連載記事
デザインに役立つ心理学入門
人の行動を変えることがデザインの目的であるとすれば、人間の心理や行動の傾向を理解することはデザイナーにとって大きな武器になるのではないでしょうか?「デザインに役立つ心理学入門」は、行動心理学・認知心理学の概念を紹介する連載企画です。

- 心理学・2023.01.05報酬がモチベーションを低下させる?アンダーマイニング効果という心理現象アンダーマイニング効果とは、やりがいや楽しさといった内発的な動機づけが、報酬などの外発的な動機づけを与えられることによって、逆に低下してしまうという現象をさします。UXデザインのプロセスにおいて、ユーザーの価値観や本音を把握するための「ユーザーインタビュー」を効果的に行いたいときに大きく影響しそうな心理です。教育心理学や認知心理学を専門とする、村山 航教授(イギリス・レディング大学)の論文「労働の動機づけにおける金銭的報酬と非金銭的報酬の役割」による定義は以下のとおりです。たとえば、それまで自発
- 心理学・2023.01.05繰り返し見るだけで好意が高まる?広告やブランディングにも応用される単純接触効果単純接触効果とは、1968年にアメリカの社会心理学者であるロバート・ザイアンスが提唱した、「同じものに対して単純に何度もくり返し接触を重ねることでその対象に対する好意的な態度が形成される現象」のことです。彼の名前にちなんだ「ザイアンス効果」という名称で目や耳にしたことがある方もいるかもしれません。単純接触効果は、これまで心理学の領域で多くの研究が蓄積されてきました。認知心理学を専門とする北九州市立大学の松田 憲教授によれば、その定義は以下のとおりです。たとえば、初めての仕事先と打ち合わせ で何度も
- 心理学・2023.01.05親密な人間関係の上限は150人?コミュニティのデザインに取り入れられるダンバー数ダンバー数の法則とは、イギリスの進化人類学者のロビン・ダンバー氏が、著書の「How Many Friends Does One Person Need?(人は何人の友人が必要か?)」の中で提唱した、人が親密な人間関係を維持できる人数(知り合いであり社会的接触を保持している人数)の上限に関する尺度です。人類学や進化心理学、統計学や企業経営などの分野でも研究対象として注目されています。ダンバー数の 法則は、オックスフォード大学の認知・進化人類学研究所所長でもあるダンバー教授の霊長類の行動研究がベースに
- 心理学・2022.12.28様々なものが顔に見えてしまう、シミュラクラ現象の原理シミュラクラ現象とは、模様やデザインとして点や線が逆三角形に配置されていたとき、本来は「顔」ではないものが「顔」に見えてしまう現象をさします。たとえばコンセントの差し込み口を見たときに人の顔を思い浮かべたりする場合などがそうです。1976年7月25日にNASAが撮影した火星の地表写真の場合は、人の顔のような外観をした岩が映っていたため火星人による人工物ではないかと騒がれたこともありました。人間は外敵を判断したり、相手の感 情などを予測する目的で本能的に相手の目を見る習性をもっています。人や動物の目
- 心理学・2022.12.28曖昧なものに意味を与える知覚現象。マーケティングにも応用されるパレイドリアパレイドリア(Pareidolia)とは、視覚刺激や聴覚刺激を受け取ったときに、自分がふだんからよく知っているものが見えたり思い浮かべてしまうという知覚現象をさします。パレイドリアには複数の種類があり、空に浮かぶ雲の形から動物や何かの物体を思い浮かべたり、月の表面の凹凸にウサギが見えたり、イタリアの地図がブーツに見えてしまう場合などがあり、それらは視覚的なパレイドリア現象によるものだとされています。またポピュラー音楽における曲を逆再生したときに何かしらのメッセージが聞き取れたりするバックワード・
- 心理学・2023.01.05自分の所有物は実際の価値よりも高く感じる?保有効果という心理現象保有効果(Endowment effect)とは、自分の所有物を実際の価値よりも高く見積もったり高い評価をしてしまうことで所有する前とあとでモノに対する価値観が変わってしまう心理をさします。いわゆるバイアスのひとつという位置づけです。アメリカの経済学者リチャード・H・セイラーが提唱した概念で、人は自分がすでに所有しているものを高く見積もる傾向をもっていることを指摘しました。保有効果の検証実験としては、同じくアメリカの行動経済学者ダニエル・カーネマンが行ったマグカップを用いた実験が知られています。
- 心理学・2023.01.05変化をネガティブに捉えてしまう、現状維持バイアスとは?私たちが社会の中で適応していくためには、さまざまな場面でその場に適した意思決定を行い、それにもとづく行動を選択していくことが大切になります。しかしときには合理的な意思決定とは異なる、偏った傾向や先入観(バイアス)が含まれた判断をしてしまうことがあり、それを心理学では認知のバイアスと呼んでいます。認知の偏りの傾向にはいくつかのパターンがあり、現状維持バイアスは、変化を受け入れずに現状に固執してしまう心理傾向のことをさします。現状維持バイアス(Status quo bias)とは、アメリカの経済学者
- 心理学・2023.01.05目の前の利益を優先したくなる心理現象、現在バイアスとは?現在バイアス(Present bias)とは、アメリカの行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した、「人は目の前にあることがらを過大評価してしまう」という概念のことです。現在バイアスが働くとどうしても、「今この瞬間の利 益」に重きを置いてしまうため、人は少し先の未来の利益に対して適切な評価ができなくなり、将来の大きな利益よりも目の前の小さな利益を優先してしまいます。カーネマンはイスラエルの心理学者、エイモス・トヴァスキーとともに1979年に論文を発表しており、その中の「プロスペクト理論」では、人は
- 心理学・2023.01.05経験が記憶を書き換える?後知恵バイアスという認知の偏り人の判断力は、問題の本質とは関係のない情報を見聞きすることで偏った考えや先入観が生まれて、それに左右されてしまう傾向があります。その合理的ではない判断を招いてしまう認知の偏りのことを、心理学では認知のバイアスと呼んでいます。後知恵バイアス(Hindsight bias)とは、何か出来事が起きたあとに「自分は最初からわかっていた」と、初めから結果を予測していたかのように記憶を書き換えてしまう認知の偏りのことで、人が陥りやすいバイアスのひとつです。後知恵バイアスの研究で代表的なものに、アメリカの心理