インタビュー

圧倒的クオリティを生む「チームラボ」流・デザイン組織、働き方 採用チームリーダー・山田剛史氏に聞く

最終更新日:2025.08.07
圧倒的クオリティを生む「チームラボ」流・デザイン組織、働き方 採用チームリーダー・山田剛史氏に聞く

先端テクノロジーを活用した没入感のあるクリエイティブで、国内外の人を魅了してきた「チームラボ」。社内の95%がものづくりを担うメンバーで構成され、ミュージアムや展示会などを手がける「アートチーム」と、デジタルプロダクトや空間デザインなどのクライアントワークを手がける「ソリューションチーム」に分かれている。

同社の唯一の行動原則が、「時代で一番、クオリティが高いものをつくる」こと。採用チームでリーダーを務める山田剛史氏に、クライアントワークにおいて最高品質を生み出すための秘訣を聞いた。

最高品質を担保するため、事前に「合意形成」を結ぶ

アートの印象が強いチームラボだが、実は約1100名のメンバーのうち、半分以上の約800名がソリューションチームに所属する。同チームが手がけたプロジェクト数は延べ100件以上。制作したアプリは合計1.6億ダウンロードを超える。

ソリューションチームは、延べ100件以上のプロジェクトを遂行

ソリューションチームは、延べ100件以上のプロジェクトを遂行

「あくまでクライアントの課題解決がゴールであり、ウェブやアプリのみを専門にした集団ではないため、『ソリューション』と呼んでいます。課題から求められるユーザー体験を導き出し、そこから逆算して、最適なプロダクトを決定します。ユーザーファーストに解決策を提供できるのがチームラボの特殊性であり、最大の強みだと思います」

チームラボ採用チームリーダー山田氏

チームラボで採用チームのリーダーを務める山田剛史氏

チームが導いた意思決定がリリース後の成果につながっているかを検証し、知見として活かすため、構想策定から企画、デザイン、開発、リリース後の運用までワンストップで請け負う。外部資本を一切入れず、自社内で経営的な意思決定ができる組織体制にもこだわる。

「クオリティを最優先にするために、企業としての独立性を維持しています。仕事をお請けする際、クライアントには『常にユーザーファーストの立場で提案していく』旨をお伝えし、合意いただいています。その上で、クライアントの事業、システム、UI・UXを総合的に勘案し、ソリューションに落としていきます」

同社では、あえて「クオリティが高い状況」を明文化していないが、強いて言うなら求めるゴールにユーザーがストレスなく到達できること、ユーザーからの評価が高いことを指すと山田氏は説明した。

組織は「カタリスト」「デザイナー」「エンジニア」で構成

特定の領域に狭めないチームラボのソリューションチームは、組織体制にも独自のこだわりがある。特徴的なのは、プロジェクトマネージャーやディレクターに近い役割を担う「カタリスト」が存在すること。部長やマネージャーといった階層を表すポジションを作らないことだ。

「階層を表すポジションがない代わりに、各メンバーごとに得意分野の『タグ』が付いているイメージです。その『タグ』に則って、各々が専門範囲の決定権を持ちます。つまり、各プロジェクトのフェーズごとに流動的にリーダー的役割が変わっていきます。

その理由は、手がけるプロジェクトが非常に多岐にわたるためです。もしマネージャーを作るとしたら、全ての分野で最適な意思決定ができる状態を担保しなければ意味がありませんが、現実的には難しい。そのため、その領域の専門性が高い社員が決定権を持つ体制を取っています」

チームは、「カタリスト」「デザイナー」「エンジニア」の3つのポジションで構成

チームは、「カタリスト」「デザイナー」「エンジニア」の3つのポジションで構成

プロジェクトを行う際は、「カタリスト」「デザイナー」「エンジニア」の3つのポジションで組織が構成され、これ以上に細かく職種は分けていない。

「リサーチャー、UIデザイナー、UXデザイナーなどと細分化すると、自分が関与しない領域が明確になります。すると役割をまたいだ領域の解像度が浅くなり、最適な意思決定が難しくなってしまいます。仮に、UIデザイナーがユーザーに実際に話を聞いてみたいと思ったとき、ユーザーインタビューを実施するのが別の人だったら、ピンポイントのフィードバックを得づらいと思うんです」

オフラインで会話し、高解像度でのレビューを繰り返す

そうした組織体制のうえで、クオリティの基準値をそろえていくために、さまざまな取り組みを行っている。

「まず、チームラボではプロジェクト共通の『デザインシステム』は作らず、案件ごとに0→1でデザインを作っています。結果として、そのほうがクオリティを追求しやすいためです。代わりに、デザインにおける思考の体系化を進めています」

チームラボの思考プロセス体系化
チームラボにおける思考プロセスの体系化の概要

チームラボにおける思考プロセスの体系化の概要

そして、思考プロセスを浸透させていくための取り組みが、「レビュー」や「ナレッジ共有」だ。

「リモートワークの仕組みは採用せず、レビューや議論は常に膝を突き合わせて、同じ画面を見ながら行います。単に改善策を共有するのではなく、リードデザイナーや先輩が、どのように改善策にたどり着いたかの思考プロセスまで詳細に伝えるためです。その答えに行き着くまでに、何を使って、どのように調べ、何を見たのか。最近なら生成AIとどう会話したのかまで共有する。それをやり続けることで、チームラボらしい考え方が浸透していきます」

