
UXライティングとは?プロダクトの世界観を表現するライティング技術

UXライティングとは、UIデザイン上のボタンやフォーム、エラーメッセージなどに表示される文言に関するライティング技術のことです。デジタルプロダクトデザインにおいて、これらの文言には単に「意味を伝える」と言う役割を超えて、「プロダクトの世界観を作り出し、ユーザー体験を形作る」という重要な役割があります。また、UI上に表示されるこれらの短い文言は「マイクロコピー」と呼ばれ、UXライティング専門のスタジオ、ネマラの代表であるキネレット・イフラ氏の著書「UXライティングの 教科書」による定義は以下のとおりです。
ユーザーインターフェイスに付記するちょっとした言葉や短文のこと。これは、ユーザーが起こす行動に直接影響を与える。
・行動を起こす前にモチベーションを向上させる
・行動に伴って指示を与える
・行動の後にフィードバックを返すUXライティングの教科書
UXライティングの重要性:「機械的なUIに人間味を与える」

このようにUXライティングは、短い文章でありながらユーザーの行動を左右する重要な要素です。マイクロコピーの主な役割としては、以下のようなものがあります。
ユーザビリティを向上させる
機械的なUIに人間味を与える
ブランドの世界観を作り出す
おそらく、一番目の「ユーザビリティを向上させる」に関しては、多くのUXデザイナーが普段から意識して取り組んでいる部分ではないでしょうか?そして、その言語のネイティブスピーカーであれば、わかりやすい文章を書くことはそれほど難しくないかもしれません。しかし、わかりやすい文章を書き、ユーザビリティを向上しただけでは、UXライティングの本来の目的の一部しか達成できていないのです。
マイクロコピーには、「わかりやすくする」という役割よりも強力な「ユーザーの行動を変える」という力があります。これらは、「機械的なUIに人間味を与える」と「ブランドの世界観を作り出す」と言う2つの側面によって達成されます。次項では、具体的にどのような点に気をつければ効果的なUXライティングができるかについて、3つのチェック項目としてまとめています。
UXライティングを向上するための3つのチェック項目

では、「わかりやすい」を超えて、プロダクトの価値を高め、ユーザー行動を変容させるためのマイクロコピーを書くためにはどのような点に気をつけると良いのでしょうか?ここでは、
ブランドコンセプトを反映しているか?
人間味があるか?
ターゲットユーザーに合っているか?
という3つの基準を使って効果的なUXライティングのポイントを解説していきます。
1. ブランドコンセプトを反映しているか?
まず初めに、プロダクトやサービス内のすべての文章は、そのブランドのコンセプトに沿っている必要があります。これは、一般的にブランドガイドラインの中で「ボイス & トーン」として定義されるもので、「そのブランドがもし人間だったとしたら、どのような話し方をするのか?」というような観点でまとめられます。ユーザーとの全てのタッチポイントで、このボイス & トーンを一貫して表現することによって、ユーザーに対して特定のイメージを与えることができます。

例えば、「Appleの話し方」と聞くとどのような話し方をイメージするでしょうか?iPhoneの広告のナレーションやApple Storeのスタッフ、Siriの応答などから受けるイメージは、一貫性を持っていることがわかると思います。フレンドリーでありながら、自信に満ち、有益な情報を提供してくれる知的な印象も受けますね。このように、企業やサービス全体として、一貫性のある表現をすることが顧客に対して印象付けたいブランドイメージを与えることができるようになります。そのため、エラーメッセージなどのUI上の小さなマイクロコピーであってもサービス全体のボイス & トーンに沿った表現をしていることが求められます。
日本語でのマイクロコピーの場合は、ついつい真面目な表現になりがちですよね。堅実な印象を与えるというブランド戦略であれば問題ないのですが、Appleのようにフレンドリーな印象を与えたい場合は、丁寧すぎるマイクロコピーは逆にブランドイメージを破壊してしまう危険性があることに注意が必要です。この点は、後述の「話し言葉を使った表現」にて解決策を詳しく解説します。
ブランド全体のユーザー体験として考えたときに、もう一つ重要となるのが「言語的要素と非言語的要素の一貫性」です。マイクロコピーはあくまでもユーザー体験を形作るデザインの一部です。そのため、マイクロコピーがブランドコンセプトに沿っていることだけに注目するのではなく、デザイン上の視覚的な要素も合わせてブランドコンセプトを表現していることを確認しましょう。
2. 人間味があるか?話し言葉を使う

