
ファッション誌やハイブランドのロゴとしてよく使用されていることから、高級でおしゃれなイメージがある書体「Didot(ディド)」と「Bodoni(ボドニ)」について、その成り立ちや使い分けに役立ちそうなポイントを紹介します。
同時代に生まれたDidotとBodoniのコンセプト
一見するとデザインが似ているDidotとBodoniですが、それは制作された時代背景と、表現したいコンセプトが同じであったことが理由であると考えられます。Didotはフランスで、印刷業で働いていたFirmin Didot(フェルミン・ディド)によって、Bodoniはイタリアで、こちらも印刷業かつ書体デザイナーであったGiambattista Bodoni(ジャンバッティスタ・ボドニ)によって制作されました。どちらも18世紀後半から19世紀初めに生まれた書体で、その背景には産業革命による工業の発展があります。向上した印刷技術や製紙技術によって、より精密なラインやコントラストを備えたデザインの表現が可能になったのです。制作者のディドとボドニが目指したのは、技術の向上を誇示するような、よりエレガントで洗練された書体デザインをこれからの印刷の標準スタイルとすることでした。
Didoneという書体ジャンル
https://en.wikipedia.org/wiki/Didone_(typography)
両書体が生まれた18世紀後半から19世紀初めに制作され、印刷の標準スタイルとなったセリフ体をまとめて「Didone(ディドネ)」と呼ぶことがあります。以下の特徴を持った書体が、Didone書体として分類されます。
細い直線による、ヘアラインセリフを持つ
線の太さにコントラストがあり、縦線が太く、横線が細い
いくつかの文字で、先が丸いボール上のターミナル(終端)が使われている
飾りがない、”モダン”な見た目
特に4番目の特徴は、現代でもDidotとBodoniが好まれて色々な場所で使用される理由と言えそうです。エレガントでありながら書体の細かい構成要素がシンプルに作られていることで、存在感がありながら、様々なジャンルで相性良く溶け込ませることができます。
ディド家が確立させた書体のポイントシステム
ここで本題から少し話が逸れますが、Didotを制作したフェルミン・ディドの一族が確立した、書体のポイントシステムについて触れます。現代で当たり前のように使用されている書体のサイズを測るための単位「ポイント(例:16pt)」ですが、このシステムの開発に深く関わっているのがディド家であり、タイポグラフィの発展に大きく貢献したことで知られているのです。それまで書体のサイズについては決まった単位がなく、特定のサイズの書体に固有名詞(例:12pt= picaなど)を当てはめて呼ぶということが一般的でした。ディド家は、それより前に開発が進められ ていたフルニエ式をより実用的なものに修正し、ヨーロッパで標準単位として使用されることになるディド式ポイントシステムを確立させました。ちなみに日本では、規格が違うアメリカ式ポイントシステムを採用しています。
DidotとBodoniはどのように使い分ける?
このように、DidotとBodoniは様々な点から似ている書体ということが改めてわかりました。どちらも美しい書体ですが、細かく見てみるとそのデザインにはしっかりとした違いがあり、表現したいイメージよって使い分けすることができそうです。
同じテキストを2つの書体で書いて比べてみると、Didotは”○(丸)”の中に、Bodoniは”□(四角)”の中に収まりが良さそうと思いませんか?曲線により丸みがあるDidotは女性的な柔らかさがあり、Bodoniはシュッと伸びた太い縦線が特徴的で、男性的なかっちりした印象があります。このような印象の違いから、より直線の太さが目立ち重厚感のあるBodoniは格式ある場所に、曲線が美しく動きのあるDidotは高級感と同時にカジュアルさを表現したい時に、などデザインの意図に合わせて使用していきたいですね。
Didotはファッションブランド御用達の定番書体
Didotはロゴとしても良く採用されていますが、特にハイブランドをはじめファッション業界で好まれている書体で、皆さんも雑誌やお店のロゴでDidotをベースにしたものを目にしたことがあるかもしれません。細い線から感じられる繊細さとセリフのエレガントさがあるDidotを、ファッション業界で使用したくなるのは納得です。
雑誌「VOGUE」のロゴ(https://www.vogue.com/magazine)
ファッションブランド「ZARA」のロゴ(https://www.zara.com/jp/en/)
ファッションブランド「Giorgio Armani」のロゴ(https://www.armani.com/en-us)
Bodoniはファッションや芸術分野で幅広く、特にタイトル向け
Bodoniについても、Didotと同様にファッション関連のブランドのロゴとしてよく使用されています。また、Bodoniは縦線の太さがより際立ち強い印象を残すことが期待できるので、このことから映画のポスターのタイトルなど、タイポグラフィのメインとなる場所で使用されているのも発見できます。
映画「マンマ・ミーア!」のタイトルロゴ(https://www.amazon.com/Mamma-Movie-Widescreen-Meryl-Streep/dp/B001GKJ2DY)
DidotとBodoniをデジタル環境で使用するには?
DidotとBodoniは長い歴史がある書体なので、これまで様々な種類がリリースされています。Didotについては、アドリアン・フルティガーが1991年にオリジナルをもとにデザインしデジタル書体としてリリースされた「Linotype Didot」が、Adobe Fontsからもアクティベートできるのでおすすめです。
Bodoniのデジタル書体は複数種類あり、オリジナルに近づけたものからかけ離れたものまで本当に様々です。macOSに標準インストールされている「Bodoni 72」は馴染みがある方も多いですよね。こちらのフォントは名前の通り”72pt”での使用が想定された見出し向けのフォントであり、小さいサイズで使用する場合は他の種類の方が適していたりします。Bodoniについては、その時の使用場所やコンセプトに合わせて種類を検討するのが良さそうです。オリジナルからかけ離れたデザインでも、それが悪いということではなく、デジタル向けに最適化 されたことでセリフがシンプルになっていたり線のコントラストが調整されている、という違いが含まれます。好みのBodoniを見つけてみるのも面白そうですね。
まとめ
ここまで、セリフ体として長い歴史があるDidotとBodoniについて紹介しました。Didone書体と呼ばれるこれらの書体は、目にした人みんなが”ラグジュアリーさ”と”エレガントさ”を感じ取る、イメージが確立された書体と言えます。そのようなタイポグラフィを表現したい時の第一の選択肢としてデザインの引き出しに入れておきたいですね。
参考文献
Didot (typeface)『Wikipedia the free encyclopedia』(最終閲覧日2024年6月22日)
Bodoni『Wikipedia the free encyclopedia』(最終閲覧日2024年6月22日)
ポイント・システムの由来-欧文フォントと組版(2)『公益社団法人日本印刷技術協会』(最終閲覧日2024年6月22日)
個人で活動しているビジュアルデザイナーです。7年間ファッション業界で空間デザインとグラフィックデザインに携わったのち、現在はアプリやWebサービスのデザイン、ブランディングをメインに行っています。
https://www.sachikonakayama.com/