
近年、デザイナーの仕事がデザイン制作から、ユーザーの体験設計、さらには事業の未来を左右するようなプロダクト戦略の策定など、モノを作るという役割から「課題解決」にシフトしています。
そんな中、優秀なデザイナーの採用はどの企業にとっても重要な課題となっています。unprintedでは、メディアの読者である数多くのデザイナーにインタビュー調査を行い、デザイナーが転職の際に重視しているポイントや必要としている情報を調査しました。
本記事では、このデザイナーへのインタビューから得た情報をもとに、デザイナー採用戦略の設計方法を紹介します。自社の環境とデザイナーが求める企業像のギャップを特定し、自社の弱みを補う採用戦略を取り入れてみてください。
デザイナー採用は難しい?1人のデザイナーを4 〜 7社で取り合う状況
とにかくデザイナー採用は難しいといわれており、多くのデザイナーを採用しているテック系の大企業の担当者からも、デザイナー採用はエンジニア採用の次に困っているという声が聞こえてきます。
デザイナー採用の難しさには、大きく以下3つの要因があります。
日本におけるデザイナーの人口問題
知名度の高い大企業が採用市場に参入
多様化するデザイナーのスキルセット
デザイナーの人口問題。ひと月あたりの顕在転職者は150人程度?
公益財団法人日本デザイン振興会が2024年に公開した「デザイン白書2024」によると、日本のデザイナー人口は約20万人です。これにはグラフィックデザインやインダストリアルデザイン、建築など多様な分野のデザイナーを含みます。
この数はUI/UXデザイナーが多い「情報サービス業」や「インターネット附随サービス業」に絞ると34,850人となります。この中でも全員がUI/UXデザイナーというわけではないと推測されます。
制作会社が含まれる「デザイン業」の67,140人の中に一定数UI/UXデザイナーがいることを想定して多く見積もっても、UI/UX系の求人に応募できるスキルセットを持ったデザイナーは、2 - 3万程度なのではないでしょうか?(デザイン業の中でマルチメディア系事業所は14%なので、制作会社のデジタルデザイナーはWebデザインを含めても1万人程度)
デザイン部署の人数が公開されている企業の情報を見ると、大きな組織では一企業でデザイナーが数百名規模のケースもあるため、逆に日本全体のUI/UX系デザイナー数が数千人だけということもなさそうです。
LINEヤフーのデザイナー 約 500名
Goodpatch 約 250名
マネーフォワード 約70名
そして、有名求人サービス6サイトでUI/UXデザイナーの求人掲載企業を確認すると、1,000社以上あります。デザイナーの10%程度が毎年転職すると仮定すると月に150 - 250人程度が転職することになり、各社一名のみの募集だとしても4倍 - 7倍程度の有効求人倍率となります。
転職時に重視される企業の知名度。IT以外の業界にも広がるデザイナーの価値
デザイナーが生み出すビジネスバリューに注目が集まるにつれて、IT企業のみならず、自動車メーカーや電機メーカーなど、これまでデジタルプロダクトデザイナーの転職先としてあまり視野に入ってこなかった大企業も積極的にデザイナー採用を行うようになりました。国際的な知名度も高い企業と採用競争になることで、場合によっては数値上の有効求人倍率以上の採用難易度となるのではないでしょうか?
unprintedにて行ったデザイナーの転職に関するインタビューでは、年齢やデザイナーとしての経験年数が上がれば上がるほど、転職先企業の安定性や知名度を重視するという結果が得られています。
シニアレベルで転職を考えるデザイナーの年齢層が30代中盤 - 40代となり、自身のライフプランを考えた上で、組織内でのキャリアパスの見通しも良い大企業などが第一候補になるとのことでした。このようなデザイナーの転職先としては、大手のメーカーや外資系のコンサル企業などが魅力的になっており、ネームバリューのある企業にとっては有利な状況といえます。
多様化するデザイナーのスキルセット。職種名だけでは得意分野がわからない…
近年多くのデザイナーが口にする「自分はデザイナーなのだろうか?」という言葉。その裏には、デザイナーの担当領域が多様化しすぎた結果、ビジュアルデザインが得意なデザイナーや、リサーチが得意なデザイナー、ビジネス戦略まで考えられるデザイナーなど、デザイナーの守備範囲が非常にバラバラになっているという状況があります。
このような状況下で、職種名自体はもはや意味を持たないものとなっており、デジタルプロダクトデザイナーという肩書きを持っていても企業によって役割が全然違ったり、UXデザイナーでも情報設計が得意な人やユーザーインタビューが得意な人がいたりなど、職種名からでは企業も求職者も仕事内容がマッチするかを判断しきれないような状況となっています。
このような状況では、求人票だけでは表現しきれないような業務内容や実際の職務 のイメージを求職者に伝えるような工夫が求められます。自社社員のインタビューコンテンツをオウンドメディアに掲載するような施策も、自社企業にマッチするデザイナー像を求職者に伝える方法として多くの企業が取り入れ始めています。

