心理学

アンカリング効果とは?初めに見た数値がその後の判断を変える心理現象

最終更新日: 2023.12.08
アンカリング効果とは?初めに見た数値がその後の判断を変える心理現象

アンカリング効果とは?

アンカリング効果とは?

アンカリング効果とは、人が一番最初に得た情報(主に数値)に、その後の判断が影響されてしまう心理現象です。その人の今までの経験や先入観が影響して、合理的でない判断をしてしまう「認知バイアス」の1つです。「アンカリング・バイアス」と呼ばれることもあります。

ちなみに、アンカリング効果の語源となる「アンカー(人が一番最初に受け取る情報)」には「錨(いかり)」という意味があります。「アンカリング」は「船舶を錨を使って係留すること」という意味です。錨を海に降ろして船がその場にとどまる様子と、人間の判断が最初に得た情報の一定範囲にとどまりがちな様子が似ていることから「アンカリング効果」と呼ばれています。以下で具体例を体験してみましょう。

アンカリングの具体例

アンカリング効果の具体例

まずは、レストランに行ってメニュー表を手に取っているところを想像してみてください。

  1. 特選和牛ステーキ 10,000円

  2. 日替わり定食 1,200円

  3. とり唐揚げ弁当 800円

最初に、「特選和牛ステーキ(10,000円)」のメニューが目に入りますよね。「特選和牛ステーキ」と比べると、鶏唐揚げ弁当や日替わり定食の値段がリーズナブルに感じませんか?その理由は、「特選和牛ステーキ」があなたの「アンカー」となり、それをもとに他のメニューの価格を無意識に判断しているからです。

結局、多くの人が「特選和牛ステーキ」は注文せず、他のメニューを選択する可能性が高いでしょう。以上のように、人の意思決定にはアンカーが大きな影響を与えます。

アンカリング効果の特徴

アンカリング効果の特徴

アンカリング効果の主な特徴は、以下の3つです。

  1. 意識的に避けにくい

  2. 持続性がある

  3. 発生には条件がある

下記で詳しく説明します。

意識的に避けにくい

アンカリング効果は、意図的に避けにくいという特徴があります。他の認知バイアスと同様に、人が「Heuristics(ヒューリスティック)」という脳の思考プロセスを使って問題解決をしようとするからです。

人の脳は、意思決定をするときに時間的圧力がかかると、今までの経験をもとに「直感ですばやく」判断しようとします。この特徴から、ヒューリスティックは「問題解決をするための近道」とも言われることがあるのです。しかし、必ずしも正しい判断とは限らず、一定の偏りが生まれることが多いというデメリットがあります。

以上のように、人間の脳の特徴が理由で、アンカリング効果は意図的に避けにくいと言えます。

持続性がある

アンカリング効果には持続性があります。実際、心理学者のトーマス・ムスワイラー氏の研究でも、アンカリング効果は、非常に強固なもので持続性があるとされています。

つまり、一度アンカーが脳にセットされてしまったら、なかなかリセットされないということです。仕掛ける側の視点から言うと、第一印象は非常に重要だということが分かります。

仕掛けられる側(消費者)の視点では、物事を判断するときに、第一印象に縛られてないか?先入観で見ていないか?をじっくり考えてから判断する必要性を感じます。

発生には条件がある

アンカリング効果の発生には条件があります。具体的には、ある研究でアンカリング効果は数値と単位が一緒に提示されたときに引き起こされることが発表されています。この研究では、アンカリング効果は数値単体でも単位(mやcmなど)単体でも引き起こされず、両方があって発生することが分かっているのです。数値の大小を判断するためには単位が必要だからです。

例えば、あなたがショッピングに行ったときに、2種類の宝石を見つけたとしましょう。それぞれの値段を確認すると、1つは「10,000円」もう1つは「12,000円」と書かれています。このように、数値と単位が一緒に記載されていれば、どちらの宝石が高いのか安いのかを判断可能です。

しかし「10,000」と「12,000」のように、もし単位がなかったらどうでしょう。それぞれの単位が異なる可能性もあり、どちらが高いのか安いのかは判断できません。つまり、単位がついていることで最初の価格がアンカーとして機能し、私たちの判断に影響を与えるというわけです。以上のように、数値と単位が組み合わさることでアンカリング効果が引き起こされ、私たちの意思決定に影響を与えます。

アンカリング効果の具体的な活用方法: ビジネス編

アンカリング効果の具体的な活用方法を以下2つのカテゴリーに分けてご紹介します。

  1. マーケティングに活かす

  2. ビジネスに活かす

マーケティングに活かす

アンカリング効果をマーケティングに活かす方法の例は以下の通りです。

  • 初回提示金額と割引価格を並記する

  • 月額よりも年額の価格を安く表記する

  • 商品単価を上げたいときは「一番高い商品」を目につく場所におく

下記で詳しく解説します。

初回提示金額と割引価格を並記する

アンカリング効果を引き起こしたい時は、初回提示金額と割引価格を並記するのが効果的です。例えば、Amazonなどの通販サイトでは、以下のような表記方法をよく見かけますよね。

