
人に大きな影響を及ぼす深層心理とは?
深層心理とは、心の表面上(表層心理)では気付かない、つまり無意識に 存在する心理状態です。深層心理は自覚しづらく、心の奥底に存在するとされています。
深層心理に関する研究や学問を「深層心理学」と呼びますが、この分野ではジークムント・フロイトやカール・グスタフ・ユングなどの研究者が活躍しました。深層心理は、人間の行動や決定に大きな影響を及ぼしているという発見をしたのです。この発見は、心理学の分野だけでなく、文学・哲学など多岐にわたる分野に大きな影響を与えました。
深層心理と潜在意識との違い
深層心理と潜在意識は同じものだと思われがちですが、正確には異なる概念です。とは言っても、全く別物というわけではありません。
具体的に説明すると、深層心理は「潜在意識の更に奥深い部分」です。つまり、深層心理は潜在意識の一部と言えます。どちらも「無自覚の意識」であることは間違いないため、同義語として扱われることが多いのです。
もっと詳しく言うと、潜在意識は行動や言葉に影響を与える要因であり、深層心理は自覚できない心の動きや原因を指す言葉と言えます。以上のように、深層心理と潜在意識には微妙な違いがあります。
深層心理を活用したニューロマーケティングとは?
ニューロマーケティングとは、脳科学・深層心理を広告や市場調査に応用するマーケティング手法です。ニューロマーケティングでは、広告が引き起こす脳の活動を分析するために、装置を使用して被験者の脳波を測定します。脳波から顧客の無意識の反応を捉え、それをマーケティング戦略に活かすのです。つまり、ニューロマーケティングを活用すれば、顧客が気づいていない深層心理を把握できるため、製品や広告の効果を最適化する効果が期待できます。
ニューロマーケティングが注目を浴びるようになったきっかけは、コカ・コーラとペプシ・コーラを目隠しをした状態で飲み比べる「ペプシ・チャレンジ」を題材にしたMcClure氏などによる2004年の研究でした。
詳細は省きますが、この研究では、味にはほとんど差がないにも関わらず、ブランドイメージの強いコカ・コーラが消費者から選ばれやすいことが分かっています。ちなみに、ブランド名を隠した状態では、ペプシ・コーラの味のほうが消費者の評価が高かったとのことです。
以上のように、ニューロマーケティングは、脳科学と心理学で顧客の深層心理を解明し、効果的なマーケティング戦略を開発する手法と言えます。ただし、ニューロマーケティングを実施するためには、高度な脳波測定装置などの専門機器が必要です。
ニューロマーケティングに関心が集まっているのはなぜ?
ニューロマーケティングは、技術が進歩して実験に使用する装置が手軽に使えるようになってきたため、今まで以上に注目が集まっています。
アンケートやインタビューなどだけではわからなかった「深層心理」のデータを収集できるため、今後活用する企業が増えてくるのではないかと予想されているのです。以下で、ニューロマーケティングの魅力を深堀りします。
ニューロマーケティング3つの魅力
ニューロマーケティングの主な魅力は以下の3つです。
アンケートでは分からない「本音」がわかる
時系列に沿った「感情の変化」がわかる
消費者が何を選択するのか予測しやすくなる
それぞれの魅力を解説します。
1. アンケートでは分からない「本音」がわかる
ニューロマーケティングの魅力の1つは、アンケートではわからない顧客の「本音」が分かることです。モノが溢れている現代では、データだけでは分からない顧客の「深層心理=本音」を理解できるかどうかが鍵となるのです。
実は、アンケート・インタビューの調査結果と市場の動きにはズレが生じることがしばしばあります。両者にズレが生じる理由は、人の「意思決定のプロセス」が影響しているとのことです。
脳科学においては、人は無意識下で意思決定をした後に「理由づけ」をすると言われています。つまり、アンケートやインタビューでの「人の言葉=理由づけ」は、無意識を通り越している「たてまえ」というわけです。そのため、アンケート・インタビューだけでは顧客の「本音」はなかなか見えてきません。もちろん、顧客自身も「本音」に気づいていないのです。そこで、顧客の深層心理を解析できるニューロマーケティングを活用すると、顧客の本音が明らかになってきます。
2. 時系列に沿った「感情の変化」がわかる
2つ目の魅力は、時系列に沿った顧客の感情の変化が分かることです。
白鶴酒造では、シナジーマーケティング社の技術を用いたニューロマーケティングを行い、時系列に沿った感情の変化を特定しました。
具体的には、CMを見ている被験者の脳波(感情価・覚醒度)を算出し、アイトラッキング・簡易的なアンケートのデータを合わせて、感情を推論したのです。このような手法を用いることで、被験者がCMのどこでワクワクしたのか?どの部分に良い反応があったのか?などの感情の変化を、時系列に沿って特定できたとのことです。
上記の手法は、Webサイトの改善にも応用できそうですね。具体的には、どこを見ているかではなく、Web広告のどこを「集中してみているか」「見た時にどう感じているか」などを可視化し、そうすることで顧客の感情理解が可能になるのです。以上のように、ニューロマーケティングを活用すると、顧客の時系列に沿った感情の変化がわかります。
3. 消費者が何を選択するのか予測しやすくなる
