
意味記憶とは?よく知られている知識や事実についての記憶

意味記憶(Semantic memory)とは、よく知られている知識や事実についての記憶です。一般常識のように特定の文脈からは独立している知見などについての記憶をさ し、エピソード的な情報を伴わない記憶であることが特徴です。エストニア生まれのカナダ人心理学者であるエンデル・タルヴィングは、エピソード記憶と意味記憶と呼ばれる性質の異なる2種類の記憶は、長期記憶に分類されると提唱しました。
記憶の種類「感覚記憶・短期記憶・中期記憶・長期記憶」

■ 記憶のプロセス
入ってきた情報を「感覚記憶」として保管する
情報が海馬で「短期記憶」としてとどまる
情報を復唱するリハーサルを行うことで「中期記憶」としてとどまる
特に重要な記憶は「長期記憶」として記憶する
意味記憶が分類されている長期記憶とは、中期記憶から重要な記憶としてピックアップされて長期にわたって定着する記憶のことです。長期記憶は言葉で記憶する「宣言的記憶」と、技能などのように動作で記憶する「手続き記憶」の2つに大別され、意味記憶は「宣言的記憶」の中に分類されます。
長期記憶に分類されている宣言的記憶とは?

宣言的記憶とは、言語的なレベルの長期記憶で、意識的に思い出すことのできる顕在的な記憶のことです。
■ 宣言的記憶の種類
「エピソード記憶」 特別な出来事や個人的なエピソードについての記憶
「意味記憶」 よく知られている知識や事実についての記憶
知識や事実についての記憶とは、たとえば「情報通信機器の操作能力や情報そのものを使いこなすスキルのことを、情報リテラシーと呼ぶ」というような一般常識や、あるいは歴史上の史実などの記憶をさします。辞書に書かれているような言葉の意味の記憶、教科書に書かれているような知識の記憶も意味記憶に含まれます。「知っている」ことがベースとなる意味記憶ですが、健常な高齢者の場合には加齢による衰えはそれほど見られないといわれています。
人が長期間脳内にとどめておける長期記憶の性質をより正確に理解するために、エピソード記憶と意味記憶の違いについては、さまざまな研究が蓄積されてきました。たとえばエピソード記憶が脳内の「日記」的な位置づけだとしたら、意味記憶は脳内の「百科事典」的なイメージに近いかもしれないと指摘されています。
以下に、タルヴィングの研究から「意味記憶」についての特性を抜粋しました。
エピソード記憶 | 意味記憶 | |
---|---|---|
単位 | 事象・エピソード | 事実・観念・概念 |
感情 | より重要 | 重要ではない |
想起される経験 | 記憶された過去 | 表出された知識 |
報告のスタイル | 「〜を覚えている」 | 「〜を知っている」 |
思い出されるもの | 特定のエピソード | 一般的知識 |
健忘症 | 影響あり | 影響なし |
「エピソード記憶と意味記憶の区分特性」(Tulving, 1983)をもとに作成
まとめ
長期記憶の中に分類される、意味記憶についてまとめました。意味記憶は、人が努力して覚えてきた知識の足跡がみえる記憶でもあります。エピソード記憶と意味記憶については研究者の間で統一見解がみられない点が多くあります。今後注目を集めそうな領域です。
参考文献
鹿取廣人 (編)・杉本敏夫 (編)・鳥居修 晃 (編)・河内十郎 (編) (2020).『心理学第5版補訂版』東京大学出版
仲 真紀子 (2010). 『認知心理学:心のメカニズムを解き明かす』 ミネルヴァ書房
服部雅史・小島治幸・北神慎司 (2022).有斐閣ストゥディア『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』 有斐閣
渋谷昌三 (2021). 『決定版 面白いほどよくわかる!心理学の本』 西東社
デルタプラス編集部(2020).『教養としての心理学101』デルタプラス
小松 伸一 (1998). エピソード記憶と意味記憶 失語症研究. 18(3), 182-188