レビューは必ず対面で行い、思考プロセスまで共有する

レビューは必ず対面で行い、思考プロセスまで共有する

新しく入ったメンバーには、必ず既存メンバーがメンターに就く。多いチームだと1日に1回以上のレビューを行い、若手メンバーが疑問点をすぐに聞けるような環境を整えているという。また、議論するうえでは、超具体の粒度でのジャッジを繰り返すことも大事にしている。

「ボタンの挙動一つ取っても、認識のしやすさ、そこにたどり着くまでの時間、ローディングのスピードなどの具体的なコミュニケーションを通じて、『最もクオリティが高い状態』をジャッジします。リリース前のデザインだけでなく、リリース後の検証・改善フェーズでも同様の議論を行います。この工程を繰り返すほど、関係者全員の共通認識がクリアになっていきます」

リリース前のリサーチに時間をかけるよりもユーザーの反応から学ぶ姿勢を大切にしており、リリースまではウォーターフォール的に"チームラボらしい"ソリューションを作ることに注力する。リリース後は、アジャイル体制で改善のサイクルを回し、継続的な学びを得ているという。

超具体粒度でのジャッジの連続で、共通認識ができあがっていく

超具体粒度でのジャッジの連続で、共通認識ができあがっていく

効率化や社員の働きやすさを目的にリモートワークを導入する企業が少なくないなか、チームラボでは、毎日オフィスに出社して、プロジェクトチームごとに「村」のように集まって働くという。

「例えば、『ここの挙動どうしよう』『大きさにちょっと悩むな』と思ったときに、リモートワークだったら、わざわざそのためにミーティングを設定しませんが、横にいたら一言二言の相談もできるじゃないですか。些細なことでも専門性の高い意思決定を繰り返すことによって、少しずつクオリティが上がります」

一見コミュニケーションコストが高く思えるが、些細な相談を怠り、結果的に修正が発生すれば、余計に時間を要するかもしれない。何より、こうした日々の実践がクオリティや社内の共通認識を高めることにつながるという。

クオリティを高めるため妥協をしない

クオリティを高めるため妥協をしない

その他に、ナレッジ共有を目的とした「知の共有会」をチームごとに実施しているという。開催頻度や形式はチームごとに異なり、メンバーが順番に発表者となり、自身の案件を通じて得られたナレッジを発表するスタイルなどがある。この勉強会には誰でも参加できるほか、登壇資料は全員がリーチできるドライブに収納している。

「チームラボで最も価値が高いのが、発見した知見を汎用的に使えるようにすること。そうした観点でナレッジ共有の文化を重要視しています。ドライブは、必要に応じてキーワード検索して欲しい知見を発見する『デジタル本棚』のようなイメージです。クライアントからOKをいただいた提案書、NGだった提案書などもあります」

同社が求めるクオリティに達するまでは、個人差があるが2〜3年を要するという。一定の期間はかかるが、思考プロセスまで共有できると驚くほどスムーズに議論が進み、レビューを行わずとも任せられるレベルまで成長するそうだ。

unprintedのオリジナル記事をメールで受け取る

メールマガジンでは、オリジナル記事や最新ニュースをメールで配信中

※登録ボタンを押すと利用規約に同意されたものとします。

unprintedニュースレター登録

チームラボらしいアウトプットの事例

これまでに100件以上のプロジェクトを手がけてきたソリューションチーム。チームラボらしいアウトプットの事例を聞くと、山田氏は「アーティスト・BUMP OF CHICKENの公式アプリ」をあげた。

2023年6月にリリースされた、BUMP OF CHICKENのリスナー向け会員制サービス「be there」公式アプリ

2023年6月にリリースされた、BUMP OF CHICKENのリスナー向け会員制サービス「be there」公式アプリ

「コロナ禍でファンの方との対面での交流が難しくなったタイミングで、『ファンの方が集える場所を作りたい』とご相談をいただきました。同アプリは売上増が目的ではなく、純粋にファンの方に喜んでもらえることを目指し、メンバーの方々とディスカッションしながら作り上げました。例えば、マスコットキャラクター『ニコル』の3Dモデル化は、チームラボの強みを発揮しやすいものだったと思います」

Vocal&Guitarの藤原基央さんが描くマスコットキャラクター「ニコル」を3Dモデル化

Vocal&Guitarの藤原基央さんが描くマスコットキャラクター「ニコル」を3Dモデル化

Vocal&Guitarの藤原基央さんが描くマスコットキャラクター「ニコル」は、多くのファンに愛されている。3Dモデル化することで着せ替えをしたり、部屋を模様替えしたり、自分と「ニコル」だけの空間を作り出せる仕様とした。

