
デザイン思考とは?注目を集めるデザイン思考とは一体何なのか?

デザイン思考(デザイン・シンキング)とは、デザイナーによるモノづくりのプロセスを体系化した課題解決のための思考法です。顧客の抱える課題を中心に捉えるという特徴が、ビジネスの現場での商品・サービス開発に効果的であるため広く取り入れられています。
作れば売れる時代ではなくなった。デザイン思考が注目される背景

インターネットや物流が現在ほど発達する前の時代では、商品やサービスを届けることができる範囲がある程度限られていたため、「良いもの作れば売れる」という考え方が一般的でした。市場には様々なチャンスがあり、その穴を埋めることで利益を上げることができたのです。しかし、現代では消費者は膨大な選択肢からサービスや商品を選択することができます。例えば冷蔵庫を買おうと考えたときにも、インターネットを使って世界中のメーカーの商品から比較検討し、自分のニーズにあったものを見つけて購入することができますよね。
このような状況では、商品を開発する企業の想定する「良いもの」を目指して商品を作ったとしても、同じような商品で溢れている市場においては埋もれてしまい、価格競争に陥ってしまいます。そこで重要となるのが、「顧客の潜在ニーズ」です。「顧客自身も明確には気づいていなかったものの、実は欲していたようなもの」を作ることが求められているのです。このような難易度の高い商品開発において注目されているのが、デザイン思考です。デザイン思考では、ユーザー(顧客)の課題(ニーズ)を起点としてプロダクトを開発するため、ユーザーの潜在ニーズを捉えることができ、競争過多の状況の中で顧客に選ばれる商品を作ることができるのです。
デザイン思考の何が「デザイン」なのか?課題解決という意味のデザインとは?

「デザイン」思考という名前から、なんとなく「おしゃれな見た目」や「クリエイティブな発想」といったものを連想されるかもしれません。しかし、デザイン思考とは見た目が良いモノを作るためのプロセスや、良い外見を重視したモノづくりといった意味で はありません。「デザイン」の本来の意味は「誰かの課題を解決することを目的としたモノの設計」です。確かに、満足感の高い外見もデザインの重要な側面ではありますが、その根本には「ユーザーの課題を解決するためのプロセス」が存在し、そのプロセスは課題を抱えた人への共感を軸とした非常にロジカルなものとなっているのです。デザイン思考は、そのようなユーザーの課題を解決するためのロジカルなプロセスをビジネスなどに応用するための思考法です。
アート思考との違い

デザイン思考とともに知られる思考法に『アート思考』というものがあります。前述した「クリエイティブな発想」をもとした思考はデザイン思考よりはこちらのアート思考に近い考え方です。アート思考とは、「既成概念にとらわれない発想や逆説的な思考によって発想する思考法」です。デザイン思考とアート思考の主な違いは以下のとおりです。
アート的なプロセスは、どちらかというと表現者自身の「自己表現」が主な原動力となりますが、デザイン的なプロセスには常に「目的」が存在し、デザイナーによるものづくりには、必ずアウトプットを使う「ユーザー」の存在があります。この「デザインとは何か?」や「デザインとアートの違い」については、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
デザイン思考のフレームワーク
では、デザイン思考のプロセスとはどのようなものなのでしょうか?ここでは、最もよく知られている「デザイン思考の5つのステップ」と「ダブルダイヤモンド」の2つを紹介します。この2つは「デザイン思考のフレームワーク」として良く知られていますが、デザイン思考を取り入れる上で重要な点は、プロセスをなぞることではなく、主軸となる考え方やエッセンスを取り入れることです。ここでは2つの異なるフレームワークを見比べながら、それぞれの共通点に着目してみてください。
デザイン思考の5つのステップ

デザイン思考の5つのステップは、スタンフォード大学のd.schoolによって提唱されたデザイン思考のフレームワークで、問題解決のためのプロダクト開発プロセスを「共感」「課題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のわかりやすい5つのステップとして定義しています。
共感(Empathize)

共感のステップは、デザイン思考を特徴づける最初の重要なステップです。共感ステップで行うことは、「課題を抱えるユーザーに共感し、課題の本質をよく理解すること」です。基本的には、課題に関する情報を広く集めていくような作業になりますが、デザインの世界で広く活用されている手法であるエスノグラフィーなどを取り入れるのも大変有効です。エスノグラフィーとは、研究対象の生活環境に身を置いて行動を観察したり、生活を共にすることで、研究対象の行動や課題について深く理解するための手法です。エスノグラフィーを実施できない場合であっても、共感ステップで集める課題に関する情報は、客観性を重視してメンバーの思い込みにとらわれないように気をつけましょう。
課題定義(Define)

課題定義ステップでは、前の共感ステップで集めた情報をもとに「ユーザーが抱える課題」を明確に定義します。ここで定義する課題は、以降のステップの基礎となるためできるだけわかりやすい形で表現すると良いです。おすすめの定義方法は、海外のデザインチームでよく使われる「How Might We ~?」という形式です。日本語にすると、「どうすれば〇〇できる か?」となり、この「どうすれば」という問いが「こうすれば良いのではないか?」というアクション仮説に繋がりやすく以降のプロセスを進めやすくなります。
創造(Ideate)

創造のステップでは、定義した課題に対して実際に「どうすれば良いのか?」の部分を考えていくようなフェーズとなります。このフェーズでは、できるだけさまざまな可能性を想定してアイデアを集めましょう。チームメンバー内でブレインストーミングを行うのも有効な手段です。効果的なブレインストーミングの方法については、以下の記事で紹介しています。
プロトタイプ(Prototype)

プロトタイプとは、仮説を検証するための試作品です。創造ステップにおいて採用されたアイデアを検証できる最小限の形で実際に作ります。プロトタイプのステップにおいて重要なポイントは、コストをかけすぎないことです。また、デザイン思考はその名の通りデザインのプロセスであるため、このプロトタイプフェーズでは実際のプロダクトに近い形のものを作ることを想像されるかもしれません。しかし、デザイン思考をビジネスなどに応用する場合には、このプロトタイプは物理的な形を持つものにこだわる必要はありません。課題の解決策がユーザーに対して本当に有効かどうかを「検証できる」方法であれば、簡単な代替品やインタビューなどで解決策を検証できる場合も多いです。