
ビジネスモデルキャンバスとは?

ビジネスモデルキャンバスの具体例
ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは、ビジネスモデルを明確かつ効果的に可視化するためのフレームワークです。ビジネスの構成要素を9つに分類し、視覚的な図にまとめることで、戦略の策定や意思決定をサポートする際に活用します。
スイスの経営コンサルタントである、アレクサンダー・オスターワルダー氏によって2005年に発案され、現在も世界中の企業や起業家に広く採用されているものです。このフレームワークは、新しいビジネスアイデアの発案や、既存のビジネスモデルの概念化にも役立ちます。また、ビジネスの全体像を一望できるため、チーム内のコミュニケーション促進にもつながり、効率的な計画立案を可能にします。
ビジネスモデルキャンバスの構成要素

ビジネスモデルキャンバスは、画像の例のように、ビジネスの異なる側面を表す9つの基本的な構成要素に分けられます。また、各セグメントにまたがる形で「企業外部の要素」「企業内部の要素」「財務の要素」の3つにも区分けができます。
顧客セグメント(Customer Segments):ビジネスが対象とする特定の顧客群
価値提案(Value Propositions):顧客に提供する独特の価値や解決策
顧客との関係(Customer Relationships):顧客との接点や関係の構築方法
チャネル(Channels):価値提案を顧客に届けるための手段や経路
主な活動(Key Activities):価値提案を実現するための重要な活動
主なリソース(Key Resources):ビジネスを運営するうえで必要な主要な資源
主なパートナー(Key Partners):ビジネスの成功に貢献するパートナー
収益の流れ(Revenue Streams):ビジネスにおける収益の流れ
コスト構造(Cost Structure):ビジネス運営にかかる主要なコスト
これらの要素は相互に関連し合い、全体としてビジネスモデルを形成するものですので、各要素についても細かく解説していきます。
1. 顧客セグメント(Customer Segments)

ビジネスモデルキャンバスにおける「顧客セグメント」は、ビジネスが提供する価値を受け取る顧客群を指します。ここでは、ターゲットとする顧客層を明確に定義し、そのニーズや特性を深く理解することが重要です。たとえば、年齢層・地域・趣味趣向・購買行動など、さまざまな角度から顧客を分析し、セグメント化します。
顧客セグメントを明確にすることで、ビジネスモデルの他の要素、たとえば価値提案やチャネルの選択にも影響を与えることを理解しておく必要があります。
2. 価値提案(Value Propositions)

「価値提案」とは、顧客に提供する製品やサービスの価値を表します。ビジネスモデルキャンバス上では、顧客がなぜその製品やサービスを選ぶのか、どのような価値を得るのかを明確に記載する必要があります。
価値提案には、単に製品の機能や特徴を挙げるだけでなく、たとえば生産性向上やコスト削減など、顧客にとってわかりやすいメリットを考慮する必要があります。そのうえで、顧客の問題解決やニーズの満足にどう貢献するか、具体的に示す必要があるのです。
価値提案を明確にすることで、ターゲットとする顧客セグメントに対して、競合他社とは異なる独自の価値を見出すヒントにもなります。
3. 顧客との関係(Customer Relationships)

ビジネスモデルキャンバスにおける「顧客との関係」は、企業と顧客との現在の関係性や、今後の交流から変化が予測される関係性などを記載します。
顧客との関係を深めることは、顧客満足度の向上、リピート購入の促進、口コミによる新規顧客獲得に直結します。ビジネスを成長させ続けるためには、顧客との関係を維持し、強化することが不可欠です。顧客との関係を見直すことで、数値で測れない面での事業の状況を把握できるようになります。
4. チャネル(Channels)

