
マズローの欲求5段階説とは?

マズローの欲求5段階説は、心理学者アブラハム・マズローによって提唱された理論です。人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階に分けたもので、人々が生きていく上で感じる欲求やニーズが、特定の順序で満たされるという前提で考えられました。
この欲求はピラミッド状になっており、低い階層の欲求が満たされることによって次の段階の欲求を求めるようになります。この理論を理解することで、人々の行動や心理背景を深く掴むことができ、ビジネスやマーケティングの現場でも有効に活用できるのです。
1段階目:生理的欲求

生理的欲求は、マズローの欲求5段階説においてもっとも基本的な段階とされています。この段階は、食事・水・睡眠・呼吸といった、生命維持に必要な要素を満たしたいという欲求を指します。
これらの欲求が満たされないと、人は生命を維持できません。したがって、他の高次の欲求に移る前に、まずこの生理的欲求を満たすことが求められます。
2段階目:安全の欲求

安全の欲求とは、生理的欲求が満たされた次の段階として現れる欲求です。こちらは、身体的・経済的な安全や、健康や財産の保護といった、安定した環境での生活を求める欲求を指します。
ビジネスの観点から言えば、安定した収入や雇用の保証、安全な製品やサービスの提供、もしくはそれらが連想できるような商材訴求を意識することが求められます。
3段階目:社会的欲求

社会的欲求は、人々が他者との関係性や所属感を求める欲求を指します。友情・愛情などは、他社との関わり合いの中で生まれます。その関係に所属することで得られる社会的な自分の存在意識が、社会的欲求とも言えるのです。つまり、人と人とのつながりやコミュニティへ参加したい、という欲がこの段階の中心となります。
孤独や孤立を避け、他者との関係を築くことで心の安定を得られるという心理は、オフラインだけでなく、SNSなどのオンラインでも同様です。
4段階目:承認欲求

承認欲求とは、他者からの評価や認知を求める欲求です。自分の存在や価値を他者に認めてもらいたいという欲求が中心で、社会的な地位を得たい、自尊心を 満たしたいといった心理要素が該当します。
一般社会では、上司やチームメンバーから、自分の成果が認められたい・結果を褒められたい、というような欲求が承認欲求に当てはまります。また近年では、SNSで迷惑行為を投稿し、拡散されていることが目立ちますが、こういった迷惑行為も、承認欲求から生じている行動ではないかと言われるケースは多くあります。
また、承認欲求はさらに「高位の承認欲求」と「低位の承認欲求」の2つに分類することができます。低位の承認欲求とは、他者からの賞賛や注目、尊敬を欲する欲求です。一方の「高位の承認欲求」とは、自分自身に自信を持ちたいと感じる欲求です。承認を与えるのが、他人か自身かという点に違いがあります。
5段階目:自己実現の欲求

自己実現の欲求は、マズローの欲求5段階説の最上位に位置する欲求です。この欲求は、自分自身の可能性を最大限に引き出し、自己の成長や実現を追求する欲求を指します。自分がなりたい姿に近づきたい、自分の人生観の中で「あるべき自分」になりたいと願う欲求とも言えます。
自己実現の欲求は、マイナスを埋めるための欲求ではありません。したがって、生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認欲求の4つがそれぞれ満たされることで発生する欲求であると言えます。
さらなる上の段階、自己超越欲求とは?

自己超越欲求は、欲求5段階説を提唱した後に追加された段階で、5段階の先に存在する欲求と言われます。自己超越欲求とは「他者に喜ばれたい」「社会を良くしたい」など、他者や社会のことを想い、行動するために生じる欲求です。しかし、「他者のための欲求」と説明されることもありますが、広く見ればその欲求も自己実現の欲求に含まれるという見方もあります。
具体的には、寄付活動によって困っている人を助けたい、ボランティア活動を通してより良い社会にしたい、起業して社会に新たなイノベーションを起こしたい 、といったような欲求が自己超越欲求であるといえます。


マズローの欲求5段階説の分類
マズローの欲求5段階説では、人々が日常生活で感じるさまざまな欲求を具体的なカテゴリに整理し、それぞれの段階がどのような欲求に関連しているか、といった分類もできます。
物質的欲求・精神的欲求
外的欲求・内的欲求
欠乏欲求・成長欲求
ここでは上記の分類に分けて、それぞれがどのような内容なのか解説します。
物質的欲求・精神的欲求