アンカリング効果の例(Amazon)

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BPK7ZTRG

有名ファッション通販サイトのZOZOTOWNでも以下のような表記方法が使われています。

アンカリング効果の例(ZOZOTOWN)

https://zozo.jp/shop/spade/goods-sale/69414979/?did=114111611&rid=1203

このように表記されると、初回提示価格や定価などの表記がアンカーとして働き、割引価格がよりお得に感じられます。

月額よりも年額の価格を安く表記する

月額よりも年額の価格を安く表記する手法もアンカリング効果を活用した例です。例えば、お名前.comのサイトでは、以下の様な料金表が公表されています。

アンカリング効果の例(お名前.com)

https://www.onamae.com/server/rs/price/

長く契約すればするほど料金が安くなるシステムが、分かりやすく表記されています。このような表記をされると、「長い期間契約した方がお得だな」と思ってしまいますよね。サブスクリプションサービスに多い手法で、長く契約してもらいたい意図があるのでしょう。

また、上記のような手法は、ただ単に長期間のプランが安いと思わせることだけが目的ではありません。月額価格がアンカーとなり、「すぐにやめられるけど価格が高いプラン」か「長い期間になるけど安いプラン」かで悩ませ、意図的に「契約しない」という選択肢を潰しているのです。

以上のように、サブスクリプションサービスを提供する企業は、月額価格よりも年額価格を安く表記する手法を取るのも一つの手です。

商品単価を上げたい時は「一番高い商品」を目につく場所に

商品単価を上げたい時は、「一番高い商品」を目につく場所におき、アンカーとして活躍してもらいましょう。一番高い商品が最初に目につくことで、他の商品が安く感じるアンカリング効果が発生します。この方法は、店頭だけなく、Webサイトでの商品の掲載順番にも活用可能です。

例えば、ジュエリーブランドの4℃のWebサイトでは、以下のような配置で商品が掲載されています。

アンカリング効果の例(4℃)

https://www.fdcp.co.jp/Form/Product/ProductList.aspx?cat=004&bid=4c-jewelry

顧客が一番最初に見るであろう左上の部分に、1つだけやけに高い商品がありますよね。高い商品を見た後に他の商品の値段を見ると、なんだか少し安心しませんか?不思議と値段が安く感じます。

以上のように、商品全体の単価を上げたい(実際は高いけど安く感じさせたい)ときには、「一番高い商品」を目につく場所に配置してみても良いかもしれません。

ビジネスに活かす

アンカリング効果はビジネスシーンにも活かせます。クライアントと納品スケジュールを組む時の例を挙げてみましょう。

まず、納品スケジュールを組んだときに伝えた「最初の日程」がクライアントにとってのアンカーになります。もしその日程よりも提出が遅れてしまったら、クライアントに悪い印象を与えてしまうでしょう。しかし、もしその日程よりも早く提出できたらどうでしょうか?「思ったより早く成果物が手に入った。仕事が早いな。」と良い印象を与えられます。

つまり、「確実に提出できる日程でスケジュールを組んで、早めに提出する」方法を取ることで、アンカリング効果をうまく活用できるというわけです。

アンカリング効果を活用する際は二重価格表示に注意

アンカリング効果を活用するときには、違法な二重価格表示をしないように注意しましょう。二重価格表示とは、実際の販売価格だけでなく、参考価格も一緒に表記することです。先述した初回提示価格と割引価格を並記した場合も二重価格表示になります。

二重価格表示自体には違法性はありませんが、実際の通常価格は5,000円なのに、安く見せたいがために10,000円と表記した場合などは、景品表示法違反となります。他にも細かい規定がたくさんあるため、二重価格表示を行う場合は法律面で注意が必要です。

参考価格(比較対象価格)を表示する際には、以下の価格を参考にしましょう。

  • 過去の販売価格

  • 希望小売価格

  • 競合事業者の販売価格など

ただし、上記の価格を参考にした場合でも、不当表示に該当する場合もあります。消費者庁の公表しているガイドラインにのっとって、違法にならない価格表示をしましょう。

まとめ

アンカリング効果は、日常からビジネスシーンまで、さまざまな場面で活用できることが分かりました。アンカリング効果の知識を深めることで、消費者の気持ちに寄り添ったアプローチ方法を見つけ出せるでしょう。違法な二重価格表示をしないように気をつけながら、ぜひ活用してみてください。

参考文献

心理学

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