インタビュー

デザイナーが持つべき「責任」とは何か "人間"も"非人間"も同列に捉える「ポストヒューマニズムデザイン」の訳者・森一貴氏に聞く

最終更新日:2025.09.24
デザイナーが持つべき「責任」とは何か "人間"も"非人間"も同列に捉える「ポストヒューマニズムデザイン」の訳者・森一貴氏に聞く

環境破壊や抑圧、排除を生み出してきた人間中心のデザインから、非人間も同列に捉える新たなデザインの構築へ―― 。2025年8月28日に発売された書籍『ポストヒューマニズムデザイン――私たちはデザインしているのか?』では、そうした新時代のデザインの実践を提案する。著者は、カナダを拠点とするデザイン研究者・教授のロン・ワッカリー氏。翻訳は、プロジェクトマネージャーや参加型デザイナーとして活動する森一貴氏、人類学者の水上優氏、比嘉夏子氏の3名が担当した。

フィンランドのアールト大学にてデザイン修士課程を卒業し、現在は福井県鯖江市をフィールドに、偶発的な変容を生み出すデザインの実践に取り組む森氏に、「ポストヒューマニズムデザイン」の概念やその文脈を踏まえたデザイナーに求められるマインドセット、鯖江市での実践と成果を聞いた。

サムネイル写真:森さん提供

世界一幸せな国・フィンランドへ留学 アールト大学での学び

―― 「シェアハウスの家主」「プロジェクトマネージャー」「参加型デザイナー」と多様な顔を持つ森さん。なぜ、そうした領域で活動されているのですか。

以前から「まち」に対する関心が強く、東京大学で地理学を学んでいました。卒業後も地域に関連した実践をしたいと考え、その環境に選んだのが「ものづくりのまち」として名高い福井県鯖江市です。2015年に鯖江市に移住して、さまざまな活動を行うなかで、今につながる大事な経験になったのが「シェアハウスの運営」でした。

フリーランスやものづくりの職人、公務員、人生に迷っている人など、いろいろな人が共に暮らすなかで、思いもよらないことが次々と起こるんです。偶然遊びに来た人が近隣で働き始めたり、住人同士が結婚して子どもが生まれたり。

鯖江市の風景

森さんが住む福井県鯖江市の風景(森さん提供)

鯖江市のものづくり - めがね産業と漆器

鯖江市は「めがね産業」や「漆器」など、ものづくりが盛んだ(森さん提供)

こうした偶発的な出会いによる人生の変化は、シェアハウスの家主である僕が生み出したのではありません。僕が用意したのは「共に暮らす場」だけ。一体これは何なのか。これを他の人が取り組めるようにするにはどうしたらいいのか。そんなことを調べていて出会ったのが、「参加型デザイン」でした。デザインの過程で、その影響を受ける人々をデザインプロセスに巻き込んでいく手法であり、「人々が関わり合って変化していく環境や器をつくる」という僕の関心と一致したんです。

―― 2021年にはフィンランドのアールト大学で、「参加型デザイン」を学んでいます。フィンランドは、国連などが発表する「世界幸福度報告書」で2018年以来8年連続で1位を獲得していますよね。

僕の専攻は「Collaborative and Industrial Design」といって、「サービスデザイン(参加型デザイン)」と「プロダクトデザイン」の2つの領域が融合した内容です。「デザインと社会の関係性」を探究するような学問ですね。

留学を決めたのはコロナ禍が一番の理由でした。地域関連の活動を中断せざるを得なくなり、ずっと気にかかっていた海外移住や英語学習へのアクションを起こしてみようと。

デザインに強い大学は他にもありましたが、フィンランドを選んだのは、北欧の「幸福観」や「自由さ」に惹かれたから。北欧の人々の価値観や生き方はすばらしいと言われることがあるけれど、本当にそうなのか。現地の人々の感覚を自身で体感したいと思いました。

アールト大学のキャンパス

アールト大学は、「QS世界大学ランキング」でフィンランド国内1位、「アート&デザイン」の分野別で世界8位の大学だ(森さん提供)

フィンランドの森の風景

国土の約75%が森林とされるフィンランドは「森の国」とも言われる(森さん提供)