「チャネル」とは、製品やサービスを顧客に届ける方法や経路を指します。チャネルは直接的なもの(自社の店舗やWebサイト)から間接的なもの(小売店や代理店など)まで多岐にわたる場合もありますが、なるべく細かく記載する必要があります。
チャネルを明確にすることで、製品やサービスへのアクセス状況が把握でき、そこから課題なども見えてきます。効果的なチャネル戦略を打ち立てることで、顧客満足度の向上にもつながるのです。また、商品やサービスに合った適切なチャネルを選択することで、コスト効率の良いマーケティングが可能になり、ビジネスの収益性を高めることもできます。
5. 主な活動(Key Activities)

ビジネスモデルキャンバスにおける「主な活動」とは、現状の業務内容を指します。たとえば、製品開発やマーケティング、顧客のアフターサービスや品質管理など、主だった活動を記載する必要があります。
分析をしていく中で、現状の主な活動が適切な内容であるか、新たな柱として活動領域を広げる必要があるのかなどが見えてきます。企業はこれらの活動を効率的に管理し、リソースを最適化することで、競争優位性を確立し、市場での成功を実現できます。
6. 主なリソース(Key Resources)

ビジネスモデルキャンバスにおけ る「主なリソース」は、ビジネスの運営に必要なさまざまなリソースを記載します。企業のリソースには、物理的リソース(建物・機械・設備)や知的リソース(特許・著作権・ブランド)、人的リソース(従業員・専門知識)や財務リソース(資金・投資)などが含まれます。
これらのリソースは、企業が価値提案を実現し収益を生み出すための基盤ですので、正しい経営をおこなえているかの判断材料になると同時に、今後成長するために必要なリソースが何なのかを明確にします。
7. 主なパートナー(Key Partners)

「主なパートナー」は、自社のビジネスに不可欠な外部の組織や個人の存在を指します。たとえば、業務を請け負っているクライアントやアウトソースしている営業代理店、自社製品におけるサプライヤーなど、多岐に渡るパートナーを意味します。
このセクションでは、各パートナーとの関係性や利害状況まで明確にしておく必要があります。収益状況において課題がないかを把 握することは、健全なビジネスを送るうえでも重要な要素です。
8. 収益の流れ(Revenue Streams)

「収益の流れ」は、ビジネスモデルキャンバスにおいて、企業が価値提案を通じてどのように収益を生み出すかを示します。この要素は、どの顧客セグメントがもっとも利益をもたらすかまで明確にします。
収益の流れには、商品販売料・サブスクリプション料・ライセンス料・広告収入など、多様な形態があります。直接的な販売だけでなく、アフィリエイトなどの間接的な営業活動も考慮する必要があります。
9. コスト構造(Cost Structure)

「コスト構造」とは、企業の運営に必要な費用を明確にします。生産コスト・人件費・研究開発費・マーケティング費用・設備投資など、多岐に渡るコスト要素を記載することで、どういった要素に費用が発生しているかが掴みやすくなります。
ビジネスモデルの持続性を確保するには、コスト構造を最適化し、収益とのバランスを取ることが不可欠です。分析要因としても、とくに重要なポイントになります。
ビジネスモデルキャンバスのテンプレート入手先を紹介
ビジネスモデルキャンバスを実際に使ってみたい方に向けて、便利なテンプレートの入手先を紹介します。PDF、Figma、PowerPoint、Excel形式でのテンプレート、さらにはホワイトボードツールを活用した方法まで、さまざまなテンプレート入手先をご紹介します。
Figma & PDF版 『ビジネスモデルキャンバステンプレート』
unprintedでは、Figmaファイルと印刷して使用できるPDF形式のビジネスモデルキャンバステンプレートを配布しています。どちらも登録やメールアドレスの入力は不要!個人・商用に関わらず自由ご利用頂くことができます。

