
「Yahoo! JAPAN」の検索サービス開始と同時期の1996年に、Web上で提供開始された「Yahoo!天気」。2010年にはアプリをリリースし(iOS版は2012年提供開始)、2025年5月末時点で6,600万ダウンロードを突破。幅広い利用者が「天気」の情報をスムーズに取得できることを念頭に、UX・UIに注力してきた。
2025年7月には、利用者が天気に関する内容を投稿できる機能「みんなの投稿」がユニークだとして大きく注目され、一気に利用者が増加。サービスとしての認知度や価値が高まる一方で、運営者側の意図とは異なる投稿も急増した。こうした状況を開発チームはどう受け止め、どうより良いサービスにつなげていくのか。
LINEヤフー メディアカンパニー メディア統括本部 ライフライン本部 企画1部部長の平井康文氏、(本部まで同)デザイン部部長の 梶谷匡佑氏に、「Yahoo!天気の"歩み"と"これから"」を聞いた。
目指すのは、災害時にも役立つ「インフラ」のような役割
Yahoo! JAPANの検索サービスと同時期の1996年に、サービス提供が開始された「Yahoo!天気」。老若男女に利用されるサービスであり、「利用者にとって見やすい、使いやすいとは何か」を問い続けながら、UX・UIに注力してきたと平井氏は言う。
「天気は災害との関連性が深いトピックであり、豪雨や台風の際は昼夜問わず最新情報を届けています。災害時には身を守るための情報を取得するなど『インフラ』のような役割があると認識しており、『当社がやるべきである』という使命感のもとに運営されてきました。利用は完全無料で、収益源は広告のみです。当然、存続していくには一定の売り上げが必要ですが、利用者に役立ててもらうことが最優先事項です」(平井氏)

Yahoo!天気の企画担当:平井康文氏(左)とデザイナー:梶谷匡佑氏

Yahoo!天気のトップ画面(左が最上部でその下に中央と右が続く)
現在のトップ画面は、「今日・明日の天気」が大きく表示され、その下に、「いまの天気」「15日間の天気」と続く。さらに、「現在の熱中症危険度」やグループ会社のファッション系サービスと連携した「今日の服装指数」などがあり、最下部にYahoo!ニュースの記事や広告が掲載されている。下部のバーには、「地点検索」「地域の話題」「雨雲」「全国」「メニュー」と5つのメニューがあり、ニーズに応じて使い分けられる。
同サービスは完全に内製しており、現在は、企画4名、エンジニア8名、デザイナー3名がチームに在籍。主なKPIとして「デイリーアクティブユーザー」と「起動回数」を定め、日々開発に取り組んでいるという。
「毎日多くの人が利用する天気サービスは、時間をかけずに情報を把握したいという共通のニーズがあると思います。そこに応えるために、開発メンバー全員がUX・UIにこだわっています。企画担当者もデザイナーもエンジニアも、みんながフランクに意見を出し合いながら開発を進めます。新機能や大型リニューアルがあっても、迷わずに違和感なく使える体験を提供したいと考えています」 (梶谷氏)
広告施策や口コミによって、徐々に利用者を増やしていったYahoo!天気だが、2025年7月、思いがけない出来事に見舞われた。
実は歴史のある「みんなの投稿」機能、21年から強化
Yahoo!天気に関連するXの投稿が大きくバズり、またたく間に拡散された。「Yahoo!天気が次に流行るSNSのようになっている」として、そのおもしろさをネタにした投稿に大きな共感が集まったのだ。2025年8月中旬時点で、該当投稿の「いいね」は19万、インプレッションは1,639万件にのぼる。

天気のアイコンと共に投稿されたテキストが「ゆるいSNSのようでおもしろい」と話題に
Xで投稿されたのは、「みんなの投稿」と呼ばれるYahoo!天気ならではの機能。利用の際は、自身の位置情報を共有したうえで「晴れ」「くもり」「雨」といった現在の天気を選択、さらに60文字以内のテキストを投稿する。一般的なSNSと異なるのは、投稿者の名前やアイコン、プロフィールが一切表示されないこと。また、投稿者の居場所が特定されないよう、地図は一定以上の拡大ができない仕様にしている。
実際に見てみると、天気に関する投稿に混じって天気と全く関係ない投稿もあった。Xの投稿者が書いていたように、天気を軸とした「ゆるいSNS」のようにも感じられる。

2015年頃に提供されていた「実況!今の天気」(左)と2021年から開始された「みんなの天気」
さかのぼると、「みんなの投稿」は2009年から始まっている。当初は「いまの天気」と呼ばれており、投稿できるのは「天気のアイコン」と「定型文」のみ。かつ、投稿が地図上に表示されるのではなく、市区町村単位でタイムラインに表示されていた。その後、「実況!今の天気」に名称が変更。さらに、2021年には「みんなの天気」に名称が変わり、自由なテキスト投稿が地図上に表示される現在の仕様になった。
「デイリーアクティブユーザー数の観点で、雨や雪の日は多くの方が利用するものの、晴れやくもりの日は利用者が減る傾向がありました。また、近年は異常気象で雨雲レーダーに映らない雨もあります。そこで、投稿機能を通じて、より多くの方に日常的に使ってもらえたら、『洗濯物を外に干すかどうか』、『外出時に傘を持っていくかどうか』などの意思決定に役立つのではないかと考え、機能強化にいたりました」(平井氏)

