
今年、コペンハーゲン発祥のグローバルデザインカンファレンスの東京版『Design Matters Tokyo 2025』に参加してきました。日本のデザイン業界でも有数のグローバルなデザインカンファレンスということで、海外からの参加者も多く、会場は海外カンファレンスに参加していると錯覚するような雰囲気でした。ここ数年、業界の話題がAIに集中する中、Design Matters Tokyo 2025ではチームビルディング、創造性、倫理的デザインといった、とても「人間らしい」テーマも幅広く扱われていたことが印象的でした。

フリーランスのデジタルプロダクトデザイナーです。UI/UXデザイナーおよびデザインコンサルタントとして、日本国内外のクライアントと共に仕事をしてきました。化粧品、ファッション、旅行、自動車メーカー、不動産、ECサイト、エンタメ、動画配信サービスなど、さまざまな業界での経験があります。

今回は、カンファレンスの中でも個人的に特に注目していたワークショップの一つ『責任あるオープンテクノロジーのためのデザイナーとは:OSSへの貢献のススメ』に参加する機会をいただいたので、ワークショップの内容、そして「デザイナーとしてオープンソースプロジェクトに取り組むこと」についてのホストのお二人へのインタビュー内容を詳しくレポートします。
ワークショップは、「人々の利益のために知識とリソースを共有すること」の必要性について実践的な取り組み方をオープンソースプロジェクトへの擬似的な参加体験を通して学べるものでした。オープンソースプロジェクトがどのように私たちの生活を支えているのか、そして私たちデザイナーがどのようにプロジェクトに貢献できるのかといった理念と実践の両面について理解を深めることができました。
ワークショップ『責任あるオープンテクノロジーのためのデザイナーとは:OSSへの貢献のススメ』
ワークショップは、3つの実際のオープンソースプロジェクトを中心に構成されており、それぞれが日本における社会的なニーズや、コミュニティの課題を解決するためのプロジェクトでした。
1. アフターピル検索 / Afterpill search 緊急避妊薬へのアクセスをサポート

アフターピル検索は、緊急避妊薬の入手を支援するプロジェクトです。日本では、緊急避妊薬の入手には医師の処方箋が必要(2025年10月9日現在)で、クリニックが閉まっていたり遠くにある場合、必要なタイミングでのアクセスが困難になることがあります。アフターピル検索プロジェクトでは、現在地から近く日曜祝日などでも空いている、医療機関や薬局の検索ができるWebサービスを提供しています。これにより、週末や祝日でも72時間以内に緊急避妊薬を入手できるよう支援します。
2. Proj-inclusive コードで貧困問題に取り組む

Proj-inclusiveは、Code for Japanのハッカソンから生まれたボランティア市民グループで、貧困や生活困窮を予防できる社会を目指しています。日本の複雑な社会保障制度により、多くの人が支援を受け損なっているという状況への対処に取り組んでおり、世帯情報をもとに、適用される可能性が高い制度、金額、窓口を紹介するアプリの開発など、「誰一人取り残さない社会の実現をコードで加速する」というミッションのもと活動しています。
3. Toban -当番- プロジェクトへの貢献を記録して報酬を公平に配分

Toban -当番-は、活動を記録し報酬を分配することを簡単にするオープンソースのブロックチェーンベースのツールで、参加者がコミュニティやプロジェクトに長期的に参加し続けることを支援します。オープンソースプロジェクトなど多くの貢献者(コントリビューター)が参加するプロジェクトにて、貢献度や貢献期間をトラッキングした上で公平な報酬を分配することは容易ではありません。Tobanは、これらの課題を解決するソフトウェアを開発しています。
ワークショップの参加者はチームに分かれ、各チームに配置されたリーダーがまず、ユーザビリティ観点での障壁からコミュニケーションのギャップまで、現在直面している課題を紹介しました。その後、参加者たちが協力してデザインソリューションを提案し、これらのプロジェクトを直接サポートできるプロトタイプまで作成しました。
この実践的な形式により、参加者はオープンソースの独特な文化について学ぶだけでなく、コミュニティプロジェクトに自分のスキルを活用する体験をすることができました。
デザイナーとオープンソースコミュニティの間のギャップ
このワークショップから得た学びをもとに、オープンソースプロジェクトへのデザイナーとしての貢献とその可能性について、ワークショップのホストであるEriol Foxさんと川邊悠紀さんにお話を伺いました。

