
2024年5月、集英社は縦読みマンガアプリ「ジャンプTOON(トゥーン)」をリリースした。同社が築いてきた「週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)」、及びマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」のブランド力を武器に、近年盛況な縦読みマンガ市場へ参入したという。
「ジャンプTOONには、どんな狙いがあり、競合他社のサービスとどうUI・UXの差別化を図っているのか。同アプリの統括編集長 浅田貴典氏と開発を担当したサイバーエージェント社の開発チームに取材した。
サムネイル:(左)©ジャンプTOON/集英社、(右)『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』©岸馬きらく・酒ヶ峰ある/集英社
「作家の視点」を第一に、ビジネスモデルを決定
「ウェブトゥーン」とは「web」と「cartoon」を組み合わせた造語で、画面の小さなスマートフォン上でも読みやすいデジタルコミックの形態の一つだ(日本経済新聞参照)。 ただし、日本で「ウェブトゥーン」はNAVER WEBTOON Ltd.の登録商標であるため、日本では縦スクロールのマンガは「縦読みマンガ」と呼ばれる。
インプレス社の調査によると、2022年度の電子書籍 市場規模は前年比9.4%増の6026億円で、そのうちの約1割が縦読みマンガの市場規模にあたると見られる。世界的にも縦読みマンガの市場が拡大しており、グローバルインフォメーションの調査によると、2023年の40億9,300万米ドルから2030年には54億8,420万米ドルに成長すると予測されている。
2024年5月、集英社は成長市場の縦読みマンガ市場に参入した(©ジャンプTOON/集英社)
集英社では、若手社員による縦読みマンガ市場参入の提案を受けて参入を決定。ビジネスモデルについて社内で多くの議論が勃発したという。
まずは、自社でメディアを持つか否か。縦読みマンガの作品だけを制作し、既存の縦読みマンガアプリや書店に卸すことも考えたが、収集できるユーザーデータが非常に限定的になることから、自社でメディアを持つことにした。
続いて検討したのはウェブサイトにするか、アプリにするか。ウェブメディアはアダルトなど大人向けの作品が多い傾向があり、作品の系統が限定される懸念があった。加えて、課金の仕組みを考えたとき、クレジットカード決済がメインとなるウェブメディアよりキャリア決済を活用できるアプリのほうが17歳以下の幅広いユーザーを獲得しやすい。広範囲のユーザー動向を把握したい狙いがあり、アプリを開発することに。ユーザーの裾野を最大限に広げるために、アプリと同様のサービスをウェブサイトでも展開している。
「ジャンプTOON」統括編集長の浅田貴典氏(集英社提供)
さらに、「ジャンプ」の名称を使用するか否かも議論した。作家の視点に立ったとき、ジャンプで積み重ねてきた信頼を活かせることがメリットになると考え、「ジャンプTOON」という名称とした。その背景には、SNSの浸透などにより膨大な数のマンガが世の中に存在する現代において、消費者に気づいてもらうためのPRやマーケティングのコストが増大している事情があるという。
「当社では、作家の先生方に『集英社と一緒に作品を作りたい』、『集英社のメディアで作品を描きたい』と思っていただけることが最も重要だと考えています。どれだけ先生方に良いものを提供できるかを総合的に判断し、『ジャンプTOON』の名称でアプリサービスとする方針が決定しました」(浅田氏)
開発方針の策定まで、約6ヵ月かけて議論した
ビジネスモデルの決定後、サイバーエージェントがジョイン。2社の役割の棲み分けとして、掲載する作家・作品の選定やそのクオリティに関しては集英社が見極め、アプリの開発・運用・マーケティングは、集英社の意見を取り入れながらサイバーエージェントが担っている。
左から、サイバーエージェントのプロデューサー 竹内恒平氏、クリエイティブディレクター 山幡大祐氏、デザインチームマネージャー 室橋秀俊氏(サイバーエージェント提供)
開発チームは、主に企画・デザイン・アプリ・ウェブ・バックエンドの担当者で構成されている。サイバーエージェントがプロジェクトにジョインしてから約6ヵ月間は仕様やデザインの方向性を決定するための議論に当てたという。
「本プロジェクトでは、ロゴや全体のデザインの雰囲気が伝わるモックアップを制作し、仕様面も含めて総合的に議論を交わしたうえで開発をスタートしています。サービストップや作品に関わる画面など重要度の高い仕様やユーザーが目にするUIは上流のタイミングで集英社さんと議論して、開発前に両者の意見を着地させました。現在は運用フェーズに入っていますが、大きな仕様のアップデートやUIは集英社さんと壁打ちしながら決定しています」(サイバーエージェント・竹内氏)