―― 私自身も似たような動機で、北欧のデンマーク・フィンランドに約2年間滞在し、自分なりの結論を見つけられた気がします。森さんは、どんな学びや経験を得られましたか。

最も印象的だった学びは「倫理観」や「謙虚さ」です。デザイナーは自身が生み出した何かを他者に使ってもらうことで、他者の人生や価値観に影響を与えている。ごくあたり前のことですが、その力の大きさを軽視している側面もあると思います。

一方で、アールト大学の修士課程では、その影響に対する意識を徹底して鍛えます。例えば、「自身が生み出した何かで傷つく人は誰だろう」「何かをデザインする際、本来はそこに含まれているべきなのに、自身の想像力が及んでいないのはどこだろう」といった問いを繰り返し、他者への影響にまつわる意識を形成します。肌色や国籍、価値観、文化の違いを身近に感じる環境下で学ぶことで、謙虚さや権利意識がより身についた実感があります。

アールト大学の国際的な環境

学内には100以上の国籍、2000人超の留学生が在籍するなど国際的な環境を持つ(森さん提供)

人生における学びで言うと、そんなにがんばらなくてもいいのかなって。大学のグループワークでは、周りの学生が真面目に取り組まないので、僕を含め日本人の負担がやたらと増えることが最大の悩みでした。そうした真面目さや責任感は日本人の良さでもあるけれど、彼ら・彼女らの気の抜き方は見習いたい部分でもありました。

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「デザイナー」とデザインされた「何か」は、切り離してはいけない

―― 森さんは、書籍『ポストヒューマニズムデザイン――私たちはデザインしているのか?』の翻訳を担当されています。本書の重要なポイントとは?

人間中心の「ヒューマニズムデザイン」に対して、人間と非人間を同列に捉えるのが「ポストヒューマニズムデザイン」の概念です。モノや地球環境などの非人間も、人間と同様に中心を共有するデザインの実践を指します。

著者のワッカリー氏は、「ヒューマニズムは人間を例外的で特権的な存在とする態度である」と指摘しています。そして、人間中心主義を貫いた結果、気候変動や環境破壊、抑圧等が生まれてしまった。だからこそ、ポストヒューマニズムが必要だというのが彼の主張です。

ポストヒューマニズムデザイン書籍カバー

森さんが翻訳を担当した書籍『ポストヒューマニズムデザイン――私たちはデザインしているのか?』(森さん提供)

―― 本書には、ポストヒューマニズムデザインの具体例や実践における課題が多数掲載されています。森さんが印象に残ったエピソードを聞かせてください。

「人とモノは相互依存し合う関係性である」という前提を踏まえて誕生した、オランダの信号機「リヒトライン」の事例は印象的でした。これは、下を見ながら移動する「歩きスマホ」ユーザーの目線に合わせて、路上に設置された信号機です。

さかのぼると、人間は移動手段として自動車を生み出し、車と人が安全に移動できる手段として、車道と歩道、そして信号機をデザインしました。そうして人間と車が共存してきたわけですが、スマートフォンの登場により歩きスマホユーザーが増え、安全性の課題が出てきた。人とモノが相互に影響を与え合った結果、リヒトラインのアイデアが生まれたのです。

リヒトライン - LED信号機

リヒトラインは、人間とスマートフォンの相互依存によってデザインも自然に変化していくという理論を示す事例だ(オランダ・HIGのニュースリリースより)

さらに、「デザイナー(人間)」と、そのデザイナーによってデザインされた「何か」を切り離してはならないという批判も考えさせられました。ワッカリー氏は、「レジ袋」の事例を通して、デザイナーが引き受けるべき"責任"について論じています。

レジ袋は、1960年前後にスウェーデンのエンジニア、ステン・グスタフ・チューリン氏によって発明され、チューリン氏とスウェーデンに本社を置くCelloplast(セロプラスト)社が特許を取得しています。

レジ袋は、従来のヒューマニズムデザインにおいては美しいプロダクトです。非常に安価な素材から大量生産できる上に、高い耐久性と柔軟性を持ち合わせている。そうした利点から、購入した商品を自宅や駐車場まで持ち帰るという課題を解決しています。