EriolさんはSuperbloomのシニアデザイナー兼リサーチャーで、川邊さんはCode for Japanで開発者をしており、いくつかのプロジェクトをリードしています。お二人とも情熱的なオープンソース愛好家で、長年にわたって様々なプロジェクトへの貢献を続けています。
―― このワークショップ を開催することになった経緯を教えてください
Eriol: より多くのデザイナーに、オープンソースソフトウェアの重要性を伝えたいと感じていました。オープンソースプロジェクトによって作られたものは至る所にあり、普段私たちは気づかないうちに多くの恩恵を受けています。たとえば、マクドナルドでさえ、サービスの一部を支えるオープンソースプロジェクトを持っています!
しかしながら、多くのオープンソースプロジェクトはユーザビリティとデザインの観点で苦労しています。インターフェースが必要以上に複雑であったり、コマンドラインインターフェイスのみ提供していたりといったケースが多く、仮にターミナルでのみ動作するツールにGUIを提供することができれば、それだけでもより多くの人がその恩恵を受けられるようになります。それがデザイナーが集まるこのイベントでワークショップを実施したいと思った理由です。
川邊: 日本では、オープンソースエコシステムで活動するデザイナーの数はまだ非常に少なく、多くのプロジェクトがデザイナーを見つけるのに苦労しています。
昨年のカンファレンスでEriolさんと出会い、彼女のワークショップテンプレートを日本語に翻訳して、自分たちでも何度か実行してみましたが、デザイナー向けのオープンソースワークショップにはさまざまな困難がありました。だからこそ、一緒にワークショップを開催することを提案しました。日本のデザイナーにもシビックテックやオープンソースに意味のある貢献ができることを示すことが重要だと感じました。

