
可読性の良いサンセリフ体、グリッド・システム、限られた色数の配色など、わかりやすく読みやすいデザインを作るために取り入れられるこれらの手法は、スイス・スタイルというモダニズムの後期で生まれたデザイン様式が源流となっています。この記事では、特にWebやグラフィックにおいて、現代で私たちが目にするデザインと深く結びついているスイス・スタイルについて紹介します。
スイス・スタイルとは?モダ ニズムの理念を受けて発展した情報伝達のためのデザイン様式
スイス・スタイルとは、1950年代にスイスで発展しヨーロッパを中心に流行した、グラフィックデザインの様式です。情報伝達のためのデザインを目的とし、合理的なグリッド・システムの使用、読みやすいサンセリフ体、左右非対称のレイアウト、左揃えのテキストなどを特徴としています。表示要素を必要最小限に絞ることにより、シンプルで崩れにくいデザインを作ることができるこの手法は、その後のデジタル時代に定番のスタイルとなるフラットデザインにも大きく影響を与えました。
スイス・スタイルは、スイス国内に限らず様々な国に普及したため、インターナショナル・タイポグラフィック・スタイルと言い換えられることもあります。正確には、1920年代〜1930年代にロシア、オランダ、ドイツなどで発祥した モダニズム運動(バウハウスなど)において、活版印刷に関連する動きを形式化するために付けられた名称が「インターナショナル・タイポグラフィック・スタイル(国際タイポグラフィー様式)」であり、その後に発展したのがスイス・スタイルです。両者は別の事象ということになりますが、デザイン理念は先に起きたモダニズム運動と通じるものがあります。以下の記事では、スイス・スタイルに影響を与えたとされる「バウハウス」について紹介していますので、ぜひ併せて読んでみてください。
デザインの客観性を提唱した、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン
スイス・スタイルを説明する上で欠かせないデザイナーの1人が、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンです。ミューラー=ブロックマンは、情報伝達が目的のグラフィックデザインにおいて、デザインが主観的表現になることは 避け、客観性を重視するべきであるという自身の方針から、タイポグラフィに関する技術の習得やグリッド・システムの体系化に取り組みました。また、キャリアの後半では日本を含む世界の複数の国でデザイン教育を行なっており、スイス・スタイルを発展させた立役者と言えるでしょう。
以下の2つのポスターは、ミューラー=ブロックマンが制作したコンサートのポスターです。基本図形をグリッドを用いてリズミカルに配置することで、客観的に音楽というテーマを表現しているように見て取れます。
http://www.designishistory.com/1940/joseph-mueller-brockmann/
https://en.wikipedia.org/wiki/Josef_Müller-Brockmann
数学的ルールでデザインするためのグリッド・システムの体系化
ミューラー=ブロックマンはたくさんの制作活動の末に、彼が行なってきた数学的ルールによるデザイン表現を形式としてまとめ、自身の著書「Grid systems in graphic design」で発表しました。グリッドを用いて要素を配置するのは、現代でも情報をわかりやすく伝えるため、統一性のある美しいデザインを作るための手法として主流ですよね。そのように現代でもその重要性が認識されているグリッド・システムですが、実は100年も前から模索されてきた歴史があります。1920年代に発展した、水平・垂直の線での抽象表現を特徴とするデ・ステイルがその始まりに見えますが、ミューラー=ブロックマンが体系化に取り組んだことにより、現代に定着する手法にまでなったと言えるのではないでしょうか。