ビジネスモデルキャンバステンプレートの使い方

FigmaとPDFで使えるテンプレート
PowerPoint形式
PowerPoint形式でのビジネスモデルキャンバステンプレートは、「ferret」から入手できます。
こちらのテンプレートを使用することで、ビジネスモデルの各要素を視覚的に整理し、チームメンバーとの共有や議論が容易になります。PowerPointの操作に慣れている方なら、テンプレートのカスタマイズも簡単におこなえるため、自社のビジネスモデルに合わせた調整も可能です。
Excel形式
Excel形式のビジネスモデルキャンバステンプレートは、「ビズ研」のページ内から入手できます。こちらのサイトでは、ビジネスモデルキャンバスのテンプレートだけでなく、ビジネスに関するさまざまな書式テンプレートが入手できます。
Excelの表計算機能を活用することで、コスト構造や収益の流れなどを具体的に計算し、ビジネスプランの精度を 高めることが可能です。また、Excelだとデータの更新や変更が容易なため、ビジネスモデルが進化しても柔軟に対応できる点が特徴です。
ホワイトボードツール(Canva)
オシャレなデザインが誰でも製作できる「Canva」ですが、ホワイトボードツールを使用すると、ビジネスモデルキャンバスのテンプレートも入手できます。Canvaをまだ使ったことのない方は、新規でアカウントを作成することで、テンプレートの入手先にアクセスできます。
Canvaのテンプレートは、直感的な操作でカスタマイズが可能であり、ビジュアル要素を豊富に取り入れて構築できます。 チームメンバーとの共有や協働も容易で、リアルタイムでの編集やフィードバックも可能です。
ホワイトボードツール(Miro)
ホワイトボードツールとして世界的に多くの企業で利用されている「Miro」でも、ビジネスモデルキャンバスのテンプレートを手軽に入手できます。Miroのサイトでは、アカウント作成、もしくはログインすることで、容易にカスタマイズができる豊富なテンプレートにアクセスできます。
Miroは、ドラッグアンドドロップの操作でカンタンにアイデアをキャンバス上に配置し、チームメンバーと共有・編集が可能なツールです。遠隔地にいる チームメンバーとの共同作業や、アイデアの視覚化を重視するユーザーにとくに適しているため、MTGをしながらビジネスホテルキャンバスの作成も可能です。
ビジネスモデルキャンバスの欠点
ビジネスモデルキャンバスは、事業計画の策定やビジネスの構造理解に広く用いられるツールですが、万能ではありません。特定の状況やニーズに応じて、その限界や課題を理解することが重要です。ここでは、ビジネスモデルキャンバスの欠点について掘り下げていきます。
ビジネスの基礎知識が必要になる
ビジネスモデルキャンバスを効果的に活用するためには、ビジネスの基礎知識が不可欠です。市場分析・競合環境・顧客ニーズなど、多岐にわたる要素を網羅するフレームワークですが、これらの要素を適切に理解し、分析するためには、ビジネスの基本的な概念や理論に精通している必要がありま す。とくに、市場動向の分析や顧客セグメントの特定、価値提案の開発など、複雑なビジネスの側面を扱う際には、専門的な知識が求められます。
ほかフレームワークと組み合わせる必要がある

ビジネスモデルキャンバスの効果を最大限に引き出すためには、他のフレームワークとの組み合わせが必要です。たとえば、SWOT分析を併用することで、企業の強み・弱み・機会・脅威をより深く掘り下げられます。また、アンゾフの成長マトリクスを取り入れることで、市場浸透戦略や市場開拓戦略、製品開発戦略や多角化戦略などの外部要因を組み合わせた分析が可能です。こういった他のフレームワークと組み合わせなければ、ビジネスモデルキャンバスの枠組み内で取得できる情報に制限が設けられてしまうことは理解しておくべきでしょう。
ビジネスモデルキャンバスと併用されるフレームワーク
ビジネスモデルキャンバスは、単独で使用するだけでなく、他のフレームワークと組み合わせることでさらに効果を発揮します。ここでは、ビジネスモデルキャンバスと併用される主要なフレーム ワークについて詳しく解説します。
リーンキャンバス

