デザイナーのAdam Waxmanが、「一人のためのソフトウェア(Software for one)」という考え方を綴ったエッセイが注目を集めている。大衆市場ではなく、自分自身や身近な数人のためだけに作られたアプリ——彼はそれを、チェーン店の料理ではなく「家庭料理」にたとえる。特定の誰かのニーズやデータに合わせて仕立てられた道具のことだ。
出発点として引かれるのは、作家のRobin Sloanが2020年に家族向けのメッセージアプリ「BoopSnoop」を作った逸話だ。使うのはわずか4人。それでもSloanはそれを成功と捉えつつ、開発に丸一週間、しかも半分をコード署名の問題に費やしたことを嘆き、「iOS版の、現代的で柔軟なHyperCardのようなもの」があればと願った。アプリはスケールを追わなくても価値を持ちうる、というのが彼の主張だった。
Waxmanが言うのは、その願いがいまや叶いつつあるということだ。AIのコーディング支援によって、個人向けソフトを作る技術的・時間的な障壁が劇的に下がった。かつて数か月を要したものが、いくつかの晩でできてしまう。「作るコストは崖から落ちた」と彼は書く。実際に彼は、昼寝が短ければ自動で予定を組み直す睡眠アプリ、走った距離に応じて摂取カロリーの目標を調整するフィットネスアプリ、年齢ベースの公式ではなく実際のレース履歴からマラソン練習を組み立てるランニングアプリ、専門医の受診前にデータの欠けを指摘する医療記録ツールなどを自作したという。
これらのアプリに共通するのは、StravaやOura、FatSecretといった複数のサービスからデータを束ね、単体のサービスでは不可能な文脈に沿った提案を生み出している点だ。開発が速いからこそ、4か月しか使わなかった睡眠アプリのような「使い捨て」も無駄には感じない。NYCのジャズファンやClaude Codeの開発者といった、企業なら決して作らないニッチな層に向けたアプリも成立する。制約はもはや実装ではなく発想の側にあり、「想像力こそが唯一の制限要因になった」と彼は述べる。
ツール一式のコストは月160ドルほど、その大半はAIサブスクリプションで、小規模なものなら無料枠を使って月20〜30ドルにまで下げられるという。Waxmanはこれを単なる技術的変化ではなく、来たるべき文化的な変化と捉える。ひとたび本当に自分に最適化されたソフトウェアを体験すると、汎用的な代替物が「壊れているように感じられる」——パーソナライズが贅沢ではなく前提になる未来を、彼は見据えている。デザイナーにとっては、誰のために何を作るかという問いそのものが、静かに書き換えられつつある。
出典: Software for one









