
クレショフ効果とは?

クレショフ効果とは、同じものでも前後に繋がる映像情報の違いにより、生じる印象や解釈が変わるという心理効果のことです。前後の情報に直接的な繋がりがなかったとしても、無意識に関連づけてしまうという人の心理にもとづいています。全ロシア映画大学で、映画作家・理論家であるレフ・クレショフが実験内で示したため、クレショフ効果と呼ばれています。
クレショフ効果の実験
レフ・クレショフは、認知心理学の視点からクレショフ効果を研究しました。実験では、ロシアの俳優イワン・モジューヒンのアップの映像を使い、この映像を下記3つの背景と組み合わせて、参加者に見せました。
背景1: スープ皿
最初の映像では、モジューヒンのクローズアップの前に、スープ皿のクローズアップを配置。被験者はこのシーンを見た後、「空腹を感じる」と回答しました。
背景2: 棺
2番目 の映像では、スープ皿の代わりに棺(ひつぎ)の中に遺体を配置。被験者は、この場面では「悲しみを感じる」と回答しました。
背景3: ソファに横たわる女性
3番目の映像では、棺の中の遺体の代わりに、ソファに横たわる女性を配置。観客はこのシーンを見た後、「欲望を感じる」と回答しました。
上記の実験から明らかになったのは、まったく同じ俳優の表情でも前後の映像情報が俳優の感情の解釈に影響を与えるということです。このように視覚的な要素の組み合わせが、映像を見た人の感情や認識に強い影響を与えるという現象がクレショフ効果です。
クレショフ効果の具体例
枕を対象としたクレショフ効果の例を紹介します。同じ枕でも、組み合わせる画像が異なるとマッチするターゲット層も大きく変わります。
まず初めに、下記の画像のように枕を小さな子どもと組み合わせるとどうでしょうか。

小さな子どもとセットで枕を見ると、不思議と安心感がありませんか?枕がファミリー向けで、素材にこだわった「安心・安全」であることをアピールしたい場合は、上記のような方法が活用されます。
他にも、友人たちとパーティーしている様子の画像と組み合わせるとどうでしょう?

旅行を楽しむ人たち向けのホテルの枕のイメージであったり、持ち運びできる枕などのイメージが湧きやすいかと思います。
最後に、キャンドルと組み合わせてみると......?

快眠・リラックス効果の高 い枕といったイメージになるのではないでしょうか。
以上のように、同じ商品であっても、組み合わせる画像によって与える印象が大きく変わるのがクレショフ効果です。
クレショフ効果とモンタージュ理論の関係
クレショフ効果は、モンタージュ理論において重要な概念の1つと言えます。モンタージュ理論とは、映画の視覚的な表現の中での「編集」の重要性を強調する理論で、関係性のない映像でも編集でつなぐことで、映像に関連性を持たせることができるという理論です。
モンタージュ理論の中では、「モンタージュ」という言葉が中心的な役割を果たしています。モンタージュとは、映画技法の1つで、複数の断片的なシーンを連続的に組み合わせて1つのシーンを作る方法です。
クレショフ効果は、映像を単独でなく「系列全体」として捉え、組み合わせることで新たな情報や感覚が引き出されるという理念に基づいています。つまり、クレショフ効果はモンタージュ理論の一環であり、映像の組み合わせによって生まれる新しい意味や印象に焦点を当てた効果です。
クレショフ効果と似ている心理効果
クレショフ効果には、似ている心理効果が2つあります。
プライミング効果
プライミング効果とは、プライマーと呼ばれる「先行刺激」によって、刺激を受けた後の行動や判断が変わる心理効果です。
例えば、身近なプライミング効果としては以下のようなものがあります。
海外旅行の特集番組を見た後に海外旅行に行きたくなる
事故や火災のニュースを見た後は安全に気をつけようとする
最新のファッション雑誌を読んだ後、洋服やスタイリングに気を使うようになる
以上のように、先行刺激を受けたことにより行動が変わる心理効果を「プライミング効果」と言います。クレショフ効果は、前後の視覚的な違いが印象を変える効果である一方で、プライミング効果は、先に見た情報が後の行動や考えに影響を与える心理効果です。