デザイナー採用に必要なのは長期的なマーケティング視点?自社理解から適切なアプローチ方法の選択まで
このように難易度の高いデザイナー採用を成功させるために大きなヒントを与えてくれるのがターゲットを理解し、正しくアプローチする「マーケティング的な視点と手法」です。転職市場における自社状況の把握をはじめ、正しいターゲットペルソナの設定と、適切なターゲットへのアプローチの方法の選択が重要となります。特に顕在求職者数が少ないデザイナー採用では、これらを長期的な視点を持って行うことが求められます。
ここでは実践的な手法を交えながら以下の4つのステップでデザイナー採用の戦略の立て方を解説します。
自社理解
ターゲット理解
タッチポイントの創出
最初のアクションを促す
1. デザイナーが転職時に重視するポイントは?自社の現状を照らし合わせて弱みを把握
まず、採用担当者が一番気になる「デザイナーは転職時に何を重視しているか?」という点から始めましょう。これをもとに自社の強みと弱みの理解につなげます。
私たちが行ったリサーチでは、デザイナーが転職時に重視するポイントとして重要度順に以下の4つが挙げられました。
何をデザインするのか(デザインするプロダクトへの興味関心)
どこまでデザインするのか(担当範囲・裁量)
誰とデザインするのか(チームの雰囲気・規模)
何を使ってデザインするのか(デザインツール)
また、ジュニアデザイナーの場合は
企業理念への共感
成長機会
の2点の重要度も高くなり、シニアデザイナーの場合は特に年齢が高くなるにつれて
企業 の安定性・知名度
標準的な年収
が最低限必要な条件として挙がることが多くなります。
このようなデザイナー視点での企業選定基準と照らし合わせ、自社の強みと弱みを把握することがデザイナー採用への第一歩となります。その上で、弱みを補うような採用手法を取り入れることが求められます。
例えば、一般知名度の低いBtoBプロダクトを扱う企業であれば、メディアのタイアップ記事を活用した情報発信に力を入れて「インハウスデザイナーの活躍」や「誰とデザインするのか」に関する魅力をデザイナーに伝えることができます。一方、まだどの領域においても自社の魅力をわかりやすく伝えられないという場合には、人材紹介エージェントを利用して条件にマッチするデザイナーと面接を行っていくという手法を取ることもできます。
2. 採用ペルソナを設定し、ターゲットに自社の魅力を届ける
デザイナー採用市場における自社のポジションを把握すると同時に、自社が「どのようなデザイナーを必要としているのか」を明確にする必要があります。デジタルデザイナーのスキルセットは多種多様であるため、特定の種類のデザイナーを定義する明確な指標は存在しないというのが現状ですが、以下のようなスキルマッピングを行なっていくと、だんだんと求める人物像が明らかになっていくと思います。
ちなみに、専門領域と周辺領域それぞれに強みを持つデザイナーをT型デザイナーといい、シリコンバレーをはじめとした海外では近年特に注目されています。プロダクトマネージャー的な視点を持ってプロダクトに向き合っているデザイナーというとわかりやすいかもしれません。マネージャーレベルでデザイナーを採用する場合には、T型人材の採用を目指すというのも一つの方向性です。
これらデザイナーとしてのスキルセットに加え、その他自社が求める人物像を含めてペルソナを作ると採用ターゲットのイメージが明確になります。特にダイレクトリクルーティングサービスを利用する場合などは、このペルソナと照らし合わせながら求職者を探すと効率的です。
3. ターゲットの転職活動をジャーニーマップとして把握してタッチポイントを創出する
では、自社が求めるデザイナーはどこで何をしているのでしょうか?転職を検討する際の一般的なデザイナーの行動を把握できると、それぞれのタイミングで有効なアプローチを取ることができるようになります。ここでも役立つマーケティング手法として、カスタマージャーニーマップが情報の視覚化に最適です。
自社が求めるペルソナに当てはまるデザイナーから数回リサーチ目的でヒアリングを行い、デザイナーが転職を検討する際にどのような情報にどのようなタイミングで触れるのかを把握しましょう。すでにペルソナに当てはまるデザイナーが自社にいる場合は、社内でヒアリングに協力してもらっても良さそうです。そのほか、カジュアル面談などの機会に、普段どのような情報媒体に触れているのか、どのようなきっかけで転職を検討するのかなど、転職時のジャーニーマップに繋がるようなヒントをヒアリングしてみても良さそうです。
ここでは、一例として私たちが行ったインタビューにもとづいた転職ジャーニーマップを紹介します。これをもとに、ジャーニーマップのどこに入り込み、自社の求人コンテンツを届けるかという視点を持つことが重要です。インタビューの結果にもとづいた転職先の企業を探すときのユーザージャーニーは以下のような形になります。