「3D化にあたり、チーム内の3DCGチームに依頼して、ファンの方が楽しめる機能を実装しました。チームラボでは専門性の高い人材を抱えているからこそ、仕様が決定していない段階でクオリティの高いプロトタイプを作って、それを見てもらいながらディスカッションができます。完成した3Dモデルも、ファンの方に満足していただけるクオリティに仕上がったと思います」

同アプリは、App Storeでの評価が4.8と非常に高い。この5月にチームラボのnoteで同アプリに関する記事を公開したところ、BUMP OF CHICKENのファンからのSNS上での好反響も数百件にのぼったという。

全員がプレイヤー、求めるのは「デザインがとても好き」な人

最後に、チームラボにおけるデザイナーの理想像を聞いた。

「デザインが非常に好きな人を求めています。好きという気持ちがあれば、能動的にクオリティを高める努力を続けられると考えるためです。デザインを『仕事』と捉えて向き合う人と、感情論的に『好き』という人だと長期的に成長度合いやアウトプットの質が大きく異なってくると思います」

そうした考えや文化があるためか、チームラボのデザイナーは「ずっとプレイヤーでいたい」と考えている人が圧倒的に多いという。実際に長く活躍し続けるためにも、「プレイヤーとして手を動かし続けることが重要だ」と山田氏は主張する。

「以前、ナンバー1のアウトプットが出せるデザイナーのナレッジを継承しようと、そのメンバーにレビューだけを任せたことがありました。しかし、3年ほど続けた結果、うまく機能しなくなってしまって。以前より規模の大きな案件を手がけるようになったこともあり、最前線で情報収集しているプレイヤーのほうが、いつの間にか専門性が高くなっていたんです。そこからは、リードデザイナーも手を動かす時間をしっかり取ることが大事だと認識しました」

「鎌倉市の新庁舎のDX支援」が決定。写真は外観の完成イメージ(image©日建設計)

鎌倉市の新庁舎のDX支援が決定。写真は外観の完成イメージ(image©日建設計)

今後の展望としては、「これまでと同様に、領域を限定せずにさまざまな案件にトライしていきたい」と山田氏。結果として、それがデザイナーとしての寿命を伸ばすことにつながると考えるためだ。直近で決まった大規模のプロジェクトに「鎌倉市の新庁舎のDX支援」があり、まさに願っていたような仕事だという。

「市役所は50年以上使われるものであり、僕らが取り組んでいるのは、『未来の市役所の設計』です。いま紙で行っている手続きは、5年、10年したらほぼゼロになるでしょうし、もはやモバイルでもないかもしれない。そんな大転換も想像しながら設計を進めています」

社内に幅広い専門性を持つ人材を抱え、時代で一番のクオリティを追求することで世界で通用するブランドとなったチームラボ。ものづくりに没頭しながら自己の可能性も突き詰めたいデザイナーにとっては、最高の環境に違いない。

写真提供:チームラボ

インタビュー
デザイン組織
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。

https://love-trip-kaori.com/
Instagram

関連記事

Related Articles

  • AI時代に求められるUXデザイナーとは?オランダで活躍するデザインリーダーに聞く
    インタビュー2025.08.04
    AI時代に求められるUXデザイナーとは?オランダで活躍するデザインリーダーに聞く
  • 「無色透明」のUIで“書籍”を主役に。124万人が利用する本の要約サービス「flier」のデザイン原則を聞いた
    インタビュー2025.04.17
    「無色透明」のUIで“書籍”を主役に。124万人が利用する本の要約サービス「flier」のデザイン原則を聞いた
  • 会員数143万人のプロジェクト・タスク管理ツール「Backlog」 PdMに聞くサービスの強み
    インタビュー2025.04.08
    会員数143万人のプロジェクト・タスク管理ツール「Backlog」 PdMに聞くサービスの強み
  • 情報発信のハードルが高いと感じるデザイナーには、「今の自分をプロトタイプで表現する」と考えてほしい
    インタビュー2025.04.03
    情報発信のハードルが高いと感じるデザイナーには、「今の自分をプロトタイプで表現する」と考えてほしい

最新の記事

Latest Articles

  • AI時代に求められるUXデザイナーとは?オランダで活躍するデザインリーダーに聞く
    インタビュー2025.08.04
    AI時代に求められるUXデザイナーとは?オランダで活躍するデザインリーダーに聞く
  • 【2025年最新】フォトショップの買い切り版はまだある?価格比較と代替ソフトを紹介
    Photoshop2025.06.30
    【2025年最新】フォトショップの買い切り版はまだある?価格比較と代替ソフトを紹介
  • 【2025年版】Webデザインスクール おすすめ10選|給付金対象で最大70%OFF
    【2025年版】Webデザインスクール おすすめ10選|給付金対象で最大70%OFF
  • 今すぐできる!動画からGIFへ簡単に変換できる�おすすめ無料ツール紹介
    動画2025.06.30
    今すぐできる!動画からGIFへ簡単に変換できるおすすめ無料ツール紹介

デジタルデザインの最新情報をお届け!

unprintedのメールマガジンにご登録いただくと、デジタルデザインの最新情報をメールで受け取ることができます。今までに配信したバックナンバーも公開中!

※登録ボタンを押すと利用規約に同意されたものとします。