
前身のウェブ制作会社「レターズ」を経て、2011年から活動しているデジタルデザインスタジオ「Garden Eight」。国際的にすぐれたウェブサイトを表彰するAwwwardsやFWAなど多くの受賞歴があり、業界内で注目度の高い企業の一つです。
創業当時から現在も7名と少数精鋭を貫く同社は、どのようにして国内外で評価される実績を輩出してきたのか。下北沢にあるオフィスを訪ね、CEOの野間寛貴氏にインタビューしました。
クリエイティブな表現に長けた少数チーム
―― 現在の運営体制を教えてください。
創業当時からメンバーは、ほぼ変わりません。現在はディレクター2名、デザイナー・デベロッパー5名の7名体制で、デザイナーがデザインと実装を両方行うのは当社ならではだと思います。
現在は閉じていますが、2020年にデンマーク・コペンハーゲンに支社を開設したこともあり、海外企業との取引も多いです。過去には業務の半分が海外案件だったとこもありました。
―― 実績を拝見すると、「クリエイティブな表現に長けている」印象を抱きます。
当社のデザインは、共同創業者のひとりであり、リードデザイナー・デベロッパーである利倉健太の影響が大きいです。彼は、グローバルな基準において先端的といえるウェブデザインを得意としています。そうした彼のデザインが各アワードで評価されるようになったことは、“Garden Eightのブランドが形作られていく一因になったと思います。
例えば、デジタル体験や映像コンテンツ制作などを行うクリエイティブチーム「aircord」のコーポレートサイトは、Awwwardsで「Site of the Day」と「Developer Award」を受賞していて、突き抜けた独創性や完成度の高さを求めるGarden Eightらしい作品かもしれません。

テクノロジーを駆使した空間インスタレーションや体験型デザインなど、独創的なウェブサイトに仕上がっている(https://aircord.co.jp/en/)

同じく「Sites Of The Day」と「Developer Award」を受賞した石材を販売するタイの企業「Stone and Style」のコーポレートサイト。スクロールによって石が整形される動きに引き込まれる(https://stonestyle.co.th/)
企業の課題解決が前提にあり、その上で、商略や趣向のために賞を狙ってほしいといった要望をいただくこともあります。当社でも自己研鑽が正しい方向に向かっているかを確かめるために賞への挑戦はやぶさかではないため 、条件が合えば快諾しています。
制作において意識していることは、「インターネットの魅力を忘れないこと」です。インターネットは場所や時間を超えて世界へ向けて情報提供できるのが魅力であり、特定の人、例えば日本人だけに向けてウェブサイトを制作するのは、もったいないなと思うことがあるためです。
才能ある2名のデザイナーと共同創業
―― Garden Eightが誕生した背景を教えてください。
Garden Eightの始まりは、2011年に創業したレターズ(Letters Inc.)にさかのぼります。前職で同僚だった利倉、大工原の3人でウェブサイト制作会社を立ち上げました。僕自身はデザインや実装ができませんが、デザイナー・デベロッパーとしての2人の才能に惹かれ、この才能を世の中に放出したらどうなるのだろうと興味が湧いたんです。
レターズは2016年まで活動し、同年、所属メンバーはそのままにGarden Eightに名義を変更して現在にいたります。

Garden Eight CEOの野間寛貴氏

オフィス内に飾られたアートや小物
―― 名義を変更したのは、どんな理由から?
何かを始めるなら終わりも決めるべきだとか、全盛期でやめたら伝説になれるとか、海外で暮らしてみたかった、単純に飽きたなどいろいろな考えがありました。当時、レターズは国内外で個性的なデザインが得意な若手として注目されていたので、あえて解散することでみなのキャリアの格も上がり、将来の幅も広がるだろうと思ったのが一番の理由です。
でも、メンバーには続けたい意思があったので、折衷案として名義を変えて、事務所も移転して、活動を続けることにしました。
Garden Eightにしたタイミングで、「みなが主導の会社」という感覚、僕が率いているわけではない実態に社内を近づけたいと考えていました。自分たちで名前をつけたら「自分のもの感」が出るかなと思って、社名をみんなに考えてもらいました。 それ以降は、Garden Eightを勝手に解散する権利が僕からなくなったと捉えています。みなに継続の意思がある限り、続けていくのではないでしょうか。
―― 基本的に新卒しか採用しない方針だと聞きました。
中途採用もしたことはあるのですが、それでも年次が若い方を対象にしています。というのも、採用の最も大きな意図は社歴が浅い社員の仕事をランクアップさせたいから。ずっとアシスタント的な気持ちを持たなくてもいいように、彼・彼女らを上司にしたいという目的があります。
効率的で、仲間思いだが、冷酷な組織
―― 普段、どのような働き方をされていますか?
「毎日出社する」という大枠の方針はありつつも、メンバーと話し合ったうえで働き方を自身の考えでコントロールしてもらっています。パフォーマンスを出せる時間や環境は個々で異なると思いますし、ステレオタイプな健康生活が、当人の健康につながらないこともありますよね。それが組織にとっても利益が最も大きいと考えます。少人数だからこそできることですが。
―― 毎日出社されるのですね。
より気持ちよく、より良いものをつくるためです。仕事柄、リモートワークだとコミュニケーションが面倒になってしまうなと。単純に会って話すほうが同じ時間で何倍もの情報量を伝えられるし、様子を見れば端折れる対話もあります。結果として、制作にかける時間が増やせると思います。
加えて、ウェブデザインにまつわる議論をするならば、お互いの環境や感覚をそろえる必要性もあります。不測の事態があったときに、すぐに共有して動いてもらえる連帯性もオフラインの利点です。