「雨雲」メニュー内では、「みんなの投稿」「雨雲レーダー」「台風」「雷」「風」の情報をボタン一つで切り替えられる
同機能が好評だったことから、2022年に本格的な運用を開始。2025年2月には「みんなの投稿」に名称を変更し、1つの地図内であらゆる情報を見られるように利便性を向上させた。これにより「雨雲」では、「みんなの投稿」 「雨雲レーダー」「台風」「雷」「風」の情報をボタン一つで切り替えられるように。この体験設計には開発チームのこだわりが強く反映されている。膨大な情報量ながら待ち時間が発生せず、サクサク動くのが特徴だ。
さらに、6月には地図上の表示だけでなく、投稿を時系列で表示できるアップデートも実施(現状はAndroid版でのみ提供、iOS版でも追って実装予定)。このように利便性を追求するなかで7月にXのバズ投稿があり、同機能が大きな注目を集めたのだ。
バズ投稿で状況が急変、開発チームの見解と対応
バズ投稿を機に、投稿数が数倍に伸びたという。天気と全く関係ない投稿が目立つようになったのは、この出来事がきっかけだ。「次世代のSNS」「ゆるいSNS」として話題になったことで、意図的に天気と関係ないつぶやきを投稿する人が増えたのかもしれない。
「みんなの投稿」には、投稿時のルールが設定されており、「虚偽の投稿」「命の危険が伴う行動を促すような投稿」「イタズラの意図が汲み取れる内容」「個人を特定できる情報」「人を不快にさせる投稿」「商業や広告目的、出会い目的の投稿」などは明確に禁じられている。投稿数が増加してからはパトロールを強化 しており、ルール違反の投稿は見つけ次第、削除しているそうだ。

2025年8月現在は、首都圏以外でも一定の投稿が見られる
「ルール違反、および当社が不適切と判断した投稿を除き、天気に関係のない投稿であっても掲載しています。本来の目的は天気や季節に関連するコメント投稿ですが、これまでのユーザー利用を検証する中で、一定ポジティブに使用されているという発見があり、今後の対応については、現在検討しているところです。天気のアイコンは必須で投稿するため、投稿数が増えたことで各地のリアルな天気情報を得やすくなったのは狙い通りであり、メリットだと感じています」(平井氏)

「みんなの投稿」には選べる「テーマ」があり、これもおもしろさに一役買っている
「『みんなの投稿』には、毎日アプリを開いて楽しく使ってほしい狙いもあります。それが分かりやすく反映されているのが、投稿時に選択できる『テーマ』です。現在は『暑さ』『セミ』『アイス』『天気痛』などがあります。ごく短期間の限定テーマもあり、春は『桜』、冬は『クリスマス』、七夕の時期は『織姫と彦星』など。運営側も遊び心を持って開発していて、実際に多くの利用者が楽しみながらテーマを選んでくれています」(梶谷氏)
開発側の狙いが利用者のニーズに一定ハマっているものの、想定外の利用も増えている状況だ。天気と関係ない投稿も含まれる現状の「みんなの投稿」を好んで使う人もいれば、利便性だけを追求してほしいと考える人もいる。とはいえ、「天気情報をスムーズに確認したい」という本来の利用者の体験を阻害しないことは最優先であり、その方針に基づいて、今後の対策を検討しているという。
サービスを通じて「利用者同士が助け合う世界」を醸成したい
利用者が急増したことで処理や検討事項は増えたものの、サービス拡大の観点では、大きなチャンスとも捉えられる。Yahoo!天気の開発チームは、この状況をどうプラスに活かしていこうと考えているのか。
「Yahoo!天気を通じて私たちが実現したいのは、『有事の際にみんなが集まって助け合えるような世界』を醸成することです。例えば、ゲリラ豪雨があった際、大雪が降った際など、危険が差し迫る状況において、命を守るような情報が自然と集まるサービスになればいいなと。今回の出来事は、その世界の実現においてプラスだと捉えています。普段天気と関係ない投稿をしている方でも、有事の際は、必要な情報の提供に協力いただけることを望んでいます」(平井氏)
7月末の北海道の津波警報や8月上旬からの九州地方の記録的大雨では、天候・災害に関連する投稿が集まるなど、手応えを感じているという。最後に、Yahoo!天気における「次の展開」を聞いた。
「時代の変化とともに提供できる情報が増えるなかで、コンテンツが複雑化しています。時に、情報過多に感じることもあるかもしれません。天気予報は多くの方に必要な情報ですが、『なぜ必要なのか』という根底のニーズは、人それぞれ微妙に異なると考えます。そうした背景から、個人のニーズに合わせて情報を届けられる設計を検討しているところです」(梶谷氏)
「そうしたパーソナライズに加え、その一歩手前の動きとして、天気情報の最適化も検討事項かもしれません。例えば、現状は『今日・明日の天気予報』や『15日間天気』をトップ画面の最初に表示していますが、この暑さにおいては『熱中症危険度』をもっと上に配置したほうが良いかもしれないなど。今届けるべきコンテンツは何かを常に問いながら、柔軟に情報を届けられたらと思います」 (平井氏)
「天気予報」と一言にいっても、利用者はそれぞれ異なる軸でコンテンツを消費している。「 みんなの投稿」のようなオリジナリティのある機能を搭載していれば、それはなおさらのこと。そんななかで誰にとっても使い心地のいい体験を届けるのは、本サービスの最大の難しさと言える。「みんなの投稿」を含め、Yahoo!天気がどう発展していくのか気になるところだ。
「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。一般社団法人 日本デジタルライターズ協会会員。
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