
グラフィックやWebのデザインに携わる人なら誰もが聞いたことがある、または使ったことがある有名フォント「Futura」について、意外に知らない歴史を振り返りながら、その魅力を考察してみます!
Futuraとは?Futuraの歴史とコンセプト
「Futura」は、ドイツの書体デザイナーのPaul Renner(パウル・レナー)によって制作され、1927年にリリースされました。幾何学的なフォルムが特徴的なジオメトリック・サンセリフに分類される書体で、世界中で広く使われる定番の1つと言える欧文書体です。「Futura」とは「未来(英語のfutureに相当)」を意味するラテン語であり、日本語での読み方は「フトゥーラ」「フツーラ」「フツラ」「フーツラ」など複数あります。
Futuraが制作された1920年代は、バウハウス(ドイツのデザイン学校)の人気や評価が高まり、装飾性ではなく機能的な美しさを追求するデザインが特徴的な時代で、レナーもバウハウスのスタイルに似たデザイン精神でFuturaを制作しています。それまでのサンセリフ体は、セリフ体に基づいてデザインされたグロテスク・サンセリフが主流でしたが、レナーはそのアプローチを否定し、現代に合った機能的な書体を作るべきだと考えていたのです。そして、Futuraは"the typeface of today and tomorrow"というスローガンで売り出され、今日まで世界中で使用される人気の書体となりました。
Futuraは様々なブランドのロゴに使われている
https://eu.louisvuitton.com/eng-e1/homepage
Futuraをベースにしてロゴをデザインしている有名なブランドはたくさんあります。LOUIS VUITTON, OMEGA, DOLCE & GABBANA, NIKE, Supremeなどのファッションブランド、 ドイツの自動車メーカーVolkswagen、物流サービスのFedEx、決済サービスのPayPalなど、業態やブランドのターゲット層も様々です。また、LOUIS VUITTONは本国のWebサイトのフォントにもFuturaを使用し、NIKEやVolkswagenは広告表現で使用するなど、これらのブランドにとってFuturaという書体が大切なブランディング要素であると言えそうです。
Futuraをロゴに使用する意図として、例えばドイツブランドであれば生まれた国が同じで歴史を共有しているからということもありそうですが、どのブランドにも共通して、”古くならない未来っぽさ”というのがあるのではないでしょうか。Futuraがリリースされた時のスローガン”the typeface of today and tomorrow”のとおり、Futuraが持つ機能美は普遍的でどの時代でも現代のスタイルとしてマッチし、さらにその幾何学的なフォルムから受ける未来っぽさが加わることで、長く続くことを目指すブランドとしてFuturaをロゴに採用するのはとても理にかなっているように思います。
アレンジされている個性的なロゴもある
このように様々なブランドのロゴで使用されるFuturaですが、そのほとんどは少しアレンジされて使用されているので、気づかないこともあります。ジオメトリック・サンセリフ体は、幾何学的フォルムをベースにしていることと線のウェイトもほぼ均一であることが多いので、アレンジしやすいという側面もあり、デザイン次第でより個性的なロゴにすることもできそうです。
https://fontmeme.com/maroon-5-font/
アメリカのポップロックバンドMaroon 5(マルーンファイブ)のロゴはFuturaを使ってアレンジされています。ほぼ円形(実はわずかに卵形)が特徴的である”O”が連結されて記号のように見え、”M”の文字は切り離されてアクセントカラーが加えられているのですが、Futuraの横幅のある”M”だからこそバランスが取れているように思えます。
こんなところにもFutura!驚くべき汎用性
ロゴの他にももちろん、本のカバーや雑誌、イベントや展示のパンフレット、カレンダーの数字など、私たちの身の回りにある様々なシーンでFuturaは使われています。
https://www.amazon.co.jp/Sell-Human-Surprising-Moving-Others/dp/1594631905
例えばこちらの洋書「To Sell Is Human: The Surprising Truth About Moving Others」のカバーは、Futuraの書体だけを使ってデザインされています。ペアリングせず単独で使用して、このように機能的でモダンな印象のデザイン性のあるタイポグラフィが作れることは、Futuraの大きな魅力ですね。
https://www.hearst.co.jp/brands/elledecor/
スタイルが違うフォントと一緒に使用されることもとても多く、例えば雑誌のELLE DECOR(エル・デコ)のロゴは、モダンフェイスのセリフ体で作られた「ELLE」のロゴに、Futuraで作られた「DECOR」の文字が組み合わされています。ELLEのラグジュアリーな印象にモダンさが加わって、上質なインテリア&デザイン情報を発信する雑誌のイメージにぴったりですよね。
この他にも、音楽や映画などエンターテイメントコンテンツとの相性も良く、洋楽のCDジャケットで目にすることも多いです。ポップスはもちろん、ジャズ音楽のCDジャケットでもFuturaを見つけることができ、多様なジャンルにマッチしていることがわかります。Futuraは、単独で使用して機能的でスタイリッシュな印象を作ることはもちろん、オールドな印象やトラディショナルな印象にモダンさを加えたい時にも役立つ、とても汎用性のある書体と言えるのはないでしょうか。
Web環境でFuturaを使用するには?
FuturaをWeb環境で使用するには、基本的にはフォント販売サイトから購入する必要があります。Monotypeから「Futura Now」という現代のデザインニーズに合わせた最新版がリリースされているので、これから購入する場合はこちらがおすすめです。
また、Macでは標準で以下の5種類がインストールされているので、ウェイトは限られてしまいますが、デスクトップ環境で無料で使用することもできます。
Futura Condensed ExtraBold
Futura Condensed Medium
Futura Bold
Futura Medium
Futura Medium Italic
さらに、もっと手軽にMacでもWindowsでも使用したい!という場合は、Adobe Fontsでアクティベートできる、アメリカのParatype社がデザインした「Futura PT」を使用するのもおすすめです。こちらは14スタイル利用できることが有難いですね。
BOTANISTなどのヘアケア化粧品や美容家電を展開する会社、I-ne(アイエヌイー)のコーポレートサイトでは、上記で紹介したFutura PTがナビゲーションやボタン、タイトルやキャプションなどのテキストに使われています。日本のサイトでは、このようにセクションの見出しや特定の要素にFuturaのようなジオメトリックな欧文書体を使用すると、幾何学さがアクセントになり視覚的にも面白く、目を留めたくなる効果がありそうですね。
https://i-ne.co.jp/
まとめ
グラフィックやWebのデザインに携わる人なら誰もが使ったことがありそうで、私たちの身の回りでもたくさん目にすることができるフォント「Futura」について紹介しました。そのモダンでおしゃれなイメージの根本は機能的な美しさであるからこそ、ここまで広く使用されている定番の書体となったのではと思います。これからも、Futuraを使ったどんな魅力的なデザインが生まれてくるか発見するのが楽しみですね。
参考文献
Futura (typeface)『Wikipedia the free encyclopedia』(最終閲覧日2023年11月19日)
The font that escaped the Nazis and landed on the moon『YouTube』(最終閲覧日2023年11月19日)
個人で活動しているビジュアルデザイナーです。7年間ファッション業界で空間デザインとグラフィックデザインに携わったのち、現在はアプリやWebサービスのデザイン、ブランディングをメインに行っています。
https://www.sachikonakayama.com/