タイポグラファーのElliot Jay Stocksが、書体の「グレード(grade)」という軸について解説する論考をAdobe Designブログに寄稿した。文字は必ずしも理想的な条件下に置かれるわけではない。インクは滲み、スクリーンは光を放ち、ある文脈では完璧に見えた字形が別の文脈では鈍重に感じられる。グレードとは、周囲の条件が変わっても文字が同じ印象を保てるように、そうした差を吸収するための仕組みだ。
一見するとグレードはウェイト(太さ)と似ている。しかし両者の目的は正反対だ。ウェイトが強調やコントラストを生む「差別化」のための軸であるのに対し、グレードは本来同じに見えるべき文字の見た目を揃える「統一」のための軸である。字間や改行、レイアウトを一切変えずに、素材・背景・照明の違いを越えて文字の見え方を微調整できる点が核心だ。
グレードはもともと、低品質な印刷や紙質の違いに対応するために生まれた。新聞のようなインクが染み込む紙では、同じ書体・同じウェイトでもグロス紙より文字が柔らかく(薄く)見える。あらかじめ濃いめのグレードを当てておけば、この滲みを織り込んで仕上がりを合わせられる。Stocksは自身がかつて発行していた雑誌『Lagom』で、白地に黒文字のページと、暗い背景に白抜き文字のページの印象を揃えるため、Tomáš Brousil設計のスーパーファミリー「Tabac」の異なるグレードを使い分けたという。
この考え方は印刷に限らない。スクリーン上では、暗い背景の白文字は明るい背景の黒文字より膨張して見える。ハレーション(halation)と呼ばれるこの現象は、ライトモードとダークモードを切り替えたときの違和感の正体でもある。グレードを使えば、ウェイトを丸ごと切り替えるよりも繊細に補正できる。しかもuniwidth書体のように文字幅が変わらないため、テキストの再流し込みが起きない。InDesignでの一括置換でも崩れず、UIでも要素が枠からはみ出さない。
さらに可変フォントの「GRAD」軸を使えば、あらかじめ決められた段階に縛られず、スライダー上の任意の値でグレードを調整できる。たとえば本文の中に黒背景・白文字のボックスを置いた際、グレード値を-92まで下げることで本文とボックスの見た目の重さを揃えられる。ダークモードの普及やマルチデバイス化が進むいま、グレードはレイアウトを守りながら一貫した読み味を保つための、地味だが強力な手段だと言える。









