
アンゾフの成長マトリクスとは?

アンゾフの成長マトリクスは、戦略的経営の父と呼ばれた経営学者イゴール・アンゾフが唱えたフレームワークで、ビジネスの成長戦略を考える際の有効なフレームワークとして知られています。
アンゾフの成長マトリクスでは、成長戦略を「製品」と「市場」の2軸で考え、それぞれを「既存」と「新規」に分けて考察しています。具体的には、既存の製品を既存の市場で展開する「市場浸透戦略」、新しい製品を既存の市場で展開する「製品開発戦略」、既存の製品を新しい市場で展開する「市場開拓戦略」、新しい製品を新しい市場で展開する「多角化戦略」の4つです。
1965年に提唱されたフレームワークですが、競争が激しい現代のビジネスでも活用できるものとなっています。それぞれの組み合わせによるシナジーを理解し、適切に活用することで、企業は成長の方向性を明確にし、より効果的な戦略を策定できるようになるのです。
アンゾフの成長マトリクス4つの戦略
アンゾフの成長マトリクスは、企業が取るべき成長戦略を明確にするためのフレームワークとして、「製品」と「市場」の2つの要素を基に、4つの異なる戦略を提案しています。
市場浸透戦略
市場開拓戦略
製品開発戦略
多角化戦略
上記4つの戦略を適切に選択できれば、企業は市場での競争力が高まり、思い描く理想の成長に近づきます。それぞれの概要について解説します。
市場浸透戦略(既存市場 × 既存製品)
「市場浸透戦略」とは、企業がすでに提供している製品やサービスを、現在の市場でさらに深く展開するための戦 略です。具体的には、既存の顧客に対して製品の購入頻度を増やす、新たな顧客層を獲得する、または競合他社の顧客を取り込むといったアプローチを考えます。
この戦略のメリットは、新しい製品の開発や新市場への進出といったリスクを伴わないという点です。既存の顧客基盤やブランド力を最大限に活用し、効果的なマーケティングやプロモーションを行うことで、市場シェアの拡大や売上の増加を目指せます。
市場開拓戦略(新規市場 × 既存製品)
「市場開拓戦略」とは、企業が現在提供している製品やサービスを、まだ進出していない新しい市場や顧客層に展開するための戦略です。具体的には、地域的な拡大や異なるターゲット層へのアプローチなどが考えられます。
たとえば、国内でのビジネスが安定してきた企業が、海外市場への進出を検討する場面でこの戦略が取り入れられることが多いです。また、異なる年齢層やライフスタイルを持つ顧客層への展開もこの戦略の一部となります。市場開拓戦略を成功させるためには、新しい市場のニーズや文化を深く理解し、適切なマーケティング戦略を策定することが不可欠です。
製品開発戦略(既存市場 × 新規製品)
「製品開発戦略」とは、企業が現在展開している市場に、新しい製品やサービスを導入するための戦略です。この戦略の背景には、顧客のニーズの変化や技術の進化、競合との差別化を図るための取り組みなどがあります。
スマートフォンの進化にともない、新しいアプリケーションや機能を開発して市場に投入する戦略や、環境問題への対応としてエコフレンドリーな新製品を開発する戦略などが該当します。製品開発戦略を採用する際には、市場のトレンドや顧客の声をしっかりとキャッチし、継続的な研究開発活動を行うことが大切です。
多角化戦略(新規市場 × 新規製品)
「多角化戦略」とは、企業がまったく新しい市場に、新しい製品やサービスを導入する戦略です。この戦略は、企業のリスクを分散させるためや、新しい収益源を確保するために採用されることが多いです。
たとえば、自動車メーカーがエネルギー事業やIT事業に進出する場合などが考えられます。多角化戦略を成功させるためには、新しい市場や製品に関する深い知識や経験が必要です。また、企業の経営資源や技術を最大限に活用し、新市場での競争力を確立することが求められます。逆に資金力がないスタートアップの企業であっても、新しい製品を開発してビジネスを始める場合、多角化戦略で臨むケー スも多いです。
この戦略は高いリスクをともないますが、成功すれば大きなリターンを得られるというメリットがあります。
「多角化戦略」はさらに細分化できる

競争の激しい現代のビジネスにおいて、既存の製品や既存の市場だけを主戦場としていても、売上が保証され続けることはありません。そのため、新たな製品開発や新たな市場へのチャレンジが求められるケースは多いです。
水平型多角化
垂直型多角化
集中型多角化
集成型多角化
新規市場×新規製品の「多角化戦略」には、さまざまなアプローチや方向性が存在しますが、具体的には上記の4パターンにわけられます。企業が取るべき方向や、どのような市場・製品に進出するかによって戦略は細分化されるのです。
それぞれの戦略には、特有の特徴や目的、そして取り組むべきポイントがあります。このセクションでは、それぞれの細分化された戦略の特色や適用シーンについて詳しく解説していきます。
水平型多角化
水平型多角化は、企業が現在の主力市場と同じ、または類似した市場に新しい製品やサービスを導入する戦略です。このアプローチの魅力は、既存の顧客基盤やブランド力を活用して、新しい製品やサービスを効果的に市場に展開できる点にあります。
たとえば、アパレルブランドが服だけでなくアクセサリーや化粧品を展開する場合などが考えられます。水平型多角化を成功させるためには、市場のニーズやトレンドを把握し、既存のリソースやノウハウを最大限に活用することが重要です。また、新しい製品の開発やマーケティング戦略の策定にも注力する必要があります。
垂直型多角化
垂直型多角化は、企業が既存製品と関連性の低い製品を開発し、既存の市場に投入していく戦略です。
垂直型多角化戦略では、既存顧客や既存の取引先へのアプローチがしやすい点がメリットとなります。
例として、輸入豆でコーヒーショップを展開している企業が、自社でコーヒー豆の農園栽培までおこない、農園で栽培した食物の販売業に着手するようなケースが挙げられます。水平型多角化戦略と比べ、元々持っているノウハウが少ない分、リスクは高いです。そのため、垂直型多角化を採用する際は、新たに着手する開発領域で成功している事業者からノウハウを集積することや、既存事業の売上を落とさないような経営リソースの配分が求められます。
集中型多角化
集中型多角化とは、企業が自身の核となる事業や技術をもとに、新しい市場へ進出する戦略です。この戦略の魅力は、企業が持つ独自の技術やノウハウを活かしながら、新しいビジネスチャンスを探求できる点にあります。
たとえば、革製品を使った高級財布やカバンの製造販売を営む企業が、小学生向けのランドセルを製造販売するようなケースが該当します。集中型多角化を成功させるためには、自社の強みや技術の特性を深く理解し、それを最大限に活用する方向性を持つことが重要です。また、新しい市場への適応力や、変化に柔軟に対応する経営体制の構築も求められます。