタグラム」のパートナーとしても活躍しており、Netflix「アート・オブ・デザイン」では4階建てのオフィスを歩き回るシェアの姿が見られます。

シティバンクのロゴをリデザイン

citibank

https://www.pentagram.com/work/citibank/story

「アート・オブ・デザイン」の中で紹介されている、ポーラ・シェアの仕事の一つがシティバンクのロゴのリデザイン。1998年、シティバンクと保険会社トラベラーズが合併する際、シェアに依頼が舞い込みます。シティバンク側の希望は、2社の合併をロゴに反映し、依頼から3週間後の新聞で発表すること。 

シェアはすぐさまロゴをデザインします。当時のシティバンクのロゴは青地に白い斜体のロゴ。トラベラーズは赤い傘をモチーフに入れていました。シェアは「T」字の下の部分を傘のフックのように曲げ、赤いアーチを2つの「I」の間にかけるようにデザイン。

決定案以外にも、ものすごい量のキャッシュカードやグッズのモックをつくり、プレゼンに臨みました。

シェアは「一番大変なのは顧客に納得してもらうこと」と語り、たくさんの選択肢を用意するように会議に臨むようにしているそうです。

相手の期待値を予想しながら会議を進める

大手クライアントやニューヨークの公共機関との仕事が多いポーラ・シェアは、どのように会議を進めているのでしょうか。

「アート・オブ・デザイン」ポーラ・シェア回の34:30あたりから彼女自身による解説があります。

2640

ニューヨークのパブリックシアターとの仕事を例に、シェアは会議の進行に関するグラフを描いていきます(図を参照)。

プレゼンが始まると、相手の期待値が最低ラインから上昇していき、会議は興奮に包まれます。デザイナーへの質問攻めが始まり、称賛の声はピークに達する。 

ピークを迎えると、興奮が冷めていき、異論が挟まれるようになります。その批判や疑問に対しデザイナーが返答・対案を出すとまた期待値が高まり、ピークを迎えると異論とともに期待値は下がり……といったループが繰り返される。

最終的には、最初のピークほどの興奮はないものの、妥協点を見つけるようにして終わる。

「顧客は成功するという確証がほしい(ので異論をたくさん出す)。ただ確証なんてない、感受性は人それぞれだから」とシェアは語ります。

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メタ的に会議の進行をとらえる

デザインにユーザーインタビューなどの定性的な、あるいは定量的なデータの裏づけがあったとしても、ビジネスサイドの社員や役員レベルの人が感覚的なフィードバックをする場合もあるのではないでしょうか。

実際にその感覚も経験に裏打ちされたもので、重要な視点かもしれませんし、会社が意思決定をするには多くの人の目を通す必要もあるでしょう。

そんなときポーラ・シェアのように、進行をあらかじめ予想してメタ的に捉えておくと、会議のディレクションがやりやすくなりそうです(もちろん参加者や議題によって変わる部分は大いにありそうですが)。

「今は異論が多いフェーズだな」と少し冷静にとらえ、相手の期待値を上げていくように対案を出していけるようにするなど。

現実を変えるデザインの力

「アート・オブ・デザイン」のポーラ・シェアのエピソードで興味深いのは、2001年アメリカのパームビーチ郡で、投票用紙のデザインが予想もしない選挙結果を招いた例。名前のリストが見開きになり、チェックボックスの位置が互い違いになってしまったためにユダヤ人が多いパームビーチで、大多数が反ユダヤの候補者に投票してしまったのでした。

UI・UXにしても、デザイン一つで人の生活は容易に変わりうる。デザインには現実を変える大きな力がある。会議というのはときに生産的でない場合があるかもしれませんが、うまく「良い」異論が出るように進められれば、多様な視点で上のような惨事は防げるかもしれない。

ポーラ・シェアの会議術は、意見を通すためのテクニックでもありつつ、よりよいデザインをつくるためのコミュニケーション術のようにも思えました。

Netflix
執筆平田提

Web編集者・ライター、マーケター。株式会社TOGL代表取締役。オンラインもオフラインも編集しており、兵庫県尼崎市武庫之荘でつくれる本屋「DIY BOOKS」を運営しています。

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