リーンキャンバスは、スタートアップのビジネスモデルを「仮説」として9つの要素に分け、可視化・検証するフレームワークであり、ビジネスモデルキャンバスをスタートアップ向けに最適化したものです。
未知の領域で価値を提供しようとするスタートアップでは、ターゲット顧客や市場ニーズが不明確であるため、ビジネスモデルは常に変化し、最適化される必要があります。リーンキャンバスは、この仮説検証サイクルを支援するために設計されています。
リーンキャンバスの9つの要素には、課題、顧客セグメント、独自の価値提案などが含まれます。これらの要素を埋めることで、ビジネスが「誰に何を提供するのか」が明確になります。重要なのは、これらの要素を埋めながらビジネスモデルのアイデアを考え、仮説を検証し続けることです。
バリュープロポジションキャンバス

バリュープロポジションキャンバスは、企業が顧客に提供する価値を明確にするためのフレームワークです。このキャンバスは、顧客のニーズやウォンツを満たすために、企業がどのような価値を提供できるかを可視化するのに役立ちます。具体的には、カスタマー(ユーザー)情報を記載した図と、バリュープロポジションを記載した図の2つを作成し、これらを比較することで、提供する価値と顧客のニーズの一致度を確認します。
このフレームワークを活用することで、企業は自社の強みを明確にし、顧客とのニーズのずれを把握することが可能になります。これにより、より効果的なマーケティング戦略の策定や、新しいプロダクトの開発に役立てられるのです。
ビジネスモデルキャンバスの作成例
ここでは、家計管理アプリと食器ブランドという全く異なるビジネスを例として、具体的なビジネスモデルキャンバスの例を2つ紹介します。
家計管理アプリのビジネスモデルキャンバス

上記は、家計管理アプリを想定して作成したビジネスモデルキャンバスの例です。モバイルアプリによってユーザーの課題を解決するビジネスなどは、ユーザー視点での価値はわかりやすいものの、「収益を生む仕組み」を簡単に把握するのが難しい場合もあります。このようなケースにもビジネスモデルキャンバスは有効です。
こちらの例では、ビジネスモデルキャンバスの項目を埋めることによって、家計分析のアルゴリズムを作るために重要となる外部の専門家の存在(パートナー)や、モバイルアプリ以外の顧客との接点を作るオウンドメディアの存在(顧客との関係)が可視化されます。
アプリ内の改善施策にばかり気を取られがちなビジネスでも、ビジネスモデルキャンバスを活用することによって、より俯瞰的な視点でビジネス全体を見渡すことができるようになります。
食器ブランドのビジネスモデルキャンバス

上記は、文部科学省の「アイディアをビジネスモデルの側面から検討する:BMCの活用」をもとに作成した、食器ブランドのビジネスモデルキャンバス作成例です。この例は、ビジネスモデルキャンバスを用いて、顧客のニーズに応じた製品開発と効率的な運営を実現する方法を示しています。
フレームワーク内では、顧客セグメントとして「時短のニーズがあるワーキングママ・ファミリー」をターゲットに設定し、価値提案は「機能性と豊かな食体験の両立」、忙しいママの幸せを創造する器を提供することとしています。主要なチャネルは自社ECチャネルやライフスタイルショップ、カフェなどで、パートナーにはデザインファームや映像ディレクターが含まれ、主要活動には試作開発や量産能力の強化があります。
リソースとしては、東南アジアの工場やシリコンウェア金型などが挙げられます。また、コスト構造では、歩留り効率の改善や変動費の削減を重要としており、収益の流れとしては機能性商品としての価格設定やB2B販売による価格帯の設定が含まれています。
まとめ
本記事では、ビジネスモデルキャンバス(BMC)の基本概念、その利点と欠点、さらには併用されるフレームワークについて詳細に解説しました。また、ビジネスモデルキャンバスのテンプレート入手先や、実際の作成例も紹介し、ビジネスプランニングの具体的な手法を提供しています。
ビジネスモデルキャンバスを活用することで、自社のビジネスモデルを体系的に理解し、市場や顧客のニーズに合わせた戦略を練ることができます。この記事を参考に、フレームワークを効果的に活用し、より効果的なビジネス戦略のヒントを得てください。