
SNS、買い物、ゲーム、暇つぶし……もはや生活に欠かせないスマホ(スマートフォン)。歩きスマホをする人を見ると、現代人の身体の一部と化したようにも思えてきます。
一方で「スマホから離れたい」とも思いませんか? 少なくとも私はそうでした(今もそうです)。
作業に集中したいのにブラウザでまとめサイトを見てしまったり、読書したいのにInstagramのフィードを無限にスクロールしてしまったり……。
私は思いきってスマホ(iPhone)をやめて、ガラケーに戻してみました。そのお話をします。
スティーブ・ジョブズも退屈の価値を語っていた
画面を見続けるとドライアイ・眼精疲労、肩こりもひどくなります。スマホが近くにあるだけで集中力が下がるともいわれますし、「一度通知を一度見てしまうと集中力が戻るまで23分かかる」という『ハーバード・ビジネスレビュー』のレポートもあります。
アテンション(注意)・エコノミーという言葉があります。スマホや、アプリは常に通知で人の注意を惹きつけます。それがエンゲージメントや広告収入に結びつくからです。
神経学者のマーカス・レイクルによればデフォルトモード・ネットワークともいわれる「ほぼ休止状態」に近い、集中していない状態は一方でアイデアを生む源泉でもあります(マヌーシュ・ゾモロディ『退屈すれば脳はひらめく』NHK出版)。
一夜漬けの効果が薄いように、退屈な時間がなければシャキッと目覚めるようなアイデアも生まれにくい。
iPhoneをつくった張本人であるスティーブ・ジョブズも「私は退屈を大いに信じている。[テクノロジーは]どれもすばらしいが、なにもすることがないのもまたすばらしい」と言っていたそう。
今一度、退屈な時間がほしい。そう思って私はiPhoneとおさらばする決意をしました。
ギャスパー・モリソンがデザインしたガラケーライクなPunkt.M2
左が「Simply」、右が「Punkt.M2」。
スクリーンタイムを設定しても自分がスマホを見てしまうのが嫌で、もうガラケーに機種変更してしまいました(いちおうiPhoneは残しておきました)。
プライベート用にはギャスパー・モリソンがデザインした「Punkt.M2」に。「Punkt.M2」はSMSと電話しか基本的にできません。電卓やカレンダーもありますが、あまり使いやすくはない。手にフィットする感覚は良いんですが、電源(物理ボタン)が反応しやすく、ポケットなどに入れておくとリセットしてしまうことも多かったです。ただテザリングができるのは良い。
会社用は「Simply」に。ワイモバイルやLINEMOのSIMカードを入れて使うこともできます。
※ガラケーはあまり選択肢がありませんでした。
不便で、機能が絞られたガラケーの良さ
スマホ全盛の世の中で、ガラケーは不便です。ただそこがいい。ガラケーメインにしてから明らかに画面に向かう時間は減りました。無駄な暇つぶしをしなくなるので、作業や読書、やりたいことに集中できる時間が増えます。
考えてみると、スマホは何でもできます。電話もメールも、アプリもブラウジングも。音楽も聴けるし、動画も観られるし、ゲームもできる。決済も、確定申告も。
でもだからこそ、一つの作業に集中できにくい。うまくやらないと、誘惑に負けると仕事中にU-NEXTで『相席食堂』を観てしまいそうになる。
何でもできるはデメリットでもある
「何でもできる」はデメリットでもある。20年以上前、「iPod」が出たころは音楽だけを持ち歩いていました。最近、iPodはいいなと思うんです。音楽だけに向き合える。もっと言えばCDプレイヤーのほうがいい。「何のアルバムを聴こうか」考えて、CDの曲順どおり楽しめる。
何でもできるようになってから、「音楽」「映画」「読書」「調べもの」……それぞれの時間に しっかり向き合えなくなったような気がしているのです。
だからガラケーにしてから、CDプレイヤーを買ってこつこつ売り払ったCDをまた集めようとしたりしました。そういう楽しみがかえって贅沢にも思えたのでした。
二段階認証ができない問題
ところが、そんな時間は意外とあっさり終わりました。
しばらくはガラケーで良いかなと思っていたのですが、Amazonなどで新しいIPアドレスなどからのログインで二段階認証を求められると……ログインできない!
Punkt.M2にはブラウザの機能がないのでリンクが踏めないのです。
ポチポチとメールを打つのは最初は「懐かしい!」となるのですが、そのうち長い文章が打てず「フリック入力にしたい」と思うようになります。
あとたとえばディズニーランドに行くとき、アプリがないと事前の予約ができません。
外に出かけてGoogleマップを開いたり、GOを利用してタクシーを呼んだりしなければいけないとき……私はまたiPhoneを引っ張りだしてしまうのでし た。
スマホをゼロにするのは難しい。良い距離感が大事
昭和や平成はスマホなしでやっていたわけですから、我慢する時間も必要だとも思うわけです。
ただ、マイナンバー関連の行政サービス(マイナポイントなど)を含め、現代はスマホを持つことが前提の世の中になっています。
いきなりスマホの利用をゼロにするのは難しい、と学びました。
ただメイン端末をガラケーにするのはデジタルデトックスに良いと思います。
現状、うまくいっているのは「スマホを自分から物理的に離す」こと。家の中ではiPhoneやiPadは玄関で充電するようにしていますし、外を出歩くときもなるべくズボンのポケットではなくカバンにスマホを入れるようにしています。あとどうしても離れられないときは画面を表にせずなるべく裏返す。実感としてはそれでもだいぶ集中力は変わります。
ガラケー風スマホにも選択肢を
別の観点として、ガラケーやPunkt.M2のような「ガラケー風スマホ」にもっと選択肢があるとデジタルデトックスをよりしやすくなるのに、と思います。
Punkt.M2は値段がそこそこしますし、ガラケーもかっこいいデザインが多いとはいえない。
ただ近年スマホのデザインはよくも悪くも一緒になってしまっているところがあると思います。iPhoneの登場以降、画面がベゼルの際まで大きくデザインされた長方形という形が主流なのは変わっていません。もちろんハードと一体で設計されていることは理解しつつ、ソフトのUI・UXに委ねられている部分は大きいはずです(ガラケーに比べれば)。
マーク・ニューソンの「talby」とか、ガラケー時代の「INFOBAR」とか、優れたデザインがありました。欲を言えば、外側を着せ替えて中身をスマホにできるガラケーがあるといいなと思いました。ぜひほしい。
なかなかスマホ離れはしにくいですが、上手な距離感をつかんでいきたいものです。
Web編集者・ライター、マーケター。株式会社TOGL代 表取締役。オンラインもオフラインも編集しており、兵庫県尼崎市武庫之荘でつくれる本屋「DIY BOOKS」を運営しています。