ゲシュタルトの法則とは?
ゲシュタルトとは、ドイツ語で「全体」や「形態」を意味する言葉です。人の知覚はモノを見るときに、無意識のうちにひとつのまとまりとして捉える傾向をもっています。まとまりの中で、似ているものをグループとして捉えたり、左右対称の図形を見出そうとする傾向があり、それらはゲシュタルトの法則と呼ばれています。これはチェコ出身のドイツの心理学者、マックス・ヴェルトハイマーによって体系化された、ゲシュタルト心理学の基本概念でもあります。ちなみにゲシュタルト心理学の定義は、次のとおりです。
- ゲシュタルト心理学(Gestalt Psychology)
- 人の精神を部分や要素の集まりではなく、全体や構造に重点を置いて捉える心理学のこと。知覚心理学や認知心理学などにも受け継がれて、現代心理学に大きな影響を与えている。
たとえば、人は音楽を耳にしたとき、それをひとつひとつの音符の集まりとして捉えるのではなく、ひとつのまとまりをもった楽曲として捉えます。樹木を目にしたときも、1枚1枚の葉っぱの集まりだと捉えるのではなく、樹木全体をひとつの植物として認識します。同じように、果物が描かれた絵を見たときにも、それが線や点の集合だと捉えることはしないでしょう。全体的な枠組みで見て捉えて、「りんご」や「みかん」などと認知 します。
ビジュアルデザインにも影響を与える、ゲシュタルトの法則
このように、人の脳は視覚や聴覚を通して頭の中でまとまりのある構造をつくって認識する機能を備えています。多くのゲシュタルト派の心理学者たちはこの考え方からたくさんの錯視図形や法則を見出し、私たちが知覚している世界は、外界そのままの姿ではないということを示しました。ゲシュタルトの法則は、人がどのように図や文字を捉えるかを洞察する手がかりにもなります。代表的なプレグナンツの法則からご紹介しましょう。
プレグナンツの法則とは?
プレグナンツとはドイツ語で、「簡潔さ」を意味する言葉です。プレグナンツの法則は、人は自分の視野に与えられた図形をできるだけ簡潔な形として知覚する傾向にあるという考え方です。規則的で安定していて、シンプルな形をより見出そうとする傾向があり、代表的なものには次の4つがあります。
近接の要因

近接しているグループは、離れた場所にあるものよりも、関連性が高いように見える。たとえば、近くにある2本のタテ線同士がまとまったグループとして知覚される傾向がある。
類同の要因

いくつかの視覚情報がある場合、同じ種類のもの同士や類似のオブジェクトは、ひとまとまりに見えやすい。たとえば、白い点同士、黒い点同士がまとまったグループとして認知される傾向がある。
閉合 の要因

互いに閉じ合っているグループは、ひとまとまりに見えやすい。たとえば、タテ線に短いヨコ線を加えたために、中央のふたつが同じグループであるように認識される 傾向がある。
よい連続の要因

人の目線は、いくつかの曲線となりうる視覚情報があるときに、よい曲線(なめらかな曲線)を自然にたどる傾向をもっている。これは関連するものを識別させたいときに役立つ法則。
これらはUIデザインの基本ルール、CRAPとも共通している部分があります。
視覚の不思議な法則の代表、図と地

また、ゲシュタルトの法則を語るときに合わせて紹介される例の中に、有名な「ルビンの杯」(Rubin,1921)があります。私たちは何かものを見たり聴いたりする場合、その対象を「図」として、その背景を「地」として区別しています。図と地が入れ替わることで2通りの見え方をする図形を反転図形と呼び、その代表的な例が「ルビンの杯」です。
この絵を見たとき、「ふたつの顔が向き合っている」というゲシュタルトをつくった人は、顔の部分が「図」で、「真ん中の杯に見える部分」を「地」=背景として捉えています。逆に「これは杯の絵だ」と知覚した人は、高杯の部分が「図」で、顔の部分は背景である「地」だと捉えていることになります。また、視点を自分で切り換えて杯と顔を交互に見ることはできても、ふたつを同時に見ることはできません。だまし絵のようで面白いですよね。しかし、このような錯覚は 認知的には負荷にもなるため、デザインの際には図と背景を明確に区別することが大切になります。