矢印は、2本の斜めの線が角度をなして「動き」や「方向」を生み出す、きわめて単純な記号である。しかしPangram Pangramの記事は、その単純さこそが書体に組み込む際の難しさだと説く。
最大の難関は、方向ごとに一貫した印象を保つことにある。あるデザイナーは「異なる方向でストロークの太さを揃えることが最も難しい」と語る。とりわけ90度で線が交わる部分は、コントラストの低い書体では巧妙な調整を要する。単純に回転させただけでは、太さや重心の印象が方向によってばらついてしまうのだ。
矢印は単独で使われることはほとんどなく、大文字・小文字の字形と並んで現れる。そのため、サイズ・太さ・位置・比率を文字とどう調和させるかが問われる。実際の使用場面での他の要素との関係まで考慮し、完全な互換性のために複数の矢印セットを用意することもあるという。
陥りやすい失敗は、表現過剰と表現不足の両極にある。凝りすぎれば主張が強くなりすぎ、削りすぎれば個性のない凡庸な記号になる。「矢印は書体のコンセプトを補強し引き立てるべきだが、不必要に注意を引いてはならない」。その均衡を見つけることが目標となる。
制作のタイミングも一様ではない。方向性を定めるために制作の途中で矢印を描くデザイナーもいれば、書体の性格が固まってから取りかかる者もいる。サインや道案内、ブランドを軸とした書体では、構想段階から矢印が組み込まれる。小さなグリフ1つにも、書体全体の思想が凝縮されているのである。