一方で、世界中でレジ袋が利用されるようになった結果、大量のプラスチックごみが集積している海域「太平洋ゴミベルト」が生まれ、海の生きものがゴミの誤食によって死亡したり、海洋環境の持続性が失われたりしている。「デザイナーは、そうしたシステム全体への影響にまで責任を持つべきではないか」とワッカリー氏は言及しています。

デザイナーは想像力を広げ、謙虚に責任を引き受けるべき

―― デザイナーが、デザインした「何か」への幅広い影響に対して謙虚に責任を引き受けていく。一方で、どんな帰結が待ち受けているかは、その「何か」に関係する人々の倫理観に多大な影響を受けると言えます。例えば、SNSの開発者は、若者に悪影響を与えたかったわけではないと思いますが、結果として若者がスマホ依存に陥るなど多大な悪影響があります。

前提として、人々の倫理観は国や地域によって異なり、その影響度も同様に異なるはずです。例えば、フィンランドと日本を比較すると、日本はボトムアップレベルでのポストヒューマニズム意識が、フィンランドよりも非常に強いと思います。その背景には、「仏教」の価値観も影響しているのかなと。仏教では、「全ての存在や現象は互いに依存して生起する」といった思想があり、物事は「因(原因)」と「縁(条件・環境)」によって生まれていて、何一つ単独では存在しないと考えます。ただ、そうした文化的背景はありつつも、その意識は草の根レベルでとどまっているかもしれません。

対して、フィンランドは、行政や国レベルでの環境意識が非常に高いんです。プラスチック規制などの気候変動対策は国主導で世界的に進んでいるし、企業のサステナビリティ意識も、おそらく日本より高い。ですが、実際にそこで暮らしている人々が積極的に節電やゴミの分別をするわけではなく、場の調和より自身の心地よさを優先するような価値観もあります。社会的な課題は、個人の意識よりも企業や行政が先導してシステム的に解決するべきだという論調が強いのです。

そうした点を鑑みると、人々が持つ倫理観へのルーツの影響は確かにあり、受け入れなければならない前提でしょう。ワッカリー氏も、「自身のルーツであるインドネシアの影響が(自身に)ある」と述べています。

デザインの責任概念

デザインした「何か」が与える影響は、その前提も含め、全てのデザイナーが考慮すべき事項と言えるかもしれない(森さん提供)

―― ポストヒューマニズムデザインの文脈を踏まえ、森さんは、今後のデザイナーに求められるマインドセットは何だと考えていますか。

ワッカリー氏が言うように、まさに「謙虚さ」だろうと。自分の掲げた理想を実現できるという幻想、あるいは傲慢さを手放していくことではないでしょうか。実際、デザイナーは理想を実現できるほどの権力を持つことがありますが、その権力を振りかざすのではなく、他者や非人間に対して、デザインという行為を開いていく。みんながやりたいことを言葉にして、それをぶつかり合いながらカタチにしていくなかで、偶発的な変化が生まれ、閉塞的な社会が開放的な方向に向かっていくのではないかなと。そうした社会になればいいなと僕は願っています。

―― 他者と共にデザインし、その過程で起こる偶発性に価値を見出していく。では、「型を作って大量生産するという従来のデザインの価値は薄れていく」というのが、ワッカリー氏が見据える未来なのでしょうか。

本書で明確に述べているわけではありませんが、大量生産、大量消費といった資本主義的な価値観をベースにするデザインと、互酬(ごしゅう)性(※)、共有、分散などのキーワードをベースにするデザインには、かなり距離があると思います。

※互酬性…相手から受けた贈り物や行為に対して、社会的な規範や期待感、義務感から何らかの形で返礼をすること、またはその関係性

とはいえ、現代社会において資本主義的なデザインを完全に捨て去ることは難しいでしょうし、僕が鯖江市で実践しているような偶発性を狙うデザインを企業で実践するのもまた困難です。ただ、後者のデザインのあり方は抑圧されていると僕は感じていて、それを復権していくなかで、どちらも素敵だよねと受け入れられる健全な関係性を築けたらいいですね。