ニューロマーケティングを行うことで、顧客の「本音」や時系列に沿った「感情の変化」が分かり、消費者が何を選択するのか予測しやすくなります。結果的に、製品や広告の効果を最適化できるというわけです。
実際に、中央大学の熊倉教授の研究でも、ニューロマーケティングの効果の1つとして「消費者の選択結果に対する予測精度を向上できること」が挙げられています。他の研究では、被験者が聞いたことのない新しい曲を聞いたときの脳波を測定し、市場でのアルバム売上を予想できたと報告されています。
以上のように、ニューロマーケティングを活用することで、消費者が何を選択するのか予測しやすくなるというメリットがあります。
ニューロマーケティングの主な指標
ニューロマーケティングには、人の無意識を可視化するために、以下3つの指標が活用されています。
生理指標:脳波・血圧・心拍数などの生体反応の数値で、感情の分析に有効。
行動指標:対象物を見た時の人の視線・反応・表情などの変化。
主観指標:インタビューやアンケートの内容。上記2つと掛けかわせると効果的。
上記3つの指標をかけ合わせると、より有効的な数値が算出できます。
ニューロマーケティングの主な技術
ニューロマーケティングでは、先述した指標を可視化するために、特定の装置や技術を使用します。主に以下の2つです。
アイトラッキング
アイトラッキングとは、眼球の動きを解析し、人の視線の移動や焦点がどこに向けられているかを計測する技術です。脳波測定に加えて使用されることが多いです。
アイトラッキングで顧客の視線パターンや行動を理解し、WebサイトのUIの改善やパッケージデザインの最適化などに役立つデータも収集できます。大手ビールブランドのアサヒビールも脳波測定に加えてアイトラッキングを活用しているとのことです。
fMRI
fMRIとは、MRIを使用して脳の活動を画像にする技術のことです。fMRIで脳内の活性化している部分を可視化し、被験者の直感的な反応を分析可能です。
fMRIを行うためには専門の技術者が必要なため、導入は容易ではありません。しかし、fMRIから得られるデータは高い信頼性を持つと言われているため、有効性の高い手法となります。前述の「ペプシ・チャレンジ」でも、このfMRIが活用されています。
ニューロマーケティングを活用した事例
ニューロマーケティングを活用している企業はたくさんあります。
例えば以下の3企業です。
アース製薬
スニッカーズ
アサヒビール
それぞれの活用方法をご紹介します。
アース製薬
アース製薬は、2023年にニューロマーケティングを活用して、パッケージデザインの新しい手法を確立したと発表しています。この手法では、被験者の脳波や視線を計測し、視認・好感・伝達の側面から多角的にパッケージを評価するとのことです。
アース製薬は、この新しい手法を確立したことで、顧客の本音を可視化でき、今までにないパッケージを開発できるようになったとしています。
スニッカーズ
チョコレートで有名なスニッカーズもニューロマーケティングを活用しています。具体的には「お腹がすいたらスニッカーズ」というキャッチフレーズをCMで多用し 、顧客の脳に刺激を与えるといった方法です。
このキャッチフレーズのおかげで、顧客のお腹がすいたときにスニッカーズを思い出させることができます。
アサヒビール
アサヒビールでは、脳波測定とアイトラッキングを活用したニューロマーケティングで、「アサヒもぎたて」のパッケージデザインを大胆に刷新しました。実際に、パッケージ刷新後、ユーザー数と購買数は増加しているとのことです。
ニューロマーケティングの課題
ニューロマーケティングはさまざまな企業で取り入れられており、大きな可能性を秘めているマーケティング手法です。一方で、まだまだ学術的課題を抱えている発展途上の手法でもあります。
完全に確立した手法ではないため、企業によっては、そもそも上司や社員に理解してもらうことが難しいかもしれません。そのため、ニューロマーケティングを取り入れる際には、一般的なマーケティング手法よりも工夫が必要になるでしょう。
しかし、ニューロマーケティングの持つ課題を乗り越え、効果的に活用できれば、今までにはない戦略を掴み取れるかもしれません。
まとめ
無意識下にある深層心理と、それを理解することに焦点を当てたニューロマーケティングについて深堀りしました。顧客の本音を探ることは、マーケティング活動において非常に重要な鍵となります。
ニューロマーケティングを通じて、未知の「顧客の感情」に耳を傾ければ、想像を超えた収穫があるかもしれません。
参考文献
ニューロマーケティング──選択の認知脳科学(最終閲覧日2023年11月7日)
ニューロマーケティングと意思決定研究(最終閲覧日2023年11月7日)
ニューロマーケティングの現状,課題そして展望(最終閲覧日2023年11月7日)
A neural predictor of cultural popularity(最終閲覧日2023年11月7日)
アース製薬、脳波・視線計測などを用いた商品パッケージデザインの新評価法を確立日本経済新聞電子版』(最終閲覧日2023年11月7)
大胆なパッケージ刷新の決め手は、脳波測定×アイトラッキング!アサヒビール「もぎたて」が仮説を検証『MarkeZine』(最終閲覧日2023年11月7日)
ヒトの無意識に注目! 「ホンネ」を引き出す「ニューロマーケティング」活用法『Web担当者 Forum』(最終閲覧日2023年11月7日)