ペンタグラム・ロンドンのマリーナ・ウィレール率いるチームが、ベルギー・ヘントの音楽ホール「ムジークセントラム・デ・ベイロック」のブランドアイデンティティを刷新した。デ・ベイロックは13世紀のシトー会修道院を病院として使っていた建物を会場とし、2000年以降クラシックから現代音楽までを上演してきた文化拠点である。今回の依頼は、既存の支持者の愛着を保ちながら新たな観客を呼び込み、文化的に多様で国際的に活動する場としての位置づけを示す「デジタルファースト」なアイデンティティの構築だった。
視覚言語の着想源となったのは、アメリカの作曲家ジョン・ケージである。とりわけ、音声信号を可視化するアナログ機器であるオシロスコープを用いた彼の型破りな手法が、ブランドの流れるような有機的なフォルムへと翻案された。ロゴには「うねり」と「渦」が取り入れられ、音符やト音記号、そして音波を思わせる柔軟で可変的なグラフィックが全体を貫いている。
書体には現代的なForma DJRが採用され、カラーパレットには会場の建築要素から抽出した「大人びたピンク、ティール、パープル、ブルー」が並ぶ。ウィレールはこの体系を、「過去・現在・未来のすべての瞬間に生きている」というタグラインを反映した「生きるアイデンティティ」と表現する。
注目すべきは、このアイデンティティが固定された記号の集合ではなく、生成的なツールによって絶えず再解釈され続ける仕組みとして設計されている点である。ジャズ、ニューミュージック、ファミリー向けといった多様なプログラムに応じて、同じ体系がしなやかに姿を変えていく。音楽という時間芸術の可変性を、視覚言語そのものの構造へと落とし込んだ試みだと言える。
由緒ある会場の歴史を尊重しつつ、その表現をデジタル環境で自在に展開できる余地を残す。デ・ベイロックの事例は、伝統的な文化機関がブランドを刷新する際に、静的なロゴではなく変化を前提とした「生きる体系」を選ぶという近年の潮流を、音楽という主題を通じて鮮やかに体現している。
出典: Pentagram's Marina Willer celebrates music as an art form in new work for De Bijloke