多様な人が混ざり合い、変容を生む「さばえまつり」をコ・デザイン

―― フィンランド留学後、森さんは鯖江市に戻り、活動を再開されていますね。

最も大きなプロジェクトとしては、「さばえまつり」という地域の祭りの発起人として、企画・運営を担っています。2024年に開始し、さまざまな人々が関わり合うなかで、思いもよらない変容が生まれることを目的としています。

祭りは、フェスやマルシェとも趣きが異なり、僕らの想像を超えた、例えば神様やお化けなんかも混ざり合うことができます。LGBTQや障害者の人など誰でも参加できて、ボーダーがありません。祭りという舞台を用意することで、これまで出会わなかった人々がつながり、想像もしない何かが生まれる。それを自分なりにカタチにする試みをしています。

さばえまつりの参加者たち

地域の老若男女が集う「さばえまつり」。2024年は約4,200人が参加した(森さん提供)

―― 「さばえまつり」では、どんな取り組みをしているのですか。

一つ、僕がおもしろいと思って採用したのが、かつて鯖江市で使われていた掛け声「イッココマッココスココンノコーン」です。弓矢を山の上から射る行事で使われる掛け声で、「邪を打ち払い、幸福を願う」という意味合いがあります。

昨年の祭りでは、開会式で地元のおじいちゃんが弓矢を射るパフォーマンスをしたり、弓矢を射るワークショップをしたり、イッココ音頭を作ってみんなで踊ったり。「イッココマッココスココンノコーン」を起点にさまざまな取り組みが生まれ、関わる人々の変容も見られました。

例えば、鯖江のアパレルショップで働いていたラッパーの「DJKoH(コウ)」は、自身の得意分野を活かしてイッココ音頭づくりに関わり、そうした経験を経て、「独立」という新たな道を歩み出しました。彼は音楽とファッションで起業したのですが、それを最初から目指していたわけではなく、たとえ起業スクールが開催されても彼は参加しなかっただろうと。さばえまつりという舞台で、さまざまな人と関わったからこそ起きた変化であり、そう考えるとおもしろいなと。こうした出来事が徐々に生まれ始めています。

さばえまつり2025年の告知

2025年の「さばえまつり」は、「やってみたいをカタチにする、なんでもありの二日間」として開催(さばえまつりの公式Instagramより)

祭りが人生に与える影響

祭りへの参加が、その後の人生に影響を与えることもあるという(森さん提供)

―― 2度目となる今年は、9月27・28日に開催されるのですね。

今年は、会場に"イッココ村・マッココ町・スココン港"という3つのまちをつくり、「理想的な鯖江の未来とは?」を問いに掲げて、それぞれの未来像を形作る取り組みを行います。さばえまつりは人間との協働という要素が強いので、ポストヒューマニズムデザインとはやや距離があります。ただ、デザイナーが枠組みをカッチリ決めてデザインするのではなく、関わる人々の影響力を活かして、全く予想しないところに到達するという観点では、その価値観を引き継いでいます。

だからこそ、さばえまつりにはビジョンがありません。それぞれが自身の興味関心や意思を発露して、互いに影響し合う。その先に新しいものが生まれていく。今年も何が生まれてくるのか楽しみにしています。

―― 最後に、森さんが考えるデザインの魅力や可能性を教えてください。

僕らが生きる社会は、ちょっと油断するとどんどん収束していきます。去年うまくいったから今年もこうしよう、社員が増えてきたのでマニュアル化しようなどと合理的、効率的な方向へ進みがちな傾向があります。

そうしたなか、偶発性を生み出す器を作っていくようなデザインの行為には、そうした収束傾向を揺さぶる、あるいは発散へと開く力があると僕は思っています。それは、社会や環境、文化的な課題に対してデザインを通じて働きかけ、変化を促そうとする「デザインアクティビズム」でもあるのかなと。同じようなことが繰り返される社会に対して、偶発性という楔(クサビ)を打ち込んでいく。それこそがデザインの力ではないでしょうか。

インタビュー
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。一般社団法人 日本デジタルライターズ協会会員。

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