
アンダーマイニング効果とは?

アンダーマイニング効果とは、やりがいや楽しさといった内発的な動機づけが、報酬などの外発的な動機づけを与えられることによって、逆に低下してしまうという現象をさします。UXデザインのプロセスにおいて、ユーザーの価値観や本音を把握するための「ユーザーインタビュー」を効果的に行いたいときに大きく影響しそうな心理です。教育心理学や認知心理学を専門とする、村山 航教授(イギリス・レディング大学)の論文「労働の動機づけにおける金銭的報酬と非金銭的報酬の役割」による定義は以下のとおりです。
アンダーマイニング効果の生物学的根拠
たとえば、それまで自発的に行っていたボランティア活動が、途中から成果報酬(金銭的報酬)が発生する有償の活動に変化してしまったとき。心理学の研究では、当初は自分が誰かの役に立てるという純粋な喜びから 「楽しさ」や「やりがい」(内的報酬)を得ていた行動が、知らず知らずのうちに金銭的報酬(外的報酬)目的の行動にすり替わってしまうことが指摘されています。労働には適切な報酬が必要です。しかし成果報酬が強調された場合は、報酬が思うように得られなくなってしまったときに、モチベーションやその行動に対する関心や意欲が、下がったり 薄れてしまう場合があることがわかっています。
「動機づけ」は人の行動を喚起するための大切な要因であり、モチベーションの大きな源です。人はモチベーションによって心に変化が生じて、それが行動にも移されます。 「報酬にまつわる逆効果な動機づけ」をはらんでいるのが、アンダーマイニング効果の注意したいところです。このアンダーマイニング効果は、脳の反応からも実証されています。前述の村山教授の論文から、被験者の脳画像を用いた興味深い実験をご紹介しましょう。
ストップウォッチ課題

実験の目的
アンダーマイニング効果と脳の働きを調べる
方法
実験参加者を、課題に対する金銭的報酬を約束された報酬群と、報酬の約束をしない統制群(非報酬群)にランダムに分ける
報酬群の最初のセッションは、報酬を約束された中で行った
報酬群の2回目のセッションは、報酬が約束されない中で行った
セッションとセッションの間には、休憩時間が設けられた
休憩時間中、自主的に課題に取り組んだ人数は統制群のほうが多かった
実験は機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging. fMRI)を用いて、参加者はfMRIスキャナの中で課題を実施した
2つのグループの脳の画像について、比較分析を行った
結果
課題に対する金銭的報酬を約束された報酬群の2回めのセッションは、約束されなかった非報酬群よりも、内発的動機が低下していることがわかった
(Murayama et al. (2010). 「アンダーマイニング効果の神経基盤を調べるための実験」より)
実験参加者たちには、ストップウォッチを時間通りに止めるという課題が与えられました。パフォーマンスに応じた金銭的報酬を約束された「報酬群」と、非報酬である「統制群」の2グループに分かれて、それぞれ2回のセッションを実施しま した。2回目は「報酬群」にも報酬が約束されないことが伝えられました。「報酬群」と「統制群」の「休憩時間中の行動」も調査しました。さて、結果はどうなったのでしょうか? 上記のように、報酬群の内発的動機は低下したことが示されました。注目したいのは、報酬を約束されない統制群(非報酬群)のほうが、休憩時間中も自主的に課題に取り組んだ人数が有意に多かったという報告です。人の意欲や好奇心は、報酬よりも大きくモチベーションに影響するのです。
また、報酬群のモチベーションの減少は、脳の活動からも明らかであることがわかりました。fMRIスキャナで撮影された被験者たちの脳の画像を、脳の動機づけや報酬を司る部位である線条体に注目して画像分析を行ったその結果、「報酬群」の2回目の画像は、報酬が約束されていた1回目の画像と比べて、線条体の活動が活性化されなかったことが示されたのです。つまり、動機づけを司る脳の反応が維持されなかったということです。対照的に、非報酬の統制群の画像では、線条体の活力が維持されていました。アンダーマイニング効果が生じる条件が脳の働きからも確認された、意味深い実験結果といえるでしょう。