―― デザイナーとオープンソースコミュニティの間のギャップについて詳しく教えてください
Eriol: オープンソースはエンジニアにとっては自然に感じられますが、デザイナーにとってはそうではありません。多くのエンジニアはキャリアの早い段階からオープンソースプロジェクトへの貢献を始めますが、多くのデザイナーはオープンソースが何なのかさえ知りません。だからこそ、コードメンテナー(オープンソースプロジェクトのコード管理者)と同様に、デザイン面での貢献者を導くリーダーである「デザインメンテナー」が必要なのです。しかし、まずデザイナーはオープンソースの文化、貢献の仕組み、そして自分たちの居場所を学ぶ必要があります。
―― オープンソースの世界でメンテナーはどのような役割を果たすのでしょうか?
川邊: メンテナーは単にコードを書くだけではありません。彼らは人、アイデア、価値観を調整してプロジェクトの整合性を保ちます。デザインにも同じことが必要です。しかし、多くのデザイナーがオープンソースの文化に慣れていないため、このようなワークショップが彼らがそのような役割に向けて最初の一歩を踏み出すのに役立ちます。
―― なぜオープンソースプロジェクトに参加するデザイナーが少ないのでしょうか?
Eriol: 私が所属するSuperbloomでは、デザイナーがオープンソースへの貢献経験を共有するダイアリー・スタディを実施しました。その中で彼らが説明した課題は明確でした。
認識の課題:多くのデザイナーがオープンソースが何なのか、世界がそれにどれほど依存しているかを知らなかった。
自信の課題:参加するにはコーディングやターミナルスキルが必要だと思っていた。
コミュニケーションの課題:エンジニアは技術的な用語で話し、デザイナーは問題と探求に焦点を当てて話すため、コミュニケーションにギャップを作り出していた。
多くの人にとって、Code for Japanのようなシビックテックプロジェクトは、人間中心的で親しみやすいため、より参加しやすいように感じられると思います。しかし、それでもオープンソースで協力する方法を学ぶという課題は残っています。
ダイアリー・スタディとは?
ダイアリー・スタディは、参加者が一定期間にわたって自分の体験や行動を記録し、研究者がその記録を分析してインサイトを得る定性調査手法です。リアルタイムでの体験記録により、記憶の曖昧さを排除し、より正確な行動パターンや感情の変化を把握することができます。
―― オープンソースプロジェクトに貢献する際のデザイン面での意思決定者は誰でしょうか?デザインが良いかどうかは誰が決めるのですか?
川邊: 多くのオープンソースプロジェクトでは、意思決定はエンジニアとデザイナーの間の合意によって行われます。エンジニアは通常、 実装とクリーンなコードに焦点を当てますが、時にはデザインを気にしません。それが課題です。
しかし、Code for Japanプロジェクトのデザイナーは、エンジニア、ユーザー、さらには他のプロジェクトからアイデアを収集するのが得意です。彼らはほぼプロダクトマネージャーのように行動し、すべての視点が考慮されることを担保しています。
―― デザイナーはどのようにオープンソースデザインプロジェクトでの貢献を始めることができますか?
Eriol: 始めるのに最適な場所の一つは、私がメンテナンスを手伝っているコミュニティであるOpenSourceDesign.netです。ボランティアと有償の機会の両方がある求人掲示板があります。あまり知られていないものの、多くのプロジェクトが貢献者をサポートするための助成金や持続可能性基金に応募しているので、デザイナーはオープンソースプロジェクトで報酬を得ることもできます。
簡単なステップは次の通りです。
OpenSourceDesign.netに行く(コミュニティと求人掲示板があります)
プロジェクトを選んで、GitHubのイシューやディスカッションボードに参加する
躊躇せずに質問し、小さく始める
モックアップ、リサーチ、ユーザビリティの改善、明確な問題の説明で貢献する
好きなツールを使用する(Figma、Miro、単純な画像フ ァイルでも構いません)
日本のオープンソースプロジェクトを見つけるには?
Code for JapanのNotionページからデザイナーの助けを必要とする様々な日本のオープンソースプロジェクトを見つけることができます。
オープンソースプロジェクトでの小さな貢献と協力に慣れる
―― オープンソースに参加するにあたって、デザイナーに必要なスキルは何でしょうか?
川邊: オープンソースの文化は協力的なものです。デザイナーはすべてを自分で修正する必要はなく、問題を特定し、他の人が助けられるように明確に説明することができます。たとえば、イシューを書くことだけでさえ大きな貢献になります。
そのため、重要なスキルは小さな貢献と協力に慣れることです。デザインを「所有」する必要はありません。価値を追加するだけで、他の人がそれを発展させてくれる かもしれません。
Eriol: まさにその通りです。デザイナーはしばしば自分の作品に所有感を感じますが、オープンソースでは、デザインはFork(複製)、修正、改善されることを意図しています。デザインを最終製品ではなくプロセスとして見ることを学ぶことは、最も価値のあるスキルの一つです。
―― オープンソースプロジェクトへの貢献がデザイナーのキャリアにどのような影響を与えると思いますか?社会を助けるという感覚を超えて、どのような利益をもたらすことができますか?
Eriol: ジュニアデザイナーにとって、オープンソースへの貢献は実世界のポートフォリオプロジェクトになります。SpotifyやFacebookの架空のリデザインよりもはるかに価値があります。
シニアデザイナーにとっては、グローバルコミュニティへの露出、カンファレンスへの参加、新しい技術スキルや新たな世界観を得ることができます。個人的に、オープンソースは世界がいかに相互に接続されているかを教えてくれました。日本の誰かが書いたコードが翌日ナイジェリアで使用されることがあります。これは他の場所では得られない視点です。
―― オープンソースへの貢献があなた をどのように変えましたか?デザイナーへの主な学びは何でしょうか
Eriol: オープンソースは私のデザインへの見方を変えました。オープンソースプロジェクトのデザインは、グローバルで、普遍的、そして常に進化しています。このような環境でなければ出会うことのない人々と会い、キャリアの可能性を予期しない方法で拡大することができました。
川邊: 私にとって、貢献の最大の贈り物は友情です。オープンソースコミュニティに参加する人々は、プロジェクトが取り組む課題や人々に届けられる価値にフォーカスしており、それを伴う困難をともに乗り越えようとします。これはビジネス的な取引に比べて長期的な目線でコラボレーションする前提となっています。同僚や家族とはちがう、同じ情熱を共有する真の友人に出会うことができます。
最後に
私は12年以上デジタルプロダクトの分野でデザイナーとして働いてきましたが、オープンソースに貢献することを想像したことはありませんでした。関心がなかったからではなく、それが選択肢であることを知らなかったからです。オープンソースは開発者のためのもので、私には技術的すぎると思っていました。そして、他の多くのデザイナーも同じ誤解を抱いていると思います。
今回のワークショップを通してEriolさんと川邊さんが伝えてくれたように、デザイナーにはオープンソースコミュニティに提供できることがたくさんあります。小さなユーザビリティの調整から、デザインメンテナーとしてのリーダーシップまで。オープンソースには単により多くのコードが必要なのではなく、人間のニーズをテクノロジーと結びつけることができる人々が必要なのです。そして、それは私たちが最も得意とすることなのではないでしょうか?

フリーランスのデジタルプロダクトデザイナーです。UI/UXデザイナーおよびデザインコンサルタントとして、日本国内外のクライアントと共に仕事をしてきました。化粧品、ファッション、旅行、自動車メーカー、不動産、ECサイト、エンタメ、動画配信サービスなど、さまざまな業界での経験があります。
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