「人間味があるか?」は、日本語でのUXライティングにおいて最も課題となっている部分かもしれません。日本語でマイクロコピーを書く場合、「敬語 + 書き言葉」での表現が行われることが多いと思います。敬語での表現に関しては、サービスによっては変更することは難しいかもしれません。しかし、「書き言葉」の代わりに「話し言葉」を使うというポイントに気をつけるだけ でも、マイクロコピーは大きく改善します。
人間は、コンピューターとのインタラクションにおいても、人間社会でのコミュニケーションと同じ規範を用いて行動します。つまり、人間はコンピューターに対しても人間的な反応や対応を求めているのです。コンピューターの反応が機械的であれば、人間がそのコンピューターに対して感じる親密度は下がり、逆にコンピューターが人間的な振る舞いをするのであれば、より親密さを深め、エンゲージメントを高めていきます。前述のキネレット・イフラ氏はこの現象を次のように解説しています。
デジタル時代に以前に、言葉を使ってコミュニケーションを取るのは人間だけでした。ですから、誰かが言葉を使って私たちに働きかけてくると、私たちの脳は即座にその存在を人間として認識し、反応するのです。
UXライティングの教科書
これらを踏まえた人間味のあるマイクロコピーの表現のポイントは以下の2つです。
話し言葉を使う
ユーザーを主語として能動体での表現、または問いかけを使う
例えば、ECサイトに「来週のセール情報のご確認はこちら」というボタンがあったとします。これをユーザーを主語とした表現に変換すると「来週のセール情報をチェック」となります。「来週のセール情報はもうチェックしましたか?」といった問いかけを使うこともできます。このような小さな改善の繰り返しによって「人間味のある」ユーザー体験を作り上げることができます。
このような表現になっているかを確認する一つのポイントとして、キネレット・イフラ氏は「会話では口にしないような言い方をしない」というシンプルなルールを提案しています。これだけであれば、すぐに始められそうですね。
3. ターゲットユーザーに合っているか?
優れたUXライティングのための3つ目の基準は、「ターゲットに合っているか?」です。ボイス & トーン以外にも、使用する単語や表現などがターゲットユーザーに合っていることを確認しましょう。ターゲットに合った表現をするための簡単な方法は、ターゲットが使う言葉に合わせることです。同じ意味を持つ言葉で合っても、いろいろな表現がありますよね。年代や年齢、趣味趣向がターゲットとなるユーザーがどのような表現を使うの かを観察し、同じような話し方をすることで親しみを感じてもらうことができます。
UXライティングの実践的な勉強におすすめの本
今回の解説の中でも引用させていただいた、キネレット・イフラ氏の「UXライティングの教科書」では、優れたマイクロコピーを書くための基礎はもちろん、会員登録、ボタン、フォーム、プレースホルダー、エンプティステートなど、UIデザインでマイクロコピーが必要となるそれぞれのケースに対して具体的なマイクロコピーの例を事例付きで提示してくれています。サービス全体のUXライティングの見直しや、新規プロジェクトの立ち上げの際には一度目を通してみても良いかもしれません。
まとめ
UXデザインの中でも、誰でもできそうで意外と難しいUXライティング。しかし、効果的なマイクロコピーによる効果は大きく、改善時の費用対効果がとても高い施策でもあります。今回紹介したようなチェックポイントを使って、まずは今取り組んでいるサービスのマイクロコピーがどのようになっているか把握してみてはいかがでしょうか?