感覚記憶とは?感覚器官でキャッチした情報をそのまま1~2秒ほどとどめる機能

ヒトは目や耳や鼻や手などの感覚器官でキャッチした情報を、そのまま1~2秒ほどとどめる機能をもっています。この機能を感覚記憶 (Sensory memory) と呼びます。感覚記憶は一時的な最も短い記憶です。その中で特に注意を向けた情報だけが脳に送られて短期記憶として取り込まれ、重要ではないと判断された感覚記憶は意識に残ることもなく消えてしまうのが特徴です。
こうした機能がある理由として、情報を保管する脳のキャパシティがあげられます。たとえば私たちが通勤や外出時に外を歩けばそれだけで、目や耳からさまざまな情報がたえまなく入ってきます。移動中どこかに触れれば、手からも感覚が入力されますし、匂いに関しても同様です。それらの感覚記憶をすべて脳まで運んでひとつひとつ記憶してしまうとインプットされる情報量は膨大になり、記憶の処理や整理が困難になってしまいます。そのため、重要ではないと判断された感覚については、情報を取り込む前に消去してしまう仕組みになっています。記憶のメカニズムのチャートを用いて感覚記憶がどのタイミングで出現するのか確認してみましょう。
記憶のメカニズムをわかりやすく図解

■ 記憶のプロセス
何かを見たり聞いたり体験する
重要ではない情報は感覚記憶として目や耳や手などの感覚器官で瞬間的にすべて保管されたのちに、必要でないものは次々に消えていく
目や耳などの感覚器官から入ってきた感覚記憶の中で重要だと判断されたものは、情報が脳へ送られる
神経細胞をつなぐシナプスが脳の中で情報を運ぶ
情報が海馬のワーキングメモリに運ばれて短期記憶として1分ほどとどまる
情報を何度もくり返し復唱するリハーサルを行うことで中期記憶として1時間から最長で1か月間くらいとどまる
中期記憶の中で特に重要な記憶は、長期記憶として長期間定着する
人は意味のない情報も瞬間的に記憶している
ではなぜ、感覚記憶というものがあるのでしょうか。そして感覚記憶はどのような場面で発生するのでしょうか。感覚記憶は五感を受け取る感覚器官で知覚されます。その中でも、視覚からの感覚記憶のアイコニックメモリと、聴覚からの感覚記憶のエコイックメモリの2つが代表的です。

視覚からのアイコニックメモリの持続時間は約1秒以内とされています。たとえば私たちが外出をするとき。道ですれちがう人や建物にぶつからずに歩いていけるのは、目から次々に入ってくる光景を瞬間的に記憶にとどめるアイコニックメモリが働くからです。
聴覚からのエコイックメモリの持続時間はアイコニックメモリよりも少し長く、5秒ほど持続するといわれています。たとえば車が近づいてきた音を感じたときなどに車を認識させるエコイックメモリが、置かれている状況を伝えてくれます。
アイコニックメモリもエコイックメモリも、基本的には意味のない情報です。ですからその瞬間だけ記憶されて、その情報から離れたり通り過ぎたら思い出すことなく忘れてしまうことが大半です。
アイコニックメモリの持続時間に関する実験
そんなアイコニックメモリの持続時間をどのようにして調べたのか、アメリカの認知心理学者のジョージ・スパーリン グによる実験を紹介しましょう。スパーリングはアイコニックメモリにおいて網膜に映ったイメージがどれくらい保持されているのかを調査しました。その実験の内容は次の通りです。
ランダムに取り出した数字やアルファベットを「3行×3列」、または「3行×4列」に並べた図版を用意する
実験参加者に図版を50ミリ秒だけフラッシュのように呈示して、その後、数字やアルファベットをいくつ答えられるかを調べる
個人差はあるものの、正答可能な文字数は平均4.5文字であることがわかった
網膜に瞬間的に映った情報は、そのまましばらく感覚器官に保たれていることがわかり、スパーリングはこれを視覚情報保存と呼びました。
ヒトがワーキングメモリに記憶できる項目の数は7つ
このように、記憶を保持する時間にはその長さに段階的にコントラストがついています。入っては消えていく膨大な感覚記憶の中で、「これは意味のある情報だ」と注意を向けられたものだけが、感覚記憶よりも少し長くとどまる短期記憶としてごく短時間だけ保持されます。
短期記憶とは、瞬間的に見たことや聞いたことを、その情報を必要とする間だけ覚えておくような記憶です。たとえば人から口伝えで携帯の番号やLINEのIDを聞いてそれをスマホに登録するまでの間とどめておきたいときなどに短期記憶として記憶されます。短期記憶は目の前の課題を解決するために一時的に保管される記憶なので、何もしなければ1分ほどで消えてしまいます。ここで「ものごとを覚えるときの記憶の順番と種類」について、改めて整理してみましょう。
