ブランディング

ブランド戦略を視覚に翻訳する:優れたアイデンティティが生まれる「コンセプト前」の設計思考

ブランド戦略を視覚に翻訳する:優れたアイデンティティが生まれる「コンセプト前」の設計思考

Smashing Magazineに寄稿されたブランドデザイナー、アナスタシア・シチェバの論考が、優れたブランドアイデンティティが生まれる場所は「Figmaの中ではない」と説く。強い視覚コンセプトは、デザインツールを開く前の準備段階、すなわち戦略を言語化する「コンセプト前」の作業にこそ宿るという主張である。

筆者はまず、ブランディングの失敗の多くが戦略フェーズで起きると指摘する。「モダン」「信頼できる」といった言葉が定義されないまま共有された結果、依頼主が思い描く印象とデザイナーの解釈のあいだに溝が生まれる。「ブランドとは、製品やサービス、企業に対して人が抱く直感的な感覚である」という定義を出発点に据え、その感覚をどう設計するかが問われるとする。

具体的な手順として示されるのが、三つの段階からなる準備プロセスだ。第一に「ブランド文脈のリサーチ」。ターゲットに何を信じてほしいのか、カテゴリー内でどこに合わせ、どこで逸脱すべきかを問い直す。第二に「隠れた前提の可視化」。競合を対立軸の上に配置するマッピングや、無関係な領域の画像を選んでブランドの人格を表現する演習を通じて、関係者が無意識に抱く思い込みを表に引き出す。

第三の段階が「共有された方向性を視覚の土台へ翻訳する」作業である。目指す印象を語り合うルック&フィールのボード、ブランドの発想を視覚原則へ落とし込むデザインコード、そしてタイポグラフィや配色、ロゴ、写真、イラストの方針。これら三つの層を連結させることで、最初のコンセプトを描く前に確かな基盤が整うという。

生成AIがビジュアル生成を高速化するいまだからこそ、この論考の指摘は重い。手を動かすスピードが上がっても、何を作るべきかという問いへの答えは自動的には出てこない。ツールに入る前の思考の質こそが仕上がりを左右する——ブランドに携わる日本のデザイナーにとっても、制作の順序を見直す示唆に富む内容だといえる。

出典: From Kickoff To First Concept: How To Turn Brand Strategy Into Visual Direction

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