心理学

シャルパンティエ効果とは? 人の知覚と物理的な世界にズレを生む心理現象

最終更新日:2024.02.11編集部
シャルパンティエ効果とは? 人の知覚と物理的な世界にズレを生む心理現象

シャルパンティエ効果とは?

シャルパンティエ効果とは?

シャルパンテイエ効果(Charpentier effect)とは、”重さに対する感覚”が“見ための大きさ”に影響されて、体積が大きいものを軽く、小さいものを重いと感じてしまう心理的な錯覚のことです。たとえば同じ重さの大きな箱と小さな箱をそれぞれ持ち上げたとき、物理的に重さが等しい物であっても、私たちは視覚的に大きく見える箱のほうを軽く感じ、小さい箱のほうを重たく感じてしまいます。これは同じ質量の小さな物体と比較したときに大きな物体のほうの重さを過小評価してしまう、人の知覚と物理的な世界にズレが生じる現象といえます。

またシャルパンテイエ効果は、重さを数字で示したときにも発動します。1kgと表示された同じ重さの綿と鉄をそれぞれ持ち上げたときにも、体積の大きな1kgの綿より、見ためが小さい1kgの鉄のほうを重たいと感じる傾向があるのです。“鉄は重いもの” ”綿は軽いもの”というイメージや連想も錯覚を引き起こす後押しをしています。人は客観的な数値よりもイメージを先行させてしまう傾向をもっているからです。

シャルパンティエが行った実験から見えてくること

シャルパンティエが行った実験

この心理的な錯覚現象は1891年にフランスの医師であるオーギュスタン・シャルパンティエによって発表されました。彼は大きさと重さの錯覚を証明する実験を行い、「Size-weight illusion(大きさ - 重さの錯覚)」という論文でこの現象を報告したのです。のちにシャルパンティエの仮説はドイツの精神分析学者ポール・コゼレフによって検証されたために「コゼレフの錯覚(Charpentier-Koseleff illusion)」という別名でも呼ばれています。

シャルパンテイエが行った実験は以下のようなものでした。

  • 被験者に同じ重さで大きさの異なる直径4cmと10cmのボールをひとつずつ持ち上げてもらい、どちらのボールが重いか比較してもらう

  • 被験者から「直径4cmの小さいボールのほうが重い」という回答を得る

  • 被験者は実験開始前は直径4cmの小さいボールのほうが軽いだろうと予測していたのが、実際に手に持ってみたあとで、“小さいボールのほうが重い”と錯覚したことが判明した

“小さいボールだから簡単に持てると思っていたら、大きいボールを持つときと同じ力が必要だった=小さいのに重かった”という感覚が、被験者たちに「直径4cmのボールのほうが重い」という錯覚をもたらしたとシャルパンティエは考察しました。

なぜこのようなことが起きるのか、認知心理学的な側面から掘り下げてみましょう。

心理的錯覚が生じる背景

私たちは自分を取りまくさまざな変化や情報を、外界からの刺激を感じとる感覚器官を通じてキャッチし、知覚しています。ところが私たちが知覚している世界は、物理的な世界がそのまま映されているとは限りません。なぜなら入ってきた情報や刺激が脳に運ばれる過程でさまざまな相互作用が起り、その影響を受けていると思われるからです。

シャルパンティエ効果における心理的錯覚が生じるプロセス

  1. 目や耳や皮膚など複数の感覚器官を通じて情報が入ってくる

  2. 感覚情報を脳に運ぶ過程で、それらを統合しながら対象を捉えて知覚を生じさせる

  3. その際に“異なる感覚情報”が影響し合う

  4. 視覚から得た重さに対する予測と、実際に皮膚から受け取る感覚のアンバランス

  5. 結果として“知覚と物理的な世界の間にズレ”が生じて錯覚が生まれる場合がある

そのため認知心理学では、シャルパンティエ効果は視覚と体性感覚の相互作用によって生じる心理的な錯覚であると捉えられています。物を持つ際には視覚などの感覚器官から得た情報にもとづいて筋肉が使用されるのですが、実際の筋肉の動きなどから大脳へ伝わる信号の量が少ないことでアンバランスが生じて、より重く感じるのだと言われています。

日本でも重さに対する主観的な感覚における個人差を調査した興味深い研究があるので、以下に要旨を紹介します。

「重さの主観的感覚の個人差に関する検討」より

  • 実験器具:色や形、大きさ、素材などの視覚的な条件は同じで、250gごとに重さのみを変えた1kgから4Kgの13個の重りを使用する

  • 実験1:被験者は立った状態で利き腕で重りを持ち、重りを重いか重くないかの2種類に分ける

  • 実験2:目を閉じた状態で、実験1と同様の作業を行う

  • 結果:目を開けて行ったときと閉じたときでは、「重い」とする重さが異なることが明らかになった

  • まとめ:重さの主観的感覚は、目を開けたときに比べて閉じたときのほうが重く感じられる。被験者の体格や筋力などの個人差の影響はないが、男女差があることがうかがわれた

シャルパンティエ効果は、“知覚と物理的な世界の間のズレ”によって生じる心理的な錯覚です。しかし、これは視覚情報と体性感覚に限った話ではありません。たとえば口の動きと音声が一致していない場合などに、音声知覚が視覚情報の影響を受けてしまうことがあります。それだけ人の知覚はさまざまな影響を受けやすく、人の“感じ方”には多様性や柔軟性があることのひとつの根拠となっています。

まとめ

視覚的なイメージが物の重さに影響する心理的な錯覚現象、シャルパンティエ効果についてまとめました。この効果は現在ではマーケティングや消費者心理学の領域で応用されています。シャルパンテイエ効果を応用するポイントは、人に何かを伝える際に“視覚的にイメージしやすい形で伝えること”にあります。「レモン50個分」「東京ドーム10倍の広さ」など、誰もがイメージしやすいものを提示することで、コピーの説得力などが増してきます。

参考文献

  • Augustin Charpentier『Wikipedia the free encyclopedia』 (最終閲覧日2023年8月20日)

  • Size–weight illusion『Wikipedia the free encyclopedia』 (最終閲覧日2023年8月20日)

  • 鹿取廣人(編)・杉本敏夫(編)・鳥居修晃(編)・河内十郎(編) (2020).『心理学 第5版 補訂版』 東京大学出版

  • 服部雅史・小島治幸・北神慎司 (2022). 有斐閣ストゥディア『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』 有斐閣

  • 本多ふく代 (2006). 重さの主観的感覚の個人差に関する検討 人間工学(42), Supplement号, 226-227

  • 井頭 均(1986). 037 重さの知覚(その4) : シャルパンティエ効果 日本保育学会大会研究論文集, 74-75

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