
平均以上効果とは?自身を過大評価してしまう心理傾向

平均以上効果とは、「自分は他の人と比べて平均以上である」と過大評価してしまう心理傾向をさします。別名「レイク・ウォビゴン効果」とも呼ばれています。この名前はアメリカの執筆家であるギャリソン・キーラが作品『レイク・ウォビゴンの人々』で描いた架空の村「レイク・ウォビゴン」の記述に由来しています。『レイク・ウォビゴンの人々』は、村の住民は容姿が平均以上の美男美女であり、彼らの子どもたちも平均以上に優れているなどの「錯覚した意識をもっている」という設定の小説です。
実際に人は誰でも自己評価をするときは無意識のうちに、自分の能力を平均以上に高くみつもってしまう場合が少なくありません。この自己に対する過大評価は、社会心理学の「優越の錯覚」や「優位性の幻想」などの心理効果によって起きる現象のひとつであるといわれています。
優越の錯覚:自分は優れた人間だと思い込むことで自尊心を高めようとする、無意識的に発動する心の防衛機制
優位性の幻想:他の人の資質や能力と比べて自分の資質や能力を過大評価してしまう、認知のバイアスがかかった状態
これらの心理学的な背景を含む平均以上効果を提唱したのは、アメリカのホープ大学の心理学者であるデイビッド・マイヤーズ です。彼が1980年に車を運転する人を対象に行った調査から、現在車を運転している95%の人が「自分は他の運転手よりも優秀だから、事故を起こすことはないだろう」と思い込んでいることが明らかになりました。
このような優越の錯覚に関する研究の多くは、アメリカ国内の被験者を対象とした研究にもとづき発表されています。また、優位性の幻想においては、各国の文化に依存する傾向があることも示唆されています。さらに東アジアの人々は、協調性を意識するあまり、自己を過小評価する傾向があることを示す研究も存在します。
能力が低い人ほど自己評価を高くし、能力が高い人ほど自己評価を低く見積もる?「ダニング=クルーガー効果」と「インポスター症候群」

このように、文化的な背景や地域によってもその影響度合いに差があることが示されている平均以上効果ですが、その他にも「能力や専門性、経験値の低い人が自分の能力を過大評価する傾向がある」とする研究が存在します。これは、コーネル大学のデイヴィッド・ダニング氏とジャスティン・クルーガー氏による説で、客観的な視点で自己を冷静に見つめられる能力の欠如が過大な自己評価につながるという点を指摘したものです。この心理傾向は、二人の名前からダニング=クルーガー効果と呼ばれています。
では、逆に仕事の場面で成功をおさめている人の自分に対する評価はどうでしょうか? 実はこちらについ ても、能力があるのに自己肯定感をもつことができず、自分自身を過小に評価してしまう「インポスター症候群」という心理傾向が知られています。インポスター症候群については、専門的な職業に従事する人や経営者などに多く見られる傾向で、専門職の人が集まるIT業界などでは比較的よく知られています。
症候群という病名のような名称がついていますが、この言葉を初めて使った研究者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスは、後に、もし最初からやり直せるなら私は「インポスター”体験”」という命名にしただろうと述べており、長期間放置しなければ心理的・精神的な障害にまでは至らない、誰にでも起こりうるひとつの「体験」であるとしています。もし、仕事における場面で自己肯定感をもつことが難しいと感じているようであれば、ご自身の仕事に対してポジティブな感情をもってみることをおすすめします。
まとめ
人が自分の能力を過大評価しがちであるという心理傾向、平均以上効果についてまとめました。平均以上効果については日本でも研究が行われています。たとえば日米の文化の違いが平均以上効果にどのような影響をおよぼすのかを調査した、「平均的な製品が選好される理由:日本とアメリカの比較を通じて」などの興味深い研究も少なくありません。ご興味のある方 はぜひ検索してみてください。
参考文献
Illusory Superiority『Wikipedia the free encyclopedia』(最終閲覧日2023年7月6日)
レイク・ウォビゴン効果『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(最終閲覧日2023年7月6日)
寺蔦裕登,高井次郎(2019).見知らぬ他者、友人、家族に対する利他性における平均以上効果 日本心理学会第83回大会発表論文集,225
堀江伸夫,山岸 聡(2015).平均的な製品が選好される理由:日本とアメリカの比較を通じて 日本心理学会第79回大会予稿集,225
ダニング=クルーガー効果『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(最終閲覧日2023年8月3)
インポスター症候群『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(最終閲覧日2023年8月3日)