物質的欲求は、生活の基盤となる物理的な要素や資源を求める欲求を指します。具体的には食事、住居など目に見える・手に取れるものが該当するため、マズローの欲求5段階説では、生理的欲求や安全の欲求に含まれます。
精神的欲求は、心の充足や満足を追求する欲求で、友情や愛情、自己実現などの精神的な成長や充実を求めるものです。マズローの欲求5段階説では、社会的欲求や承認の欲求、自己実現の欲求が該当します。
外的欲求・内的欲求

外的欲求とは、外部環境からの安全を求める欲求や、他者からの評価や承認を求める欲求です。マズローの欲求5段階説では、生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求 が該当します。
内的欲求は、外的欲求が満たされた後に湧き上がる欲求で、自分自身の価値観や信念に基づいて行動する欲求を指します。欲求5段階説では、承認の欲求や自己実現の欲求に含まれます。
欠乏欲求・成長欲求

欠乏欲求とは、足りないものを満たそうとする欲求を意味します。具体的にはお金が欲しい、他人に評価されたいといった欲求が該当するため、第5段階の自己実現の欲求以外のすべてに含まれます。
一方成長欲求は、欠乏欲求が満たされた後に生じる、自分の成長を求める欲求です。自分の夢を叶えたいといった内容であるため、第5段階の自己実現の欲求が該当します。
マズローの欲求5段階説の活用事例
マズローの欲求5段階説は、 単なる心理学の理論に留まらず、ビジネスの現場でも広く活用されています。組織内でのチームのマネジメントや、従業員のモチベーション向上のための施策にも取り入れられており、この理論を基に顧客のニーズを正確に捉え、効果的なマーケティング戦略を策定する企業も存在します。
このセクションでは、その具体的な活用事例をいくつか紹介していきます。
ビジネスのマーケティング
マズローの欲求5段階説は、ビジネスのマーケティング領域でも活用されています。消費者の購買行動背後にある欲求を理解することで、ターゲットとする顧客層の真のニーズを掴む手助けとなります。
たとえば、新製品のプロモーションや広告戦略を策定する際、この理論をベースにしたアプローチを取り入れることで、より効果的なコミュニケーションが可能となるのです。マーケティング活動において、顧客の心の奥深くに訴えかけるメッセージを伝えるための鍵として、この理論の活用は欠かせません。
企業内チームマネジメント
マズローの欲求5段 階説は、企業内のチームマネジメントにも有効な手法として取り入れられています。従業員一人ひとりの欲求を理解し、それに応じたサポートや環境を提供することで、チームの生産性やモチベーションを向上させられます。
たとえば、安全の欲求を満たすための安定した職場環境や、承認欲求を満たすためのフィードバックの提供など、具体的なアクションを取ることで、従業員の満足度を高め、組織全体の成果を向上させることが期待できるのです。
モチベーション管理
マズローの欲求5段階説は、個人のモチベーションを理解し、適切に管理するための鍵となる理論としても注目されています。人は基本的な欲求を満たすことで次の段階の欲求に移行し、その過程でモチベーションが生まれるとされています。
企業や組織においては、従業員のモチベーションを維持・向上させることが、生産性や業績の向上に直結します。マズローの理論を活用することで、具体的なモチベーションの源を特定し、それに応じた施策を実施することが可能です。このアプローチは、従業員の満足度を高めるだけでなく、組織全体の成長にも寄与する重要な要素となるのです。
マズローの欲求5段階説の問題点
マズローの5段階欲求説は、人間の動機づけを理解するための重要なフレームワークとして広く認識されていますが、一方でいくつかの問題点も指摘されています。
まず、文化や個人の価値観によって欲求の優先順位が異なる可能性があるため、一般的な階層としての普遍性に疑問が投げかけられています。また、現代社会においては、安全や社会的欲求を満たす前に自己実現の欲求を追求する人もいるため、階層の固定性にも疑念があると言われているのです。
マズロー自身も、欲求の階層が5段階に限定される理由を明確に示していないため、その根拠や適用範囲についての議論も続いています。これらの点を踏まえると、マズローの欲求説を適用する際には、文化や時代背景、個人の状況を考慮する必要があると言えます。