社内の様子。ディレクターはリモートで業務することも

ミーティングは基本的に立ち話で済ませているという
―― コミュニケーションは対面重視だと。
Slackでのやり取りもありますが、 スタンプはほとんど押されない静かな環境です(笑)。対面でのコミュニケーションはある程度ありますが、全員を集めてのミーティングはあまり行いません。クライアントとのミーティングは基本的にディレクターのみの参加としていて、デザイナーはデザイン業務に集中してもらえるようにしています。
非常に効率的で、仲間思いですが、冷酷な組織かなと。他社と比べると対話する場面は少ないかもしれませんが、連帯意識は高いと思います。
評価の高いウェブサイトが生まれるまで
―― 制作のプロセスを教えてください。
チーム構成はディレクターが1名、デザイナー・デベロッパーが1〜2名が通常です。進行の大枠は「情報整理・素材調達→ワイヤーフレームの制作→デザイン→実装→公開」が一般的です。他の制作会社だと20〜30の工程があることが多いと思うので、他社と比較するとおおまかです。
例えば、クライアントが大手企業になると細かく項目を分けたほうが喜んでいただけるため、必要に応じてプロセスをカスタマイズしています。
―― コンセプトは、どのように固めるのですか?
当社のディレクターとクライアントとで相談しつつ、競合調査なども踏まえて固めるのが通常です。デザイナーにアイデアを求めることもありますが、基本的にはコンセプトを固めた後にデザイナーにパスします。
―― 制作過程でもっともこだわっているのは?
制作ディレクターとしての視点で言うと、課題解決と表現の両立、見栄えと機能の両立です。例えば、ブランド一新のタイミングで担当したコスメブランド「OPERA(オペラ)」のウェブサイトは、まさにそれを体現した事例かもしれません。
知りたいことへ直感的に辿り着くための情報構成、商品追加など情報更新に伴うウェブサイト全体の管理方法など機能性を担保しつつ、ブランドの世界観をより認知しやすいような表現の工夫を施しています。

コスメブランド「OPERA(オペラ)」のウェブサイト

世界観が伝わりやすいレイアウトやデザインを採用
OPERAのファンには、ソーシャルメディアでの発信を好むなどトレンドを重視する人もいました。写真のレイアウトや商品の見せ方など、ターゲット層に刺さるようなビジュアルコミュニケーションの方法を工夫しています。ブランドの魅力を伝えながら、使用感も担保されたバランスの良いウェブサイトになったと思います。
―― コンセプトやデザインのアイデアは、どのように湧いてくるのでしょう?
Awwwardsなど海外のウェブデザインアワードは、日頃から参考にしています。デザイナーのアイデア出しのスタイルは人それぞれで、気になるモーションをストックした引き出しから探す人もいれば、音楽を聞きながらアイデアが浮かぶのを待つ人、街中を歩き回って探す人もいます。

Garden Eight の実績。インスピレーションの源泉は個々で異なる
―― AwwwardsやFWAなど多く受賞されています。世界的に評価されるウェブサイトを生み出すのは、苦労が多いのではないかと。
賞を取るとしたら、まずクライアントの理解が求められます。どんな分野の賞も同様ですが、トレンドが反映されていたり、最先端の技術が使われていたり、いま扱うべき社会課題をテーマにしていたり、一定のハードルをクリアしなければ受賞できません。
クライアント側が制作上のデザインや技術において、賞獲得への影響を判断するのは難しい内容もあるため、賞を狙うならば細やかな点については理解をいただく必要があります。
受賞は、商略の立て方によってはクライアント側に実利が多くあります。自社にもメリットが多く、権威ある団体から評価されることで各メンバーのキャリアアップや自信の獲得につながりますし、習得しているデザインや技術の方向が間違っていないという手応えにもなっています。とはいえ、最も大事なのは賞への参加如何にかかわらず、すべての依頼に技能と愛を全力で注ぐことです。
―― Garden Eightで働きたいデザイナーは多いかもしれません。
積極的に大きな組織にするつもりはないのですが、メンバーは常に募集しています。気になったら、いつでも連絡ください。

小物や名刺に用いられているGarden Eightオリジナルのキャラクター
取材協力・写真提供:Garden Eight
「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。
https://love-trip-kaori.com/